空手というと型や組手を厳格な形式で学ぶイメージが強いですが、総合空手道場『夢源会(むげんかい)』では、パンチやキックだけでなく、投げ技や関節技まで含めた総合格闘技としての空手を追求しています。世界王者の経験を持つ岩木秀之代表師範は、科学的・医学的知見に基づいた理論的な指導と、一人ひとりの個性を尊重した教育を実践。カラフルな道着を採用するなど、従来の空手道場の常識を打ち破る革新的な姿勢が特徴です。さらに「文武両道」の理念のもと、武道による心身の鍛錬と学業の両立を重視した指導を行っています。AIが急速に発達する現代社会において、単なる技術指導にとどまらず、「自分で考え、判断する力」を育てることを大切にする『夢源会』の取り組みに迫ります。

1971年3月21日生まれ B型 おひつじ座
現役時代の異名は『越後の虎』
2001年 北斗旗体力別全日本空道選手権大会・軽重量級にて優勝
2005年 第2回空道世界選手権大会 中量級世界王者
個性を伸ばす総合空手道場『夢源会』

ー岩木様、本日はどうぞよろしくお願いいたします!まず、『夢源会』はどういった方を対象にしている空手教室で、どのような指導を行っているのかをお伺いしてもよろしいですか?
岩木秀之代表師範(以下敬称略):対象年齢は年長さんから成人の方まで年齢上限なく、男女共に指導しています。私たちは個性を伸ばしていく指導体系を採用しています。一般的な空手や武道というと、パターンが決まっていて、皆をその通りに教育する統一教育が主流ですが、うちの場合は個性を見て、それを伸ばしていく形で指導しています。
道場の名前『夢源会』に込められた思いは、「夢の源を作る会でありたい」ということです。夢の形や本人に合った空手の形というのは人それぞれなので、そこを伸ばすお手伝いをしています。特に、子どもたちには自律心を促すような指導を心掛けています。
ー「総合空手」とは、どのようなものなのでしょうか?
岩木:これは私が造語的に作ったものなんですが、「総合格闘技」という言葉があるように、MMA(Mixed Martial Arts:打撃技、組み技、寝技などの格闘技の様々な技術を駆使して試合で勝敗を競う格闘スポーツ)のような総合的な格闘技を指します。空手というとパンチとキックのイメージが強いですが、総合格闘技としての空手を追求しているということで、私たちは掴み、倒し、投げ、締め、関節技など全部やります。
「型を破るには型を知れ」~自由な組み合わせで進化する指導法

ー個性を重視した指導は難しいと思いますが、何か意識されていることはありますか?
岩木:空手には‟組手”と‟型”があります。組手はスパーリングのような対戦、型はオリンピックでも競技種目になっている、決まった動作の連続です。しかし、私は‟型”というのは「昔の人が最善だと考えた長いコンビネーション」だと考えています。
誰もがそれに当てはまるわけではないので、私たちの道場では、パンチ、キック、投げ、締め、関節技といった基礎動作を厳しく細かいところまで指導しますが、その組み合わせは個人の好みや、なりたい自分、やりたい技に合わせて本人に任せています。
「空手だけじゃない」学力と体力を両輪に鍛える武道教室

ー岩木様が『夢源会』を設立した経緯やきっかけを、ぜひ教えてください。
岩木:以前は大道塾という全国・全世界組織の総合格闘技を追求している空手団体に所属していましたが、2014年に独立して『夢源会』を設立しました。その時は「文武両道」を掲げていて、稽古の後に学習塾の先生に来ていただいて学習指導もしていました。
このスタイルを実現するには独自の道場が必要だったので、独立したという経緯があります。現在は残念ながら塾の先生が廃業されてしまったため一時休業していますが、いずれ再開したいと考えています。
ー文武両道を目指そうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
岩木:学力と体力、この両方が社会の荒波を渡っていくために必要だと思っています。「空手さえやっていれば、あとはどうでもいい」「空手を頑張っているから勉強はしなくていい」という考えを子どもたちに持って欲しくなかったんです。
やるべきことをきちんとやった上で、自分のなりたい姿や自分がやりたいことを追求する。そういうことを小さいうちから知ってほしい、習慣づけてほしいと思い、両方を実践する道場にしました。
空手の「型」を超える「人間としての型」~真の強さを追求する道場

ー他の空手教室と比べて、『夢源会』の一番のアピールポイントは何でしょうか?
岩木:私たちの道場には一般的な空手の‟型”はありませんが、独自の考え方があります。また、道着が7色、8色あるカラフルな道場で、技もスタイルも型破りなことをやっています(笑)。
ただ、「型破りなことをやりたかったら、型を知ってから破れ(守破離)」という言葉があるように、私たちの考える‟型”とは、決まった空手の型を知ることではなく、「強くなるための法則」「自分を磨くための手段」です。例えば、自分のことは自分でやる、自分から声を出して分からないことは質問する、できないことをそのままにしないなど、人間として成長に必要な法則や型があります。
それらを学んでいくのが道場だと思っていて、武道にはそういう教材がたくさんあります。道場の中でそれを皆さんに伝えていったり体験してもらったりできる場所でありたいと思っています。
世界王者が実践する医学・科学に基づく空手指導
ー岩木様は実際に空手世界王者になられていますが、現役時代から科学的な指導法を模索されていたのですか?
岩木:そうですね。私は身長170cm、体重70kgほどの大柄な選手ではないのですが、突き詰めていくと、技や戦いというのは医学だったり科学だったりするものだと気づきました。
医学的知識があれば、どこにどういう角度で技を入れたら一番効果的かが分かります。また、スピードを出したり効果的なトレーニングをするには何を食べてどんな風にすれば良いのかという科学的根拠があります。
中には「藁千本突けばパンチが強くなる」といった伝統という形でまとめられている指導法もありますが、私は自分で納得できないものは先に進めないタイプなんです(笑)。なぜそうなるのか、どういう理由でそうなっているのかを考えていくと、突き詰めれば医学や科学に行き着くのです。そういうことを分析し、生徒さんたちに伝えています。
「聞く・録画する・録音する」~単なる反復から脱却する知的空手指導

