1883年(明治16年)に創設された獨協中学高等学校。
以来140年超にわたって男子教育に特化し、生徒一人ひとりの成⾧過程に合わせた教育を提供しています。
今回は古池俊明先生(入試広報室⾧)に、学校の特徴や生徒の成長を支える取り組みについて伺いました。
140年以上の歴史が育む教育理念

ー御校の教育理念や特色について教えてください。
古池先生:本校は1883年(明治16年)に創設され、今年で142年目を迎える歴史と伝統を持つ学校です。
近代国家としての日本の社会制度を整えていくにあたって、当時ヨーロッパで急速に力をつけていたドイツに倣い、その文化を摂取移入する目的として組織されたのが獨逸学協会(1881年)です。
その付属の教育機関として、2年後に設立されたのが獨逸学協会学校(現・獨協中学高等学校)になります。
創設当時は日本で唯 一ドイツ語を第一外国語として学ぶ中学校としてスタートしており、その流れは現在の外国語教育にも受け継がれています。
その一方で、ドイツとの繋がりが非常に深かったこともり、戦後は大変苦しい時期を過ごすことになります。
そのような中、獨協教育の再興を果たした人物が、第13第校⾧の天野貞祐です。
カント哲学者であった天野先生は、当時少し元気のなかった生徒たちを励まし、背中を押し、彼らの自己肯定感を高める教育をおこないました。
この教育観が現在にも脈々と受け継がれており、全教職員が学びを通して「人間教育」をおこなう理念をもとに、日々教育活動にあたっています。
以上の2点が、本校の大きな柱(特色)となっています。
「社会の優等生」の育成

ー生徒たちにどのような力を身につけてほしいとお考えですか?
古池先生:学園全体の理念は「学問を通じての人間形成」ですが、この理念を中高の成⾧過程に落とし込んだ教育目標があり、その言葉は生徒が日々携帯する生徒手帳の冒頭にも書かれています。
「心構えは正しく、身体は健康、知性に照らされた善意志とゆたかな情操とを持つ、上品な人間の育成を目指す」です。
何事も「やるぞ!」 という前向きな気持ちと、善いことをしようとする意思、そして豊かな精神と体力を持ち合わせ、きちんと挨拶ができて、他人を敬い優しくすることができる「社会の優等生」を目指してほしいと考えています。
この「社会の優等生」という言葉も天野貞祐の格言でありますが、現在の言葉に置き換えると、「自分の知識や経験を誰かのために使うことができ、他者を敬い、他者と共に社会貢献できるリーダー像」であると私は考えております。
男子の成⾧曲線に合わせたサポート
ー生徒さんが成⾧する中で、具体的に支援されていることはどういったことでしょうか?
古池先生:学習を例で挙げますと、自己肯定感を高めるために小テスト等はかなりの数をおこない、その都度乗り越えた時の喜びを実感してもらいます。
スモールステップを重ねることで、いずれ大きな自信と誇りを身に付けていけるようサポートしています。
また、英語に関しては、どの学年も週に最低6時間以上の授業数を設け、じっくりと時間をかけて取り組みます。
更にその6時間のうち2時間は活用の時間とし、4時間で身に付けた知識をアウトプットし、自ら発信する機会を設けています。
理科の実験のように身体で感じる体験のほうが男子は伸びます。
その特性を英語にも活かしています。
また、ネイティブ教員による英会話も日頃からおこなわれていますが、オンライン英会話にも力をいれています。
特に中学生の頃は恥ずかしがって話せない生徒も散見されますが、一対一でおこなわれるオンライン英会話の特徴(必ず話さなければならない、個々のレベルに合わせて実施できる等)を活かし、一人ひとりの成⾧過程に合わせて内容を設定しています。
最初はたどたどしさも見られますが、回を重ねるごとに英語に対する自信を身に付けてくれます。
なお、中学3年では年間15時間のオンライン英会話を設けています。
更には海外研修に関しても自己の成⾧過程や将来の目標に照らし合わせ、自身で場所やレベルを選択できるように設定されています。
現在はイギリス、アメリカ、ドイツ、ニュージーランド等で研修をおこなう機会があります。
自主性を育む環境づくり

