【インタビュー】探究心、リーダーシップ、英語力…『開智小学校(開智学園総合部)』の子どもたちはなぜこんなに違うのか

「子どもたちを育てる学校ではなく、子どもたちが育つ学校」―この言葉に込められた教育哲学が、『開智小学校(開智学園総合部)』の全てを物語っています。今回お話を伺った副校長の有田祐介先生は、開校当初から続く革新的な教育システムについて熱く語ってくださいました。

1年生と4年生が同じクラスで学ぶ異学年学級制度、週2時間の完全自由学習「パーソナル」授業、そして8年生が自分たちで探究テーマや訪問先を決めるフィールドワークまで。一般的な学校教育の常識を覆すような取り組みの数々は、なぜ生まれたのでしょうか。そして子どもたちはどのように成長していくのでしょうか。教育への深い洞察と確固たる信念を持つ有田先生に、開智小学校の真髄について詳しくお聞きしました。

4つの要素で描く理想のリーダー像「国際社会に貢献する、心豊かな、創造力・発信力のあるリーダーを育てる」

ー有田副校長、本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは開智小学校の教育理念について教えていただけますでしょうか?

有田祐介 副校長(以下、敬称略):開智学園全体に共通する教育理念があります。学校によって表現は少し異なりますが、学園全体としては「国際社会に貢献する心豊かな創造力・発信力を持ったリーダーを育てる」ことを掲げています。

要素としては4つですね。「国際社会に貢献する」「心豊かな」「創造力・発信力のある」「リーダーを育てるということを謳っており、小学校も中学校も共通してこの理念のもとで教育に取り組んでいます。

常識を覆す「4-4-4制」!受験に縛られない自由な学びの設計

ー実際にこちらの教育理念に沿った活動やプログラムについて、いくつかご紹介いただけますでしょうか?

有田:学校説明会などで必ずお伝えしている4つのポイントがあります。

1つ目が「4-4-4制の12年一貫教育」です。本校は小中高の12年一貫教育で、いわゆる中学受験・高校受験がありません。受験勉強に縛られることなく、子どもたちが自分のやりたいことや興味関心をベースに、自由に伸び伸びと学びを深めることができるのが特徴です。

その中でも「4-4-4」という区切りが独自のポイントになっています。一般的な小中高6-3-3ではなく、4-4-4に分けることで、4年毎に校舎も制服も教員も大きく変わります。特に小学校5年生になるタイミングで、子どもたちの環境が大きく変わるのです。

これは子どもたちの発達段階を考慮したもので、1年生から4年生頃と5、6年生になる時期では、思春期や反抗期といった発達のステージが大きく変わります。そこで環境を変えることで、子どもたちの発達段階に合わせたカリキュラムを編成できるのが狙いです。

1年生の隣に4年生が座る驚きの教室!全員がリーダーになる異学年学級の魔法

有田:4-4-4制にしたもう1つの大きな狙いが、本校の2つ目の特徴である「異学年学級」の導入です。これは本校を選んでいただく保護者の方に最も魅力を感じていただいているポイントかもしれません。

1年生から4年生まで、それぞれの学年から約10人ずつ、計40人で1つの学級を構成します。通常の学校にある「1年1組」「1年2組」といったクラス編制ではなく、A、B、C…現在はKまでの「Team(ティーム)」という単位で学校生活を過ごします。

つまり、1年生の隣には必ず4年生が座っているという環境なんです。給食を食べるときも、お掃除をするときも、班活動をするときも、すべて1年生・2年生・3年生・4年生の異学年で構成されるグループで行動します。

この仕組みの素晴らしいところは、4年生全員が必然的にリーダーの立場を経験することです。一般的な公立学校では、4年1組の中で、学級委員タイプの子、スポーツが得意なやんちゃな子、教室の隅で本を読んでいる子といった関係性が、4年生、5年生、6年生になっても変わらないことが多いでしょう。

しかし本校では、4年生イコールリーダーとして、全員が必ずリーダーの立場を経験します。立場が人を育てるというのは、大人でも子どもでも同じです。異学年での関わりを通して、「みんなそれぞれが違う個性を持っている」という多様性を実感できるようになります。

社会に出れば当然異年齢の人たちと働くわけですから、子どものうちからこうした環境で社会を疑似体験でき、社会性やコミュニケーション能力が育まれるのが本校最大の魅力だと考えています。

大学みたいな自由さ!異学年と教科別授業が生み出す理想の学習環境

有田:「授業はどうするのか」というご質問をよくいただきますが、教科の授業については学年ごとに行っています。朝はTeamで異学年が集まって朝の会などを行い、1時間目が始まると1年生は1年生の教室、2年生は2年生の教室に移動して、算数・国語・理科・社会・英語といった授業を受けます。

午前中の授業が終わると、再びTeamに戻って異学年で給食を食べます。教科授業以外の活動は、すべて異学年で行うのです。遠足、運動会、劇の発表会なども全てTeam単位で取り組みます。例えば運動会の時期になると、4年生が一生懸命下級生に玉入れのコツを教えるといった光景が、学校のあちこちで見られます。

25年前から始まった本気の探究学習「パーソナル授業」で何でも自分で決める!

