全国でも数少ないIT専科の公立高校として、茨城県立IT未来高等学校では、論理的思考力・プログラミング力・情報活用能力・英語力・プレゼンテーション力という5つの力を軸に、生徒の主体性を重んじた教育を展開しています。
企業との連携による実践的な学習環境や、生徒の発案による革新的な取り組みなどにより、注目を集めている同校。今回は、校長の辻󠄀 武伺(つじ たけし)先生と、教頭の倉橋 琢也(くらはし たくや)先生にお話を伺いました。
IT人材育成の明確な理念と5つの重要スキル

ー御校の教育理念や特色について教えてください。
倉橋先生:本校の教育目標は、豊かな人間性と起業家精神を兼ね備えた、次世代を担うIT人材の育成です。
生徒に身につけてほしい力として、「論理的思考力」「プログラミング力」「情報活用能力」「英語力」、そしてプラス1として「プレゼンテーション力」の5つを掲げています。
これからのIT人材が社会の中で活躍し、仕事を獲得していくためには、海外との関わりも不可欠です。そのため、英語力やプレゼンテーション力は特に重要だと考えています。
企業連携によるITセミナーと実践的な学習体験
ー生徒の皆さんや先生方が力を入れている行事はありますか?
倉橋 先生:力を入れている取り組みの一つに、「ITセミナー」という総合的な探究の時間があります。
このITセミナーを、本校では学校設定科目として設けており、この授業を中心にさまざまな行事や学習活動が展開されています。
辻󠄀先生:ITセミナーでは、外部講師、特にIT企業の方々をお招きし、最新の業界動向や今後必要となるスキルについてお話しいただいています。年間を通じて、10社以上のスペシャリストの方々にご協力いただいています。
それ以外にも、校外学習の一環として、生徒たちは年次ごとに企業訪問を行っています。
IBM社、NTT社の研究所、NEC社など、都内の主要企業を訪問し、最新の技術や取り組みに触れる機会を得ています。
訪問では、企業の情報をアップデートしていただいたり、実際の職場環境を見学したりしています。
課題研究の一環として、企業が直面している課題を体感し、それをもとに生徒自身が取り組む課題を検討することにもつながっています。
推薦入試中心の進路指導と個別対応の充実
ー御校における基本的な進路指導のお考えについて聞かせてください。
本校の進路指導は、4年制大学や短期大学などへの進学を中心に展開しています。中でも、一般選抜(共通テスト)の他に総合型選抜や学校推薦型選抜を重視した指導を行っているのが特徴です。
ー生徒1人1人の進路希望にどのように対応されていらっしゃいますか?
倉橋先生:校内の共有スペースに、生徒一人ひとりの進路希望を掲示し、全教職員が常に把握できるようにしています。
本校は今年で開校3年目を迎え、まだ卒業生がいないため、生徒の希望をいかに実現するかを最も重視しています。
たとえば、推薦入試を希望する生徒がいる場合には、各大学と連携し、推薦枠の確保に努めています。
また、近隣のIT系短期大学とも連携し、本校の3年間の教育に加えて、2年間の専門教育を受けられるようなカリキュラムを一緒に考えています。
さらに、先生方は授業の中でも進路を意識しています。過去問題を扱う際には、各生徒の進学希望先を把握した上で、志望に沿った内容を取り入れるなど、個別対応を徹底しています。
段階的な興味喚起から進路決定まで体系的プログラム

ー受験に向けた具体的なプログラムや特徴的な取り組みについて聞かせてください。
倉橋先生:本校では、受験に向けた取り組みを1年次から段階的に進めています。
本校の専門はIT、すなわち「情報」ですが、その分野は非常に広く、プログラミング、デザイン、セキュリティなど多岐にわたります。
そこで、先ほどご紹介したITセミナーでは、さまざまな分野の専門家をお招きし、まずは情報分野にどのような仕事があるのかを知ることからスタートします。
1年次では、自分がどの分野に興味を持つのかを探る“フェーズ1”の段階です。
2年次になると、関心を持った分野について、どのような大学や進学先があるのかを調べ、オープンキャンパスに参加した後は、体験記としてどのような点に興味を持ったのかを発表する機会を設けています。
3年次になると、「学校推薦型選抜」「総合型選抜(自己推薦)」、あるいは「一般選抜」など、自分に合った入試方法を自ら調べ、それに向けた準備を進める段階へと移行します。
部活動とクラウド教材で学習継続をサポート
ー生徒さんが学びを続けるために工夫されていることはありますか?
倉橋先生:本校では、今年度から運動部が創設されましたが、それ以前は文化部のみで、情報システム部、情報デザイン部、eスポーツ部、JRC部が活動していました。
定時制の本校では、1年生の授業時間が1日4時間と短いため、それ以外の時間を有効に活用しています。
情報システム部や情報デザイン部では、それぞれが興味のあるテーマに取り組み、積極的にコンテストや大会にも参加しています。
自分たちが学んできたことを生かして大会で入賞することが、学ぶ意欲を高め、継続的な学習の原動力にもなっています。
辻󠄀先生:学びを深めたり、自主的に学習したりするために、クラウド教材を積極的に活用しています。
自分のペースで進めることができるだけでなく、進捗状況も確認しながら学習を進めることができます。
また、クラウド型の教材やソフトウェアは、学校だけでなく自宅でも利用可能です。
いつでもどこでも学びを継続できる環境を整えています。
生徒主体の革新的な取り組みと地域連携