ー生徒さんに指導する際に、特に意識していることはありますか?
岩木:「自分の体を使って、自分の時間を使って考えなさい」ということです。技は闇雲に繰り返して体に身につけるものではなく、まず頭で理解をしてからです。力学的なものやどうやったら効果的なのかを理解せずに繰り返すのは、ただのダイエット運動になってしまいます。
技を理解することがスタートなので、子どもたちには「止まってお話を聞くこと」「目で録画すること」「耳で録音すること」という、目や耳に残す力を伸ばすように言っています。これは道場だけでなく学校でも役立ちますし、そこまで行くと、やっと「人間教育」になります。
社会人も同じで、まずは人の話を聞き、そこから自分に必要なものを抽出して自分にコピーしていくことが大切です。「自分以外はみんな先生だ(我以外皆師匠)」という考え方が武道にはあり、人から学んで良い人間を目指す「人間力」を高めるために、まずお話を聞くこと、理解することから始めるよう指導しています。
年齢や目的に合わせた多彩なコース~動画で学ぶ「500円からの空手教室」まで

ー提供されているコースについて、簡単に教えてくださいますか?
岩木:大きく分けると、年長さんから中学生までの「少年部」、高校生以上から成人の方の「一般部」、40代以上の方の「壮年部」があります。一般部と壮年部の違いは、一般部は試合・大会出場などを目標とした方向けで、壮年部は健康作りや仲間作りが目的の方向けです。
ーホームページに掲載されている、「動画販売」についても教えていただけますか?
岩木:私たちの道場は、基本動作をとても大事にしています。その基本動作を技ごとに、「右のパンチ」「左のパンチ」「右の蹴り」「左の蹴り」「掴んでの倒し方・崩し方」「寝てからの関節技」などを、5分から8分程度の動画で解説しています。
初めて道場に来る方の予習教材になりますし、すでに格闘技をやっている方でも、例えばキックボクシングをやっているけど倒し方が分からないといった方が、部分的に気になる技を単品で購入できるようになっています。1つ500円程度の手頃な価格で提供しています。
購入された方からは、「道場では細かい説明がなく号令に従うだけだったが、力の入れどころやテコの応用など根拠が詳しく解説されていて理解できた」といった感想をいただいています。
「教える者こそ最も学ぶ」~仲間と共に高め合う夢源会の哲学
ー今後強化していきたい点や、あらたに取り組んでいきたいことはありますか?
岩木:「教えることで二度学ぶ」という言葉があります。黒帯が白帯に教える、中間の色帯が白帯に教えるといった時に、自分がインプットしたものをアウトプットすることで二回目の学びをするのです。
子どもたちにも「技を知った時、習った時から、誰かに伝えること、教えることを意識しなさい」と言っています。それにより自分も深く覚えることができるし、仲間も強くできます。レベルの中でより高い頂点を目指すのが私たちの関係です。
そういうことを道場で知ってもらいたいですし、学校や会社、別のコミュニティなどでも活かしてもらえたら良いと思っています。特に、体を使う競技は「自分はできるけど上手く説明できない」ということがよくあります。それを言語化したり、相手に伝わりやすい言葉を選んだりする能力は、ビジネスでのプレゼンなどにも役立つと考えています。
AI時代に勝つ唯一の武器「0から1を生み出す力」を空手で育てる

ー最後に、『夢源会』に入会しようと考えている方へ、メッセージをお願いします!
岩木:今、生成AIをはじめとして、コンピュータやAIが急速に発達しています。恐らく多くの分野で人間を追い越す日も近いでしょう。そんな時代に人間が本当に求められるのは、「0から1を生み出す創造力」と「独自の視点で判断する力」です。
便利な世の中になりすぎて、子どもたちは考えることを放棄しがちです。スマホで検索すれば何でも答えが出てくる。でも、それは使っているようで実は「使われている」状態なんです。自分の頭で考える筋肉が衰えていくんですね。
武道の素晴らしさは、試合の場に立った時、誰も助けてくれないこと。自分一人で考え、判断し、行動する力が試されます。この経験こそが、将来の自立や重要な決断の場面で活きてくる。私たちの道場では、単に技を教えるだけでなく、この「自分の頭で考え抜く力」を育てることを大切にしています。
これからの時代を生き抜くには、人任せではなく自分で道を切り開く力が必要です。『夢源会』での稽古を通して、AIには決して真似できない、本物の「人間力」を身につけてほしい。それが私たちの願いです。