ー技術や知識の習得以外で特に重視されていることはありますか?
古池先生:代表例を挙げますと、本校では四半世紀にわたって環境教育に取り組んでいます。
はじまりのきっかけは「ドイツ」であり、もともと環境先進国でエコ意識が高いドイツに倣い、本校でも積極的に活動しています。
現在はビオトープと屋上菜園を中心に取り組んでいますが、ビオトープには蛍が自生しており、毎年優しい灯りを照らしてくれています。
屋上菜園では江戸東京野菜を中心に食べられるものを中心に育てています。
これらの取り組みを通して、地球規模で起きている課題や問題を目の当たりにし、自分自身も地球(社会)の一員として、その解決に向けて努力する。
そのことがきっかけで、向社会的行動を起こすようになってくれることを目標に進めています。
現在では本校の取り組みが高く評価され、海外からの視察(ノルウェー、モンゴル)や、学会への招待、近隣小学校への出前授業など、活動の幅を広げています。
環境教育は知性、感性、思考力、道徳観等の非認知能力を高めることができる取り組みであると考えています。
6年間を見据えた進路指導

ー一人一人の進路希望にどのように対応されていますか?
古池先生:本校は完全中高一貫校のため、高校募集をおこなっておりません。
従って、カリキュラムも6年間、且つ2年ごとの3ブロックで設定しています。
中学1年2年は基礎学力養成期として、毎日の宿題と共に、手帳を使って時間の管理等を学ぶ他、授業も「書くこと」を中心に、自らの頭の中で学びを構造化する取り組みをおこなっています。
中学3年高校1年は論理的思考力を伸ばしていくことを目標に、1年間かけて研究論文に取り組む他、大学見学や講習等にも力を入れています。
高校2年3年では、より専門的なセミナーや講演会、高大連携等をおこない、一人ひとりが夢や目標に向けて具体的な将来を設定し、それぞれ受験に臨む態勢を整えていきます。
ーここ数年で変化したことはありましたか?
古池先生:中学では2021年度入試より午後入試がはじまり、大学では2022年度入試より併設校である獨協医科大学との高大連携(10名程度の系列校推薦枠)がスタートしました。
ICT教育も充実し、海外交流も盛り上がっています。
最近ではオンラインを通じて交流を持っていたインドネシアの学校と、対面で関われるようになりました。
その他、海外研修もここ数年で発展し、選択の幅も広がりました。
そして何よりも、ドイツとの関りがより深まったことも大きな変化として挙げられます。
現在でも本校では第2外国語でドイツ語を履修できます。
中学3年から授業で学ぶことができ、学年の3割は何らかのドイツ語授業を履修しています。
ドイツ外務省が運営するPASCH認定校(日本では6校)でもあり、様々な仕組みの中で世界基準のドイツ語を中学生から学べます。
また、ドイツの学校(2校)と交流を持ち、お互いの国を行き来する関係もここ数年で築くことができました。
その他、あまり知られていないですが、部活動においても全国的に活躍する部(アーチェリー部、英語ディベ ート部等)も増えてきました。
生徒が生き生きと活躍してくれています。
保護者との連携
ー保護者との連携について工夫されていることはありますか?
古池先生:中学生と言えど、男子はまだまだ幼い面が多々あります。
学習面は勿論、友人関係も含めた学校生活全般において、大人がサポートする必要があります。
特に本校は柔らかな雰囲気を持つ生徒、穏やかさが基盤にある生徒が多い学校ですので、比較的教員との距離も近く、生徒と関わる機会も多く設けています。
我々も何でも話してもらえるような環境作りに努めている中、保護者の皆様に助けていただくことも多々あり、日頃から感謝の気持ちで一杯です。
自主性を通して主体性が身に付けば、ある程度手を放し、遠くから見守る時期が訪れますが、そのタイミングは学校と家庭の両面での様子を共有することが欠かせません。
生徒にとって「大人が一丸となって応援してくれている」という安心感を与えられるよう、保護者の方々とは常に連携できるよう努めてい ます。
モチベーションを保つための工夫

