書道は「字を学ぶ」だけじゃない。人生に寄り添う晨慶庵の書道教室

札幌と横浜を拠点に展開される晨慶庵(しんきょうあん)書道教室。教室を主宰する加藤掌心さんは、書道の技術だけでなく、その背景にある意味や想い、そして人生そのものに向き合う指導を大切にしています。

書道を通じて生徒一人ひとりの成長に寄り添い、小さな成功体験を重ねていく。そんな教室の在り方について、丁寧に語っていただきました。

教室のかたちは、自由で柔軟に広がっていく

この教室は横浜のYC&AC(横浜カントリー・アスレチッククラブ)にて対面クラスを実施する一方で、Zoomを使ったオンラインクラスも展開しています。

特に札幌の生徒が多く、距離に関係なく学べる体制を整えています。年齢や経験を問わず、どこからでも書道を学べる環境をつくることは、今の時代に合った形だと感じています。

かつて札幌でしか対面指導を行っていなかった頃には、生徒とご飯を食べながら書に向き合ったり、まるで寺子屋のような雰囲気で過ごしていました。

今はオンライン中心になりましたが、その温かさや人との距離感はできる限り保ち続けたいと思っています。

成功体験を重ねることで書道が生きた学びになる

私自身はこの教室で段位や級位といった制度を設けていませんし、特定の書道会派にも属していません。けれど年に4回前後ある全国の競書大会には、生徒全員に出品してもらっています。

そこでは入賞できる生徒もいれば、初めて挑戦する生徒もいますが、全員が自分なりの「できた」という実感を得られることが大事だと思っています。

字を美しく書くという技術にとどまらず、書道と習字の違い、その背景にある文化や心の動きを伝えることで、書道が単なる習い事ではないことを体験してもらいたい。成功体験を重ねることが、自己肯定感や成長実感につながると信じています。

教えることを通じて、自分も学び続けてきた

私は5歳から書道を始めましたが、一度書の道から離れて別の人生を歩んでいました。アメリカである出来事がきっかけとなり、自分の作品を販売するようになり、帰国後にはお酒のラベルを手掛けたり、テレビ出演を経験したりもしました。

その後、芸能プロダクションを円満に退社した直後に東日本大震災が起き、札幌に戻る決断をしました。そこからこの教室を始め、今年で13年になります。最初は教えることに慣れておらず、まさに手探りでした。

でも、生徒とのやり取りの中で自分も学び、育ててもらったと感じています。教室は、教える場であると同時に、私自身が成長する場でもあるのです。

生徒一人ひとりの個性に応じた指導を大切に

この教室では、生徒一人ひとりに合わせて課題を出すようにしています。全員が同じカリキュラムではなく、それぞれのペースや興味に応じて指導を変えています。

そのほうが上達の実感が得やすく、自信にもつながるからです。

単に字を教えるだけではなく、文字の意味や成り立ち、その背景にある文化的な価値まで伝えるよう心がけています。文字を通じて物事の仕組みや人間関係の本質を学び、もっと言えば自分の生き方まで考えるきっかけになる。

だからこそ、書道の時間が豊かで意味あるものになるように、常に対話を大切にしています。

これからも変わらないものを大切にしたい

今後の展望としては、生徒の数を少しずつ増やしつつも、大規模な教室にするつもりはありません。

私が理想とするのは、昔ながらの寺子屋のような、あたたかく自由な空気が流れる場所です。他人の文字に刺激を受けながら、互いに学び合える関係を育てていきたい。

また、最近では日本語を学びたい外国人の方からの問い合わせも増えており、ひらがなを美しく書くというニーズにも対応しています。書道は書くだけが目的ではなく、身体を通して感じ、気づきを得る手段でもあります。

字を学びたいという気持ちを出発点に、それ以上の発見をしてもらえたら嬉しいです。

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