【独占インタビュー】100人の大学生が運営する『特定非営利活動法人 E-nnovation』 – 教育現場の未来を創る挑戦者たち

教育現場が大きな転換期を迎える中、新しい学びの形が模索されています。探究学習の導入、教員の働き方改革、不登校問題など、学校現場は多くの課題に直面しています。  

そんな中、茨城県を拠点に独自の教育支援活動を展開しているのが『特定非営利活動法人 E-nnovation(イノベーション)』です。この法人の特徴は、約100名の教員望の大学生が運営の中心を担っていることです。大学受験予備校の校舎長を歴任した理事長のもと、従来の教育の枠にとらわれない新たなアプローチで、学校教育をさまざまな形で支援しています。  

他の教育NPOとの連携や探究学習のサポートなど、活動は多岐にわたるのですが、今回は、理事長の佐々木康喬氏に設立の経緯から今後の展望まで、詳しくお話を伺いました。

佐々木康喬 理事長

教育格差の解消を目指して -『特定非営利活動法人E-nnovation』設立の原点

ー 佐々木様、本日はどうぞよろしくお願いいたします!まずは、『特定非営利活動法人E-nnovation』ではどのような事業を展開されているのでしょうか?

佐々木 康喬理事長(以下敬称略):『E-nnovation』の主な活動は3つの柱で構成されています。

1. 探究学習のサポート

「探究とは何か」という本質的な問いからスタートし、教員とともに考え、その実践を支援しています。特に高校教員から「探究学習の進め方がわからない」という声が多く寄せられるので、県外の先進事例や全国の取り組みを紹介しつつ、バックアップ体制の構築を進めています。 

2. 学校内での学習支援

教員の働き方改革が課題となる中、教員の負担軽減の観点から、放課後学習のサポートなどを行っています。約100名の教員志望の学生が参加し、現場の取り組みを支えています。  

3. 地域と学校の連携の創出

探究学習では、専門家と交流したいというニーズが生徒にある一方で、教員にそのネットワークが不足している場合があります。そこで、学生が在学中からネットワークを作ることができるような支援をしています。  

また、他の教育NPOとも連携し、多様性やインクルージョンをテーマにした授業を小学生向けに展開しています。これが中学校の道徳教育や探究学習の基盤となっています。この点に関しては、市町村の教育委員会と連携し、カリキュラム導入を積極的に進めています。  

教育格差の解消を目指して – 設立への想い

ー 佐々木様が『E-nnovation』を設立されたきっかけについて教えてください。

佐々木:私は以前、地方の大学受験予備校で校舎長を務めていました。その中で、医学部予備校などの高額な学費が教育機会に経済格差を生んでいる現状に強い疑問を感じていました。  

そこで、予備校の校舎長時代には、学ぶ意欲のある生徒を支援するため、成績優秀者向けの学費免除制度を設け、数千万円規模の予算を投じる取り組みを行いました。当時は予備校の理事長から叱責されることもありましたが、学習意欲の高い生徒への支援は不可欠だと確信していました。   その後、茨城県の当時の教育長に相談したことがきっかけで、新しい構想が生まれました。それは、学校教育の中で塾や予備校のようなサポートシステムを構築するというものです。現在は教育の専門家に理事として参画いただき、その構想を実現しています。 

100名の学生が運営の中心に – 『E-nnovation』ならではの特徴

ー 『E-nnovation』の特徴的な点について教えてください。

佐々木:最大の特徴は、約100名の教員志望の学生が運営の中心であることです。茨城大学、茨城キリスト教大学、常磐大学、筑波大学など、県内の大学から多くの学生が参加しています。  

実行部隊は学生が主体で、私以外の大人は関与せず、企画立案から見積もり、実行まで全て学生が担います。これは将来教員となった際に、自ら企画を立案できる力を養うためです。また、茨城キリスト教大学の東海林宏司学長がアドバイザーとして参画し、教育の専門家による支援体制も整っています。 

未来の教育者を育てる – 人材育成のアプローチ

ー 学生たちの育成について、どのような方針で指導されているのでしょうか?

佐々木:学生には週1回の社会人研修を行い、言葉遣い、ビジネス文書作成、交渉力などの実践的スキルを学んでもらっています。特に、各市町村の教育長への挨拶に学生を同行させ、実地での経験を通じて成長を促しています。   私自身、塾や予備校で講師や運営に携わった経験を活かし、学生の育成に取り組んでいます。

論理力と表現力の育成 – 教育における重要課題

ー ホームページを拝見しましたが「論理力の育成」を重視しているように思えました。‟論理力”について、佐々木様はどのようなお考えをお持ちですか?

佐々木:論理力は、自己表現に必要な手段だと考えています。法人としては、河合塾の現代文科講師で、『はじめての入試現代文』(河合出版)の著者である木村哲也理事や、茨城大学特任教授の石井純一顧問の知見を参考に、独自のアプローチを展開しています。  

特に低学年層では、自分の考えがあっても、それを表現する言葉を見出せないケースがとても多いです。適切な語彙を学び、それを伝える筋道を組み立て、円滑なコミュニケーションを取ることが自己表現の第一歩につながると考えています。  

組織の発展と次世代育成システム

ー 設立から3年で100名以上の組織に成長されましたが、どのように人材を育成されているのでしょうか?

佐々木:私たちが「LDH方式」と呼ぶ独自の育成システムを導入しています。3・4年生がディレクターやプロデューサーとして1・2年生のリーダーを指導するピラミッド型の組織を構築しました。これは単なる引き継ぎではなく、実践的なリーダーシップ育成の場です。  

また、高校生向けの社会貢献団体「E-nnovation Academy」や、大学生向けの教育系サークル「Next E-nnovation」を展開し、高校生の時から教育について考える機会を提供しています。   人材育成の成果としては、教員採用試験の合格率100%を維持していることが特に誇らしいです。これは試験対策だけでなく、企画力、実行力、コミュニケーション能力を現場で身につけた結果だと考えています。

不登校・引きこもり支援への展開

ー 今後の展望について教えてください。

佐々木:特に力を入れたいのは、不登校・引きこもり対策です。運営側の学生からは採算面での懸念もありますが、地域の重要課題として取り組む必要があると考えています。  

茨城県の県北地域では人口減少に伴う学校統廃合が進む中、不登校の児童生徒が増加しています。教育委員会と連携し、彼らが適切な教育を受けられるシステムを構築したいと考えています。  

オンラインの活用も検討していますが、最終的には社会性を身につけるために外に出ることが重要だと考え、支援体制を整えていきます。  

未来の教育者へのメッセージ

ー 最後に、『E-nnovation』への参加を考えている方々へメッセージをお願いします!

佐々木:子どもたちの未来や社会を切り開きたいという想いを持つ方にぜひ参加してほしいです。教員になってからでは得られない経験がここにはあります。人間としての総合的な力を今のうちに身につけてほしいと思います。  

私たちは「教える」よりも「寄り添う」「同じ目線に立つ」ことを大切にしています。そうした考えに共感する方との出会いを楽しみにしています。  

目指しているのは、教員になった後も相談し合えるコミュニティの構築です。新人教員を含む支援の輪を広げ、教育現場全体の質の向上を目指します。   教育現場は課題を抱えていますが、だからこそ、若い力と新しい発想が必要です。『E-nnovation』は、こうした人材の育成を通じて教育の未来を切り開いていきます。