有田:3つ目は、カリキュラムの中核となる「探究」への取り組みです。今でこそどの学校も探究教育を謳っていますが、本校は2004年の開校当初から、25年近く前から「探究」というワードを前面に掲げてきました。

象徴的な取り組みの1つが「パーソナル」という授業です。

プライマリー(小1~4年)では、週に2時間、「パーソナル」の時間が時間割に組み込まれており、何をやるか、どうやるかを全部自分で決める授業なんです。時間割を見ると、国語・算数・理科・社会と並んで「パーソナル」という時間が必ず週2回入っています。

学ぶということは本来、主体的に自分で興味関心を持って取り組むものであり、誰かにやらされるものではありません。人間が本来持っている好奇心や意欲をベースにするべきだと考えています。そのため本校では、1年生から週2時間、自分で何をやるかを決める時間があるのです。

1年生から1泊2日、8年生は3泊4日で探究の旅へ!段階的に成長するフィールドワークの仕組み

有田:探究学習のもう1つの特徴が「フィールドワーク」です。毎年必ず宿泊を伴うフィールドワークに出かけ、1年生は1泊2日、2年生は2泊3日、最終学年の8年生(中学2年生)は3泊4日で実施します。必ず探究テーマを設定し、学年が上がるにつれてレベルアップしていく仮説検証型の学びを行います。

自分たちで問いを立て、仮説を立て、検証し、プレゼンテーションするというサイクルを1年生から毎年繰り返しています。最終学年の8年生では、行き先も自分で決めるところまで発展します。

それまでは皆で同じテーマに取り組みますが、例えば今度(2025年)5年生が実施する「磯のフィールドワーク」では、千葉県館山市に出かけて、地元の専門家の方に協力いただき、海で実際に生き物を採取・観察・検証を行います。

そして、8年生になると一人ひとりが異なる探究テーマを持ちます。医者になりたい子はがんについて深く学びたい、野球が好きな子は野球のメカニズムを知りたい、弁護士になりたい子は少年犯罪について研究したいなど、それぞれが自分に合ったテーマを探究できる場所を自分で探し、アポイントを取り、実際に足を運ぶのです。

共通しているのは「自分で学ぶ」ということです。何かを与えられるのではなく、自分たちの興味や課題意識を前提として学ぶ姿勢が、本校の探究教育の核となっています。

ネイティブ教員5人と毎日英語漬け!1年生から週5時間の本格英語教育

有田:4つ目は英語教育です。私学として、当然英語教育にも力を入れて取り組んでいます。分かりやすい例として、1年生から週に5時間、英語のネイティブ教員が英語で授業を行う時間があります。

1年生は座学中心ではなく、5時間のうち2時間を「アート」と「ミュージック」の時間に充てています。いわゆる図工・音楽を、日本人教員とネイティブ教員が一緒に担当し、子どもたちが工作や音楽を楽しみながら自然に英語に触れられる環境を作っています。

英語のシャワーを浴びることで、特に1年生・2年生の耳が柔らかい時期に、発音などの能力が飛躍的に向上します。何よりネイティブ教員がたくさん在籍しているため、日本人にありがちな「外国人と話すときに物怖じしてしまう」ということが全くありません。自然に英語が話せるようになる環境が整っています。

小学校1年生から継続してきた成果として、卒業生に聞くと大学受験において「英語は武器になった」という声が多く聞かれます。AIの翻訳機能が発達している現代において、英語が話せることの意味は変わってきているかもしれませんが、1つのツールとして武器を持つことは、子どもたちにとって大きなアドバンテージになると考えています。

「デメリットは本当にない!」異学年学級が育む積極性と意欲の秘密

ー他の学校にはない、開智小学校ならではのアピールポイントがあれば教えてください。

有田:先ほど申し上げた異学年学級制度は本当に唯一無二の取り組みです。時々「デメリットはありませんか?」という質問をいただきますが、本当にないんです。この仕組みの中で、子どもたちは確実に成長していきます。

うちの子どもたちはリーダーになることを心から楽しみにしているんです。自分が1年生の時にお世話になった記憶があるので、「僕もあのお兄さん・お姉さんになりたい」と思ったり、時には「あのお兄さん・お姉さんみたいにはなりたくない」と反面教師にすることもあるかもしれませんが、「自分が4年生になったらこういうことをしたい」という明確な目標を持っているのです。

5年生から8年生でも同じ異学年制度を採用しており、総合部の最高学年である8年生は、運動会の企画・運営なども全て中心となって行います。子どもたちはリーダーシップや組織運営を実際に体験し、そこに対するモチベーションが高いのが特徴です。これは日本の教育が苦手としている部分を補えていると自信を持って言えます。

また、子どもたちの特徴として非常に意欲的な点が挙げられます。日本の典型的な教室では「誰かこれをやりたい人?」と聞いても誰も手を挙げず、お互いの顔を見合って牽制し合うような雰囲気がありがちです。しかし本校では、みんなが「はい!」と元気よく手を挙げ、積極的に行動する文化が根付いています。これが他校との最大の違いだと思います。

全員参加のスピーチコンテスト!ネイティブ教員との日常が生む自然な国際感覚

ーグローバル教育や英語教育で特に積極的に取り組んでいる内容があれば、ぜひお伺いさせていただけますでしょうか?

