「利他の心」と「確かな学力」を両輪に“ダイヤの原石”を磨く教育とは – 岡山学芸館清秀中学校・高等部が目指す6年一貫教育

急速なグローバル化が進む現代社会において、次世代を担う子どもたちにどのような教育を提供すべきか。この問いに対する一つの答えを示しているのが、『岡山学芸館清秀中学校・高等部』の取り組みです。

同校は、「世界で活躍できる立派な日本人を育てる」という理念のもと、学力だけでなく、日本人としてのアイデンティティや利他の心を大切にした教育を実践しています。特に注目すべきは、中学1年生から高校3年生までの6年間を通じて行われる、充実した体験プログラムと探究学習です。生徒たちは自ら選択した活動に取り組みながら、自己を見つめ、将来の目標を明確にしていきます。

今回は教頭の橋ケ谷多功(はしがや たく)様に、同校独自の教育理念や特色、そして生徒一人一人に寄り添った進路指導の特徴についてお話を伺いました。確かな学力と豊かな人間性を育む同校の取り組みをご紹介します。

「利他の心」を持つ日本人としての教育理念

ー『岡山学芸館清秀中学校・高等部』の教育理念や特色についてお聞かせください。

橋ケ谷多功 教頭:本校は岡山学芸館高校に接続する併設型の中高一貫校です。「世界で活躍できる立派な日本人を育てる」という理念のもと、6年間の一貫教育を通じて、生徒一人一人の成長をサポートしています。

特に重視しているのが、目に見えない「根っこ」の部分です。道徳心、倫理観、誠実さ、忍耐力といった、成果を下支えする要素をしっかりと育てていきたいと考えています。東大合格や全国大会出場といった目に見える成果も大切ですが、それらを支える人間性の育成に、より重点を置いています。

ー「利他の心」を重視されているとホームページで拝見しましたが、その背景を教えていただけますか?

橋ケ谷:利他の心は、日本が世界に誇れる道徳感や価値観の最たるものの一つです。昨年(2023年)お亡くなりになった前理事長が「日本人としての利他の心は、教育理念として確かに持っておかなければいけない」と考え、長年にわたって理念の中心に据えてきました。現代社会において、この価値観が薄れつつある中で、私たちは敢えてこれを大切にしています。

体験と探究を通じた自己形成

ー生徒の皆様にどのような力を身につけてほしいとお考えでしょうか?

橋ケ谷:第一に、確かな「本学※」をしっかりと身につけてほしいと考えています。進学実績やスポーツでの成果も大切ですが、それ以上に、アイデンティティをしっかり確立し、利他の心に基づく確かな人間力を身につけることを重視しています。

特に中学1、2年生の時期には、様々な体験をさせることを重視しています。生徒が自分で選択できるプログラムを多く用意し、興味関心のあることに対して考え、行動するチャンスを作っています。

そして、中学3年生ではタイ・カンボジア研修旅行を実施しています。

さまざまな活動を通じて、生徒たちは自分のやりたいことを見つけ、なぜ大学に行きたいのかという明確な目的意識を持つことができます。

※「本学(ほんがく)」はその目的や背景を教える学問。「末学(まつがく)」は手法や手段を教える学問。

生きた学びを体感する、岡山学芸館清秀中学校のタイ・カンボジア研修

ー岡山学芸館清秀中学校の「タイ・カンボジア研修」は一生涯、心に残る研修と聞きました。詳しくお聞きしてもよろしいですか?

橋ケ谷:本校では、中学3年生がタイとカンボジアを巡る9日間の海外研修を行います。この研修は「経験」という言葉では表現しきれないほど深い学びと感動を生徒たちにもたらします。異なる環境や文化で生きる人々との交流を通じ、生徒たちは「世界を自分ごと」として捉え、主体的に考え行動する力を身に付けます。

タイでの学び:笑顔の裏にある現実

橋ケ谷:研修はタイ王国での訪問から始まります。生徒たちは、ラモン・マグサイサイ賞やロックフェラー賞を受賞したプラティープ氏が主宰するドゥアン・プラティープ財団を訪れます。バンコク中心部にあるクロントイスラムで、スラムの現実を五感で体験。続いて、同財団が運営する「生き直しの学校」を訪問します。ここでは、家庭を離れざるを得なかった未就学児から高校生までが、集団生活を送りながら教育と食事を通じて「生き直し」の機会を得ています。

生徒たちは、困難な環境にもかかわらず、日々笑顔で生活する子どもたちの姿に心を揺さぶられます。「幸せとは何か?」「どうして彼らはそんなに笑顔なのか?」といった問いが次々と生まれ、価値観が大きく揺さぶられる体験となります。

