広島市を拠点に活動する「武心流空手道紲心会(ぶしんりゅうからてどうせっしんかい)」。
その名にある“紲(きずな)”という文字が示す通り、人と人とのつながりを大切にしながら、空手という武道の本質を守り続けてきた教室です。年齢や経験を問わず、多くの門下生が集い、自らの内面と向き合いながら成長を遂げています。
今回は、創設から18年という長い年月をかけて築かれてきた指導哲学や教室運営の姿勢、生徒との関わり方に迫りました。

子どもから大人まで──幅広い世代が集う、温かな空手道場
この教室には、下は5歳から上は60代まで、実に幅広い年齢層の生徒たちが通っています。誰でも無理なく参加できるように、一日の稽古時間を「一部・二部・三部」と段階的に分け、参加者のレベルや年齢に応じて柔軟な指導を行っています。
決して特別な経験や体力が必要なわけではありません。初心者も、空手に触れるのが初めての子どもも、大会経験のあるベテランも、皆がそれぞれのペースで、空手に取り組める環境が整っています。
この「開かれた空手道場」という姿勢は、地域に根ざした信頼の証でもあり、長く愛される理由の一つです。
原点は、師との出会い。「この空手は絶対に良いものだ」と信じて
教室を立ち上げた背景には、代表者自身の強い原体験があります。空手を始めたのは子どもの頃。そのときに出会った先生の存在が、今でも心に深く残っているといいます。
とにかく、その先生が大好きだったんです。そして、その先生が教えてくれた空手というものが、本当に素晴らしいものだと、心から思った。だから、この空手を広めたい、もっと多くの人に知ってもらいたいという気持ちが自然と湧いてきたんです。
その想いを胸に、この教室はスタートしました。そして今年で18年──一貫して変わらない理念と、着実に築き上げてきた信頼が、今の教室の礎となっています。
教室の強みは「正義を守る強さ」を教えること
この教室では、空手の技術だけでなく、精神性を非常に重視しています。教室の代表が子どもたちに伝えているのは、「自分が正義だと思うこと、大切だと思うものを守るために強くなりなさい」というメッセージです。
誰かをいじめるために空手を習うんじゃない。今の社会、無謀な行動をして怪我をしたり、人を傷つけたりするような力の使い方はしてほしくない。ただ、自分の家族だったり、仲間だったり、守りたいものを守るために、自分が強くならなければいけない──そう伝えています。
この理念は、ただの習い事ではなく「武道」としての空手を伝える、深い指導方針に根ざしています。
褒めて伸ばす、個別対応のきめ細やかな指導
指導において特に大切にしているのは、「否定から入らない」ということ。できていない部分を指摘するのではなく、まずは褒められるポイントを見つけて、そこから広げていくというスタイルです。
とにかく“駄目”ばかり言わないようにしています。最初はどんな小さなことでも褒める。それが本人の自信になって、少しずつ“できる”範囲が広がっていくんです。
このような指導は、一人ひとりの性格や成長スピードに寄り添う“個別最適”とも言えるアプローチ。大きな大会を控えた生徒には個別レッスンも行い、子どもたちの目標達成をサポートしています。
成績だけじゃない。努力を称える、心の表彰
大会で優勝する子もいれば、なかなか結果が出ない子もいます。しかし、この教室では、すべての子どもが称賛の対象です。教室内で開催する大会では、空手が得意でなくても「努力賞」として盾を贈るなど、すべての子どもに光が当たる仕組みを大切にしています。
やってもやっても勝てない子もいます。でも、そういう子にこそ“日の目を見る機会”をつくってあげたいんです。
このような取り組みは、単に勝ち負けだけを追求するのではなく、「努力する姿勢」を正しく評価する空手道場として、多くの保護者からも厚い信頼を得ています。
辞めない教室の秘密は「居場所でありたい」という思い
もう一つの特徴は、教室を途中で辞める生徒が非常に少ないということ。保護者の転勤など、やむを得ない事情を除けば、ほとんどの生徒が長く通い続けているそうです。
今来ている子どもたちは、本当にこの空手に来るのを楽しみにしているんです。だからこそ、私自身も無理をせず、体を大事にしながら、1日でも長く指導を続けていけたらと思っています
空手を“教える場”というよりも、“ともに生きる場”“安心して通える居場所”として捉えている姿勢こそが、教室が長く続く理由の一つといえるでしょう。
「やるからには、いっしょに頑張ろう」──これからの仲間へ
「やるからには、一緒に頑張っていきましょう。」それだけです。
入会時には道着や防具を揃えてもらう必要はありますが、まずは一歩を踏み出すことが大事です。その準備段階から、子どもたちの姿勢も変わってきます。空手を通して、礼儀や責任感も自然と身につきます
空手を習うことが目的ではなく、空手を通じて「人として成長していくこと」が、この教室の本当の目的なのかもしれません。
18年の歩みを超えて、未来へ──空手がつなぐ人生のストーリー
設立から18年──最初の門下生が最近、結婚の報告をしてくれたというエピソードが教えてくれたのは、「教室を長く続けることの意味」でした。
一番最初に入ってきた子から“結婚しました”って連絡があったり、進学や就職で他県に行くから宗師に報告したくてって顔を見せに来てくれたり、いろんな子たちが近況報告のために顔を見せに来てくれることが本当に嬉しくて続けてきてよかった。と思うんです。
そしてこれからも良い縁が増えていく。歴史というか月日の流れを感慨深く感じます。そんなふうに、人生の節々でこの教室がつながっていくような、そんな教室でありたいんです。
空手を教える場であり、人の人生にそっと寄り添う場所。武心流空手道紲心会は、これからも人と人との“紲(きずな)”を紡ぎながら、静かに、そして力強く歩み続けていきます。