自分で決めて、実行する力を育む場所 – アートスタジオ プチプペの20年

「自分で決めて自分で作る」をモットーに、20年間にわたって子どもから大人まで幅広い年齢層に創作の場を提供してきたアートスタジオ プチプペ。絵画から立体作品まで、様々な表現方法を学べる総合美術教室として、舩木さんが大切にしている教育理念についてお話を伺いました。

個性を生かす総合美術教室

ー アートスタジオ プチプペはどのような方を対象に、どのような指導を行っているのでしょうか?

舩木さん:子どもと大人が対象ですが、子どもに関しては通常の絵画造形教室と大きくシステム的には変わりません。時間も曜日も固定でやっています。

基本的には僕がカリキュラムを作成するのですが、子どもの中には年齢が大きくなってくると、具体的に「これが作りたい」とか「これを使って、これを作りたい」というのが子どもたちから出てくることがよくあるので、そういう子に関しては基本的にやりたいものを中心に進めています。

大人の方に関しては、共働きで仕事されている方も多く、仕事しながらも「絵を描きたい」「物を作りたい」という方もいらっしゃるので、「バイキング制」と呼んでいるシステムを導入しています。月額は固定、1か月に受講する時間は決まっているんですが、その時間内であればどんなことを学んでもらっても構わないという形にしています。

多様な表現方法を学べる環境

ー プチプペ様の教育方針や特徴について教えてください。

舩木さん:僕は元々美術大学で彫刻を学んでいたのですが、僕たちの時代から現代美術のような、一つの素材に縛られない表現が流行ってきました。

「画家だから絵しか描けない」「彫刻家だから立体しか作れない」ということではなく、ざっくり「アーティスト」と言われるようになってきて、平面作品から立体作品まで作れることや、様々な素材を扱える必要がある状況に美術の業界自体がなってきたのです。

美術教室という形を取りながらも、人形作りを前面には押し出していますが、それだけにとどまらず、パソコンでのものづくりや基礎的なデッサンなど、様々なことができる環境を提供したいと考えています。

平面作品を作りたいという人に、それが実現できる環境を提供したいという思いもある一方、大きく美術教室という形を取ることによって色々と手を出したい人にも対応できるよう、バイキング形式を採用しています。それが他の教室との差別化ポイントです。

20年の歴史と教室を開いたきっかけ

ー 教室を開こうと思ったきっかけはありますか?

舩木さん:元々教員になりたいという思いがあって教員免許も取得したのですが、教育指導要領を見ると、できる範囲が限られていることに気づきました。当時の教育指導要領では「美術」という言葉に対して「美しいものを美しいと感じる心を育てる」というようなことが全面に書かれていたのです。

しかし僕自身が癖の強い作品を作っていたので、美しいものだけが美術ではないと感じていました。僕が作っているものと、教育現場で教えることには矛盾を感じたのです。

自由にもう少し表現できる環境や、日本の子どもたちはあまり美術館に行かないけれど、海外の美術館では残酷なものも含めてさまざまな表現が子どもたちにも見られる環境にあるように、美術と呼ばれるものは美しいものだけではないということをちゃんと伝えたいという思いがあったのが、教室を開いた一番大きな理由です。

アピールポイントと強み

ー プチプペ様のアピールポイントや強みはありますか?

舩木さん:僕自身が作家として活動しているので、作家として活動していきたいという人にある程度サポートができるのは大きいと思っています。今までそう言ってきた若い子たちの中には、どんな業界でもそうだと思いますが、やってみたら辞めてしまう人が圧倒的に多いんですけど、中には今ギャラリーが付いて世界のアートフェアに出している子もいます。

また、別の例ではウサギファンのコミュニティ向けにウサギグッズを展開している生徒や、機関誌「うさぎ」のような雑誌の読者プレゼントになったり、「ウサフェス」というウサギのフェスティバルに出店してグッズを展開している方も過去にはいました。

業界によって活動方法も変わってきますが、とりわけクラフトと美術家という分野については専門的に活動したい人へのアドバイスができます。手取り足取りお膳立てするわけではありませんが、やる気があれば「これをやってみるといいんじゃない」というアドバイスができるのは大きな強みだと思います。

生徒指導の考え方

ー 実際に生徒さんを指導する際に意識していることはありますか?お子様と大人の方への指導方法の違いはありますか?

