「誰もが楽しめる卓球」を目指して —— 視覚障害者が考案した新競技「SSピンポン」が全国へ

金属球の入ったボールが転がる音が、静かな体育館に響きます。それは、見える人も見えない人も、共に楽しめるスポーツの始まりの合図です。三重県で誕生した「SSピンポン」は、サポートする側とされる側という関係を超えて、すべての人が対等に競技を楽しめる新しいスポーツとして注目を集めています。開発者であり、自身も視覚障害を持つNPO法人日本SSピンポン協会の理事たちに、その想いを聞きました。

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NPO法人日本SSピンポン協会の概要と設立背景

ーまず、貴協会の活動内容について教えていただけますでしょうか。

村井さん:私たちNPO法人日本SSピンポン協会は、障害の有無に関係なく、誰もが楽しめる健康的なスポーツ活動を提供しています。2015年に三重県で5人のメンバーで始めた活動は、今年でちょうど10周年を迎えます。当初から、スポーツを通じて人々が互いに理解し合い、共に楽しめる場を作ることを目指してきました。

私たちは視覚障害者向けのサウンドテーブルテニスという競技を楽しんでいますが、その際にボランティアの方々から多大なサポートをいただいてます。そうした中で、サポートしてくださる方々と一緒に楽しめる方法はないかと考えたことが、この活動の始まりでした。

黒田さん:私たちが大切にしているのは、障害者と健常者という区分けではなく、共に競技を楽しむ仲間としての関係性です。ただサポートする側とされる側という関係ではなく、スポーツを通じて本当の意味での繋がりを作りたいという思いが、この活動の根底にあります。

SSピンポンの競技としての特徴

ー通常の卓球とは異なる、SSピンポンならではの特徴について詳しく教えていただけますでしょうか。

村井さん:SSピンポンの最大の特徴は、音を中心とした独自のプレイ方式にあります。一般的な卓球のラケットにはラバーが貼ってありますが、私たちのSSピンポンはラバーを使用せず、板の部分だけで打ち合います。また、使用するボールの中には金属球が入っており、転がすと特徴的な音が鳴る仕組みになっています。

黒田さん:プレイスタイルはエアホッケーに近く、ネットの下をボールが転がっていく形になります。見た目以上にスピーディーな展開が特徴で、台上での打ち合いは150キロものスピードが出ることもあります。

村井さん:設備面での大きな特徴は、一般の卓球台を使用できる点です。私たちは専用の枠やネットの金具なども開発し、実用新案を取得して販売も行っています。また、普及活動を本格的に展開するため、「SSピンポン」という名称の商標登録も行いました。

参加者との関わり方とコミュニケーション

ーSSピンポンの活動に参加される方々との接し方について、特に意識されていることはありますか。

村井さん:私たちが最も大切にしているのは、参加される方一人ひとりに合わせた対応です。競技の特性上、初めての方でも楽しんでいただけるよう、それぞれの方の状況を見ながら、どのようにすれば楽しんでいただけるかを常に考えています。特に体に不自由がある方には、それをカバーしながら、楽しさを感じていただけるよう心がけています。

黒田さん:私自身が視覚障害者として活動する中で特に意識しているのは、まず自分の状況を相手に伝えることです。必要なサポートについても積極的に伝え、自然な形で関わりを持てるよう心がけています。このような姿勢が、参加者同士の自然な交流にもつながっていると感じています。

現在の活動状況と今後の展望

ー現在の活動状況と、今後の展開についてお聞かせください。

村井さん:三重県では現在6つの団体が定期的に活動を行っており、月に数回の練習会を実施しています。また、年に5回ほど約100名が参加する大会も開催しており、徐々に活動の輪が広がっています。今後は47都道府県への展開を目指しており、将来的には国体種目としての採用も視野に入れています。さらには、この活動を世界へ広げていくことも目標としています。

黒田さん:私は特に次世代への普及に力を入れたいと考えています。SSピンポンは、運動が苦手な子供でもすぐに楽しめる特徴があり、実際に学校のクラブ活動でも取り入れていただいています。先生方からも、普段運動が苦手な生徒が生き生きと参加している様子を評価いただいています。また、親子で楽しめる活動としても発展させていきたいと考えています。

記事を読んでいる方に向けたメッセージ

ー最後に、この記事を読まれている方へメッセージをお願いいたします。

村井さん:SSピンポンの最大の魅力は、実際に体験していただくことで初めて分かっていただけるスポーツです。特に印象的なのは、初めて体験された方々の「想像以上に面白い」という声です。運動が苦手な方でも、視覚に障害がある方でも、高齢の方でも、子供でも、誰もが楽しめる工夫が詰まっています。

また、教育関係の方々にもぜひ注目していただきたいと思います。学校での導入事例では、普段は運動に消極的な生徒が生き生きと参加する様子や、障害のある生徒とない生徒が自然に交流する機会が生まれるなど、教育的な効果も実感いただいています。

企業や地域の団体の方々には、新しいレクリエーションの選択肢として検討いただければと思います。世代や性別、障害の有無に関係なく楽しめる特徴は、多様な方々が集まる場での活動に最適です。

私たちは、興味を持っていただいた方のもとへ、どこへでも伺って体験会を実施させていただきます。「ちょっと話を聞いてみたい」という段階でも構いません。この記事を読んで少しでも興味を持っていただいた方は、ぜひ気軽にご連絡ください。SSピンポンを通じて、新しいコミュニティの輪を一緒に広げていければ嬉しく思います。