カンボジアでの学び:未来を切り開く力

橋ケ谷:カンボジアでは、有森裕子氏が主宰するNPO法人ハート・オブ・ゴールドが運営するNCCC(ニューチャイルドケアセンター)を訪問します。ここでは、様々な背景を持つ子どもたちが集団生活を送りながら教育を受け、社会へと巣立っていきます。訪問中、生徒たちは心からのおもてなしを受け、その姿に胸を熱くします。

研修の夜、生徒たちはその日の経験をディスカッションし、自分なりの解釈を深めます。国際支援や協力の意義について真剣に考える中で、彼らの視野は広がり、他者と自分を見つめ直す貴重な機会となります。

ももたろう日本語学校:学ぶ意義を再発見

橋ケ谷:さらに、生徒たちは「ももたろう日本語学校」を訪問。ここでは、旅行ガイドや日本で働くことを目指す同世代が、必死に日本語を学んでいます。その姿に触れることで、生徒たちは「学ぶこと」や「努力すること」の価値を改めて捉え直し、自身の学習環境への感謝を深めます。

学びを未来へつなぐ

橋ケ谷:研修の成果は一過性のものではありません。岡山学芸館では、NCCCやももたろう日本語学校から毎年1名ずつの留学生を1年間受け入れています。海外で出会った同世代と再会し学びを共有することで、研修での経験はさらに深い意味を持ち、生徒たちの成長に繋がります。

このタイ・カンボジア研修は、生徒たちにとって一生涯忘れることのない貴重な体験であり、世界を知り、自分自身を見つめ直す旅として心に刻まれています。

進路実現に向けた独自のアプローチ

ー受験指導についての基本方針を教えてください。

橋ケ谷:本校の特徴は、一般入試と推薦入試の両方に対応できる進路指導を行っていることです。表面的な志望理由では大学に通用しない時代になってきていると考えており、一般入試であれば偏差値一辺倒、推薦入試であれば活動一辺倒というアプローチは避けています。

高校1年生の段階から、生徒一人一人と丁寧な面談を重ね、なぜ大学に行きたいのか、なぜその大学を第一志望とするのかについて、じっくりと考えさせています。特に最上位層の生徒たちについては、東大や医学部医学科を目指す理由が、教員や保護者からの期待ではなく、自分自身の強い意志に基づくものであることを重視しています。

ー「メタ認知能力の向上」についても力を入れられているそうですね。

橋ケ谷:はい。私たちが定義する自己肯定感とは、良い時の自分も悪い時の自分もしっかりと認識できるメタ認知能力のことを指しています。これは非常に難しい課題ですが、教員との対話を通じて、勇気づけや気づきを促すファシリテーションを行っています。

私たち大人の経験則から判断すると、辛い時期や不安な時期を自分で乗り越えた経験こそが、人間形成に大きな影響を与えていることがわかります。そのため、そういった経験を大切にし、生徒たちの成長を支援しています。

生徒と保護者に寄り添うサポート体制

ー保護者との連携について、工夫されている点を教えてください。

橋ケ谷:本校では三者懇談を丁寧に実施していますが、それ以上に「対話」を重視しています。表面的なコミュニケーションではなく、本音で話し合える関係づくりを目指しています。これは教員と生徒、教員と保護者、保護者と生徒の間で、それぞれ大切にしている点です。

また、「親学(おやがく)講座」という独自の取り組みを行っています。これは、ご両親も一緒に学ぶ機会を設けるもので、保護者教育相談員の先生が担当しています。大学進学に関することから、現代の子どもたちを取り巻く環境まで、幅広いテーマを取り上げ、専門家を招いて講演していただくこともあります。この講座を通じて、保護者の方々にも自己理解を深め、お子様との関わり方について考えていただく機会を提供しています。

今後の展望とメッセージ

ー今後の展開についてお聞かせください。

橋ケ谷:進学校として高い学力・教養を育成しつつ、確かな人間力を養成することに一層注力していきたいと考えています。そのために、体験・経験の選択肢をさらに増やし、より多くの生徒に自己肯定感を身につけてもらえるようなプログラムを展開していく予定です。

ー最後に、受験を控えた生徒さんや保護者の方へメッセージをお願いいたします!

橋ケ谷:生徒の皆さんには、「自分は何だってなれる」という高いポジティブ思考を持ってほしいと思います。新しい自分、気づいていない自分は、たくさんの場所に隠れています。それを掘り起こすためには、様々なことにチャレンジし、多くの経験を積み、いろいろな考えを巡らせることが大切です。

保護者の皆様には、お子様を決めつけることなく、様々な可能性を秘めたダイヤの原石として見守っていただきたいと思います。私たちは「作られた人を作りたくない」という思いを持っています。最終的には自分で自分のことをしっかり決められる強い人間に育っていけるよう、学校と家庭が二人三脚で教育に取り組んでいければと考えています。

自己肯定感に基づいて自分自身を作り上げていってもらえるよう、私たちは環境整備を進めていきます。生徒一人一人が持つ可能性を最大限に引き出せるよう、これからも全力でサポートしてまいります。