ー生徒がモチベーションを保つために特に意識していることはありますか?
古池先生:私学には変わらない歴史と伝統、理念があります。
そのことを意識させることによって、単なる集団から、揺るぎない「共同体」へと大きく成⾧していきます。
共同体とは時を超え、空間を超えて繋がることができる関係であり、学校内外での活動、延いては社会に出た後も同じ目標を掲げることができます(社会の優等生)。
この考えを日々の学校生活全般に落とし込むことによって、その時々で先頭に立つ生徒が他者を牽引してくれるような環境が形成されていきます。
気持ちの移り変わりが激しい年頃でもあり、なかなか思うようにいかない時もありますが、生徒にとって安心安全な場を提供できるよう、学校を挙げて取り組んでいます。
また、同級生は勿論、縦の繋がりも深め、「教え合う」機会を定期的に設けることで、よりお互いが高め合える関係も築いていきたいと考えています。
今後の展望
ー御校ではどのような展望をお持ちですか?
古池先生:この4月から新たに就任した坂東広明校⾧が述べていますが、改めて教育方針の徹底を図ることで、学校を前進させていくことを目標に掲げています。
まずは何よりも全教職員が教育愛をもって生徒達と向き合うこと。
そして、生徒の自己肯定感を高めていける活動を積極的におこない、各自の才能を磨けるよう、様々な学びや体験の機会を設け、社会に目を向けさせ、向社会的行動を起こしていけるような取り組みを模索していきます。
先に述べたように、小さな成功体験が積み重ねていけるような学習の取り組み、学年に応じた高大連携、縦の繋がりを活かした職場体験やOB講演会、高校生が中学生を教える機会などを多く取り入れていきます。
その他、社会貢献活動(現在でも炊き出しや子ども食堂等にも参加しています)や、環境教育の充実、海外研修ではターム留学(高校1年3学期の約2か月半)もはじまります。
ドイツ関連につきましても、今年度もドイツ政府の招きで3名の生徒がベルリンを中心とした研修に参加する予定です。
そして何よりも、一生涯の友人関係が築けるよう、特別活動も積極的におこなっていきます。
本校は定期試験後に必ず「学年企画(学年毎に自由な活動をおこなう日)」を実施しており、様々な場所へ赴き交流を深めています。
前述しましたが、生徒の様々な活動を通して、学校全体が生き生きとしています。
この流れを最大限盛り上げていけるよう、今後も新たな挑戦と発信を続けて参ります。
受験生へのメッセージ
ー入学を検討されている方へメッセージをお願いできますか?
古池先生:受験生の皆さんには、是非とも自分の足で希望の学校を訪れ、パンフレットでは表現することができない「学校の空気感」を体感してみてください。
多くの在校生が、足を一歩踏み入れた時の印象や空気感が「受験の決め手」になったと話しています。
また、日々大変な受験勉強が続いていますが、学びの根底にあるものは「興味関心」であるということも忘れないでほしいと願っています。
受験を主眼に置くと、点数や判定、偏差値や合否結果に意識が偏りがちですが、本来学びは数値だけで判断するものではありません。
「知らないことを知れた時の喜び」こそ、皆さんを大きく成⾧させ、時に背中を押してくれる助けになります。
獨協は学びを通じて「人間教育」をおこなう学校です。
是非本校に興味を持っていただけましたら、大切な6年間をご一緒させてください。
皆さんの健闘を心より応援しています。