絵が上手になることよりも、「自分らしさを表現できるか」。アトリエ・アルケミストは、そんな価値観を大切にしながら25年以上続く絵画造形教室です。今回は、教室の成り立ちや教育方針、今後の展望まで、代表の羽田由樹子さんにじっくりとお話を伺いました。

ーまず、アトリエアルケミストの概要を教えてください。
羽田さん:アトリエ・アルケミストは、町田市で25年ほど続く絵画造形教室です。対象は4歳から上は70歳までと幅広く、小学生が中心ですが、大人の方もいらっしゃいます。クラスによっては親子での参加も可能です。
基本的な方針は「体験を通じて、自分の“好き”や得意を見つけていくこと」。月の前半はテーマ制作、後半は自由制作といったスタイルで、それぞれが自分の表現と向き合えるよう工夫しています。
ー自由制作だけでなく、テーマ制作を取り入れているのはなぜですか?
羽田さん:昔は完全に自由制作だったんですが、いざ「何でもやっていいよ」と言われると、子どもたちの手が止まってしまう場面が多くなったんです。知らない道具や材料は、目の前にあっても“選択肢”に上がらない。これは大人でも同じですよね。
そこで、最初にいろんな道具や技法に触れる「テーマ制作」の時間を作るようになりました。ハサミの使い方すら知らない子もいたので、基礎体験の場としてテーマ制作はとても大事だと感じています。
ー指導の中で特に大切にしていることは何でしょうか?
羽田さん:スタッフ全員に徹底しているのは、「上手」という言葉を使わないことです。誰かの作品を「上手だね」と言ってしまうと、他の子たちは“それが正解”だと感じてしまい、自分らしさを手放す原因になるからです。
だから、例えば「この色の組み合わせきれいだね」とか「すごくリアルだね」と、“現象”としての感想を伝えるようにしています。先生の価値観で子どもの表現を狭めないようにしています。
ー教室を始めたきっかけについても教えてください。
羽田さん:大学で美術を教えていたとき、学生たちが「自分の好きなものが分からない」と言うんですね。よく話を聞いてみると、小さい頃にものづくりの体験が少なすぎて、選ぶ以前に“知らない”という状態だったんです。
それで、「もっと小さい頃から体験できる場を作りたい」と思ったのがアトリエの原点です。最初のクラスは土曜だけ、小学生からおばあちゃんまで一緒に描いていました。
ー今ではクラスも分かれ、親子クラスや大人向けもあるそうですね。
羽田さん:そうですね。現在は小学生向けの「ちびっこクラス」や、親子で一緒に参加できる幼児向けクラス、イラストクラス、大人の自由制作クラスなどに分かれています。
イラストクラスではキャラクターを描きたいという子どもの思いを入り口に、絵画の技法も学べるようになっています。お母さま方から「キャラクターばかり描いていて大丈夫?」という声もありますが、実はとても深い学びに繋がっているんですよ。

ー他にはない特色やアピールポイントを教えてください!
羽田さん:アートだけでなく、理科や環境教育とも掛け合わせたプログラムを行っている点ですね。たとえば「理科で遊ぼう会」さんと連携して、マイクロプラスチックの実験や、牛乳でつくるカゼインプラスチックなど、科学の視点からも学べる内容を取り入れています。
また、年に一度、生きた羊を呼んで観察・スケッチをしたり、絵解きクイズを使ったコミュニケーションの課題を入れたりと、多彩なアプローチで「生きる力」を育てています。
ー卒業生が講師として戻ってくることもあるとか?
羽田さん:はい。卒業生が美術大学に進学して、今度は講師として戻ってきてくれることもあります。最初はボランティアとして1年間実習を経て、研修講座を受けてからスタッフになります。教室の楽しさや学びの深さを感じてくれたからこそ、戻ってきてくれるのだと思います。
ー今後取り組んでいきたいことについて教えてください。
羽田さん:コロナ禍で一時中断していた外部ワークショップを、再び活発に展開していきたいと考えています。地域との連携も進めて、アートと教育を組み合わせて何かできないかと考えています。
また、私は現在、小児科の先生のもとで博士課程で学んでいます。それは「手先の不器用さ」という発達障害の
知見を定型発達の子にも応用できないかと考えているからです。すごく技術的に高いものを持っている子・すこしグレーかもしれない子を含めた幅のひろい色々な子の育ちに有効なカリキュラムを作りたいと思っています。
ー最後に、入会を検討している方へのメッセージをお願いします!
羽田さん:絵を「上手に描く」ことを目的にするのではなく、「自分の“好き”を追求する」ことを大切にしたい方に、ぜひ来ていただきたいです。
最初は手を動かすだけだった子が、やがて「自分らしさ」に気づき、「もっと描きたい」と心を動かしていく――そんな変化が日々起こっています。
結果的にコンペに通る子も多いのですが、それはあくまで副産物。自分を信じて、やりたいことに夢中になれる経験が、何よりの学びになると信じています。
アトリエ・アルケミスト公式サイト