有田:分かりやすい取り組みとして、セカンダリー(小学校5年生から中学校2年生)では、全員参加の英語スピーチコンテストを実施しています。予選から始まり、最終的には大きなホールで決勝を行う本格的なコンテストです。

英語はコミュニケーションのツールであり、自分の思いをどう表現するかが重要です。特に7、8年生(中学生)の部では、オリジナルの原稿を自分たちで作成し、自分たちの主張をスピーチする形式も採用しています。

グローバル教育の環境面では、ネイティブ教員との日常的なコミュニケーションが最も大きな特徴です。現在、プライマリーには5人、セカンダリーには2名のネイティブ教員が在籍し、それぞれ異なる国籍やバックグラウンドを持っており、文化的な内容も含めて幅広く指導してくださっています。

このように、質の面でも量の面でも、英語に触れる機会を豊富に提供しているのが本校の強みです。

オーストラリアからイギリスまで!探究の集大成として挑む本格的海外体験

ー生徒たちが学んだ英語スキルを海外などで実践する機会は学校として設けていらっしゃいますか?

有田:開智小学校では、夏休みにオーストラリアでのホームステイと語学研修プログラムを実施しています。10日間の任意参加プログラムで、4年生以上が対象となっており、毎年多くの希望者が参加する人気プログラムです。

現地の小学生や中学生との交流、現地校での授業体験、そして実際のホームステイによる異文化体験など、生きた英語学習の機会を提供しています。

また、中学3年生以降、中高一貫部に合流した後も、ロサンゼルス、マルタ(ヨーロッパ)、シンガポールなど、様々な海外研修プログラムが用意されており、異文化体験やコミュニケーション力向上を図っています。

そして12年間の集大成となるのが、高校2年生で全員参加となるイギリスフィールドワークです。これまで積み重ねてきた探究学習の成果をイギリスの現地大学生や大学院生にプレゼンテーションし、ディスカッションを行います。

コロナ禍でも即座にオンライン授業!伝統を守りながら進化し続ける教育姿勢

ー今後、開智小学校として、こういった点をより強化していきたいとか、新たに取り組んでいきたいということがあれば、ぜひお伺いさせてください。

有田:本校は教育のICT化などにも比較的早期から柔軟に取り組んできた学校です。コロナ禍で2020年3月に一斉休校となった際も、以前からiPadを活用していたため、4月の新年度からZoomを使ったオンライン授業をリアルタイムで実施できました。当時は皆「Zoomって何?」という状態でしたが、すぐに対応できたことで保護者の方々からも大変感謝していただきました。

このように新しい技術や手法には柔軟に取り組む一方で、探究学習や異学年学級制度といった本校の核となる部分は、開校当初からほとんど変わっていません。これらについては実績と自信を持っているため、特別に大きな変更を加える予定はありません。

ただし、ICTの進歩やAI技術の発展など、時代の変化に合わせて教育手法をアップデートしていくことは継続していきます。これまでの取り組みを頑なに守るだけでなく、良いものは積極的に取り入れながら日々進化していく姿勢を大切にしています。

「子どもは勝手に育つ」副校長が語る大人が信じるべき子どもの力

ー最後に、こちらのインタビュー記事をご覧の方々に、ぜひ有田副校長からメッセージをお願いします!

有田:説明会でいつもお話ししているのですが、本校は「子どもたちを育てる学校ではなく、子どもたちが育つ学校」です。これは私が強く感じていることなのですが、「あれをやらせた方がいい」「これをやらせた方がいい」「この学校に行った方がいい」「早いうちから英語をやった方がいい」といったことは、すべて大人の発想なんです。

大人が「あれもこれもやった方がいい」と考えて子どもを育てようとしますが、本当に大切なのは、子どもたち自身が意欲を持って育つことです。やらされて身に付いたことは、大人になってもやらされないと身に付かない状態が続いてしまいます。それがいわゆる「指示待ち人間」と批判される原因だと思います。

子どもたちの意欲や好奇心を大切にしていれば、子どもは自然に育ちます。そういう環境さえ与えてあげればよいのです。異学年学級制度もフィールドワークも、すべてそのための環境作りです。

子どもは本来好奇心の塊です。それがテストで比較されたり、「なんで同じ間違いをするの?」と言われ続けることで、勉強が苦痛になってしまいます。幼稚園くらいの子どもを見ていると、「パパ、あれなんて呼ぶの?」「これはどうしてこうなるの?」とたくさん質問してきますよね。その姿勢を大人が潰さなければ、子どもは自然に育つものだと信じています。

情報が溢れる現代では、「あれもやった方がいいのでは」「これもやった方がいいのでは」と大人が焦りすぎて、かえって逆効果になることもあります。保護者の皆様には、ぜひ子どもたちの持つ「育つ力」を信じていただきたいと思います。

そういった考えに共感していただける方であれば、ぜひ一度学校にお越しいただければと思います。