奄美大島を拠点に環境保全活動を行う、NPO法人ゆいむすび実行委員会。
海洋ごみ問題への取り組みや地域の学生との連携、環境教育の実践などの取り組みについて、代表の黒瀬さんにお話を伺いました。
環境問題に無関心な人へのアプローチ

ー 団体の概要についてお伺いさせてください。
黒瀬:環境問題に興味や関心がない方たちに向けて、どう環境問題に気付いてもらうかということを考え活動しています。
活動の概要は、ビーチクリーンと、海洋ごみや環境問題についての講話、そして普及活動としてのイベントの開催です。
ー 活動を始めたきっかけや経緯について教えてください。
黒瀬:元々、私自身が環境問題に対する関心が薄く、他人事のように感じていました。奄美大島に移住してきて、綺麗な海で写真を撮っていた時に、ゴミが映り込んだのです。
そのゴミを拾ったのがスタートで、1つ2つと拾っていくうちに、どんどん綺麗になっていく様子を見て、「手を加えれば環境問題を少しでも変えられる」と気づきました。
ビーチクリーン活動を2021年から開始し、そのうち「手伝うよ」「次はいつやるの?」と声をかけてくれる人が増えました。その後、メンバーが集まったことをきっかけにNPO法人を立ち上げました。
「他人事」から「自分事」へのきっかけ作り
ー 実際に行っている活動の内容について詳しくお伺いさせてください。
黒瀬:奄美大島は海外からのごみが多く流れ着く島です。地元では月1回の清掃活動はありますが、清掃活動の日以外はゴミが放置されています。
私たちは、環境問題を「他人事」から「自分事」にするきっかけとして、ビーチクリーンを行っています。環境に興味がない方にも参加してもらうため、「宝探しビーチクリーン」など楽しいイベント要素を加えています。
実際に活動に参加してごみの多さを目の当たりにし、「マイクロプラスチック化する前に一緒に拾おう」という気づきを得てもらうことが目的です。
この活動は個人や他団体にも広がり、ビーチクリーンが特別なものでなく普段から行う活動となってきています。
学生の主体性を育てる環境教育
黒瀬:高校の授業の一環として、奄美大島の環境問題を調べる学生が多くいます。そうした学生と連携し、学校単位でのビーチクリーンを実施しています。
活動が広がるにつれ、学生が「私たちでもビーチクリーンイベントを開催したい」と相談してくるようになりました。私たちは集客などをサポートし、学生主体のイベントを一緒に企画するケースも増えています。
環境問題に関する講話では、海洋ごみの話はもちろん、ウミガメの生態についても専門メンバーが講演をします。学校教員向けにも、マイクロプラスチックなど身近な環境問題について実物を見せながら説明しています。
また、年に1回「学生環境シンポジウム」も開催しています。学生が環境問題について調査・発表し、島外で活躍する環境団体や企業とのトークセッションも行います。
学生の取り組みを大人に知ってもらうだけでなく、環境団体や企業にとっても新たな視点や気付きを得る機会となっています。
島の特色と知恵を活かした活動
ー 貴法人ならではの取り組みや、特徴について教えてください。
黒瀬:世界自然遺産に登録された奄美大島の特徴を活かし、固有種が多い自然環境でのフィールドワークを重視しています。子どもたちと山に入り、固有種と外来種の違いなどを実際に体験してもらう活動は、他地域にはない特色です。
団体名の「ゆいむすび」は、島の言葉「水や山うかげ,人や世間うかげ」(みでぃはやまうかげ,ちゅはせけん うかげ)に由来しています。環境問題も山、海、人の暮らしが全て繋がっているという考えで、活動に取り組んでいます。
極端な考えを避ける環境教育
ー 活動を通じて学生と接する際に、特に意識していることや方針などがあればお伺いさせてください。
黒瀬:環境教育では「プラスチックが絶対悪」といった、単純な考えを避けるよう心がけています。プラスチックは元々森林伐採を防ぐために生まれたテクノロジーであり、生活に欠かせないものです。
大切なのは「100%なくす」という極端な考えではなく、適切な使い方を考えることだと伝えています。
漂着ごみについても「隣国が悪い」ではなく、日本のごみも黒潮に乗って他国に流れている事実を伝え、「お互い様」という考えを重視しています。
環境問題には白黒つけられない複雑さがあることを、子どもたちにも分かりやすく説明するよう努めています。
活動が不要になる社会」を目指して
ー今後、より強化していきたい点や取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
黒瀬:環境問題に興味がない方へのアプローチを常に試行錯誤しています。奄美大島は豊かな自然環境があるため、実際に来てもらうことでアプローチしやすい場所だと思っています。
もっと良い方法がないか、メンバーと切磋琢磨してこれからも考え続けていきたいと考えています。
「みんなが当たり前にごみを拾う」「1日1人1個でもごみを拾えばどんどん減っていく」ということが意識されれば、ゴミを拾うイベントを開催する必要がなくなります。最終的な目標は、私たちの活動が不要になることだと考えています。
ー最後に、読者の方に向けたメッセージをお願いします。
黒瀬:現代は簡単にたくさんのものが手に入る時代になっています。皆さんには「買い物の前に一瞬立ち止まって考える時間を持ってほしい」と思います。
そして、ぜひ奄美大島の自然に触れに来てください。実際に見て、体験してみることが大切です。