ー最近変化があった取り組みや新しい取り組みは何かありますでしょうか?
倉橋先生:昨年度の文化祭では、「一般的な文化祭ではITらしさが出ないのでは」という意見から、生徒たちが新たに「ITHS」というイベントを企画しました。
この文化祭では、生徒が開発したアプリを来場者に体験してもらい、「どのアプリが最も良かったか」を投票で選んでいただくITコンテストを開催しました。
この取り組みをきっかけに、文化祭で展示した作品のひとつが、大阪・関西万博への出展につながるほどに発展したという経緯もあります。
また、こうした生徒主体の動きは他にもあります。
本校には常設の購買部がありませんが、文化祭にキッチンカーが来た際に、生徒から「普段から来てくれたらうれしい」という声が上がり、昼食時にキッチンカーを呼べないかと企画する動きが生まれました。
このように、生徒が学校生活をより良くするためにアイデアを出し、実際に行動することで、学校のライフスタイルにも変化が生まれつつあります。
辻󠄀先生:さらに、生徒たちは「この学校の魅力をもっと広めたい」という想いから、学校ホームページだけでは発信が足りないという意見を出し、SNSアカウント(XおよびInstagram)を立ち上げました。
現在は、生徒自身が運営・発信を行う取り組みへと発展しています。
地域連携と謎解きゲームで深める笠間市との結びつき
倉橋先生:昨年度の探究活動では、地域との連携をテーマに笠間市を「歩く会」という企画を実施しました。
本校は笠間市にありますが、生徒の多くが市外から通っており、地元のことをよく知らない生徒も少なくありません。
そこで「実際に笠間市を歩いて学ぼう」という方針のもとに企画が立ち上がりましたが、単に歩くだけでは面白みに欠けるということで、生徒たちの発案で“謎解きゲーム”を笠間神社周辺に仕込み、クイズを解きながらまち歩きをする形式に進化させました。
この企画は、生徒主体で立案・運営されたことが評価され、コンテストに応募したところ、賞をいただくことができました。
また、笠間市では「菊まつり」が開催されており、市内の小中学校が菊を育てて出展しています。
本校でも同様の取り組みを行っていますが、水やり管理が難しいため、土壌の水分を自動で感知し、必要に応じて水を与えるIoTプログラムを開発しました。
この活動は、1年次から継続して取り組んでおり、先ほどの謎解きゲームとあわせて地域との連携を深める探究活動となっています。
辻󠄀先生:本校では、AIを「使う人」を育てるのではなく、「AIを開発する側の人材」を育成したいという方針で教育を進めています。
AIだけでなく、たとえば空飛ぶドローンについても、操縦者(パイロット)ではなく、ドローンを動かすプログラムを開発できるエンジニアを育てたいと考えています。
こうした取り組みを通じて、”メイド・イン・ジャパン”の技術力を次世代へとつなぐ高度なIT人材を育成していきます。
プロジェクトリーダー人材育成の展望
ー今後、御校がどのような展望を想定されていらっしゃるかお聞かせください。
辻󠄀先生:IT業界でエンジニアとして活躍できる人材の輩出はもちろんのこと、本校では、プログラミング技術だけでなく、プロジェクト全体を統括できる“リーダー的存在”の育成も重視しています。
そのためには、マーケティングや対人コミュニケーションといった総合的な力を養う必要があります。
企業との連携によるインターンシップなど、実社会とつながった実践的なプログラムを通じて、早い段階から現場で求められるスキルを身につけさせたいと考えています。
IT好きが集まる環境で大きく成長する生徒たち
ー最後に入学を希望されている生徒さんや保護者の方にメッセージをお願いできますでしょうか?
倉橋先生:本校に入学することで、中学校時代とは見違えるほど大きく成長する生徒が数多くいます。
中学校では、ITに興味があっても周囲と深く話し合えなかったという生徒も、本校では同じようにITが好きな仲間と出会い、共通の関心をもとに活発な議論や共同制作を楽しんでいます。
辻󠄀先生:本校は、茨城県内で唯一のIT専門学科を持つ高校であり、全国的にも情報科を設置している公立高校は21校のみと限られています。
教員の中にはIT企業で実務経験を積んだ者も多く、業界のノウハウを活かした実践的な授業が展開されている点も本校の大きな強みです。
ITに関心がある中学生の皆さんにとって、学びを深めるうえで非常に価値ある環境だと自信を持ってお伝えできます。
学校説明会や授業見学はいつでも受け付けておりますので、ぜひお気軽にお越しください。