舩木さん:子どもに関しては、基本的に「ほったらかす」ということを大事にしています。僕も子ども時代に絵を描いたり粘土で物を作ったりするのが好きでしたが、習いに行ったことはなかったのです。祖父と一緒に住んでいて、祖父が仏像を趣味で彫る人だったので作業部屋があり、その片隅で粘土をいじっていました。素材と道具が身近にあって、いくらでも汚していいという安心して物作りができる環境があれば、好きな子は勝手にやって勝手に上手くなるんだと思うのです。

技術力を付けようとすると、絵画や造形はデッサンのように地道な練習が必要で、口出しをする必要があります。ピアノのように、技術力を付けるのは地味で時間もかかり、その日一日で何かができるようになったという実感を得にくいため、技術力を先に教えると嫌いになってしまう可能性があります。そのため、特に子どもの教室に関しては、技術力を付けさせるという行為はせず、アイディア力や自分で決めていく力、決定力を養う場所として指導しています。

大人の方に対しては、突っ込んで学びたい人と完全に趣味で楽しみたい人がいます。趣味の人は来るたびに少しずつ作品が完成する、または今日はここが進んだという実感が欲しいという方も多いです。大人の方には最初に一度来てもらって話を聞き、その人に対して適切な指導ができるか擦り合わせをしています。

完全に趣味という人にはその人の伸びしろを判断しながら少しずつアドバイスし、本格的に活動したい人には2、3年の長いスパンで計画を立てながら一緒に作品を作っていくという形です。

コースと料金体系

ー コースや料金体系について教えてください。

舩木さん:大人の方の場合、専業主婦の方だと週に1回決まった時間・曜日に来て生活のルーティンに組み込みたいという方がいる一方で、仕事をしている方は空いた時間に来たいという方もいます。そのため、1ヶ月に何時間来るかというコースで設定しています。

例えば、1ヶ月に4時間コースの人は、1ヶ月に1回4時間来ても良いし、2回に分けても良いという形です。基本的な時間は1回2時間としていますが、大人の方のライフスタイルに合わせて来る回数・時間に応じて料金も変わります。

子どもに関しては逆にルーティンにした方が良いので、基本的に曜日も時間も固定です。ただし、休んだ時の振替は対応しているので、家庭の事情や体調不良で休んでもその分が無駄にならないようにしています。

今後のビジョン

ー 20年やられてきた中で、今後のビジョンはありますか?

舩木さん:実を言うと、あまりないんです。たまにコンサル的なところから教室を増やしたり講師を増やしたりする話があるのですが、私にも恩師がいて、この教室が私の肌に合っていたという経験があります。物作りをする子はどちらかというと内向的で、家にこもって自分の世界に浸るのが好きなタイプが多く、中学・高校に入ると居場所がなくなりがちです。

私は大学受験で恩師に出会い、その方の生き方もフリーダムで、教室も自由度が高い(良く言えば自由度が高いけれど、悪く言えばめちゃくちゃな)ところでしたが、それが私にとって居心地が良かったんです。そういう場所を提供したいと思っています。

マニュアル化して誰でも実践できるようなものではないと感じているので、大きく拡大するつもりはありません。私が元気な間は続けて、私がいなくなったら終わる、くらいの気持ちです。居場所として大切にしていきたいと思います。

メッセージ

ー 最後に、プチプペ様への入会を検討している方に向けたメッセージをお願いします。

舩木さん:実はあまり積極的にメッセージというものはないんです。うちみたいなところに来なくても自由に創作できる場があったら幸せだと思います。ただ、今は賃貸に住んでいる人も多く、「子どもは絵を描いたり物を作ったりするのが好きだけど、家が汚せないから自由にやらせてあげられない」という親御さんもいます。そういう方は是非来てくれたら嬉しいです。

私の方から「こういう素敵なことがあるので、皆さんおいでよ」というような積極的な姿勢ではなく、「うちで良ければどうぞ来てください」という控えめな姿勢でいたいと思っています。