教育界では大学入試改革やグローバル化への対応など、大きな変革の波が押し寄せています。こうした中で、早くから国際性を重視しながらも日本人としてのアイデンティティを大切にする教育を実践してきた学校があります。
埼玉県西部に位置する『西武学園文理小学校』は、開校から21年(2024年現在)という比較的若い学校でありながら、「心・知性・国際性」という3つの柱を掲げ、独自の教育プログラムを展開してきました。特に注目すべきは、英語教育に関する先進的な取り組みです。1年次からの英語教育に加え、実技系科目でも英語を取り入れた「文理イマージョンプログラム」を実施するなど、実践的な英語力の育成に力を入れています。
今回は同校の校長である古橋敏志様に、教育理念や具体的な取り組み、そして今後の展望についてお話を伺いました。12年間一貫教育を見据えたカリキュラム設計から、きめ細やかな児童支援まで、同校の特色ある教育実践の全容に迫ります。
西武学園文理小学校の概要と教育理念
ー本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは、御校の概要について教えていただけますか?
古橋敏志校長:『西武学園文理小学校』は、専門学校からスタートした学校法人文理佐藤学園が、高校そして中学校を経て小学校を開設するという形で発展してきた学校です。都心から離れた埼玉県西部に位置しながらも、区部からわずか1時間以内というアクセスの良さを活かし、都内からの通学者が全体の4割を占めています。
豊かな自然に囲まれたキャンパスでは、近隣の畑を活用した農作業体験など、都会では得難い体験学習が可能です。また、放課後には学習に特化したアフタースクール「グローバルアカデミー」を運営し、本校OBの教員による指導で、授業内容と連携した補習と発展学習を行っています。
ー『西武学園文理小学校』の教育理念についてお聞かせください。
古橋:本校は21年前に開校した比較的新しい学校ですが、「心を育てる」「知性を育てる」「国際性を育てる」という3つの柱を掲げています。高校が最初にでき、そこから中学校、小学校という順で開校してきました。
小学校では情操面も豊かな子供たちを育てていきたいという思いから「心の教育」を第一に掲げています。また、高校の出口としては大学進学を主としているため「知性の教育」も重視しています。さらに、20年前という時点で、これからグローバルな社会が展開されていく中で、英語教育や国際理解教育をきちんと取り入れていく必要性を感じ、「国際性の教育」を3つ目の柱としました。
3つの柱に基づく具体的な教育実践
ー3つの柱に基づいて、具体的にどのような教育を行っているのでしょうか?
古橋:まず心の教育では、情操面を豊かにするため「本物に触れる教育」を重視しています。例えば、劇団四季の観劇を通じて本物の舞台芸術に触れ、感性を養う機会を設けています。小学生にその価値の深い本質までが分かるかどうかは別として、‟本物の劇団”を体験することで、子どもたちに新しい気づきを与えています。
また、核家族化が進む中で異学年交流を活発に行い、学年の枠を超えたコミュニケーション力を高め、多様性を受け入れていくことができる子どもたちの育成を目指しています。この多様性は日本国内に限らず、海外文化も積極的に受け入れられるよう、様々な国際交流も行っています。
知性の教育については、6年間を前半3年(低学年)と後半3年(高学年)に分けて展開しています。低学年は「基礎力100%理解」を合言葉に、12年間の学びの基礎となる読み書きや計算をしっかりと身につけることを重視します。先取り学習よりも、まずは確実な学力の土台作りを重視しています。
高学年では、中学受験をしてくる生徒との学力差を考慮し、「教科書+αの学習」として教科書の内容以外の発展的な学習にも取り組みます。例えば算数では特殊算の学習、国語では教科書に載っていないような長文読解にチャレンジするなど、中学進学後も円滑に学習できる力を育てています。
イマージョンによる実践的な英語教育
ー特徴的な「英語教育・文理イマージョンプログラム」について詳しくお聞かせください。
古橋:週2~3時間の英語の授業だけでは、英語を自由に使えるようにはなりません。そこで、英語を聞く耳を育て、外国人英語講師(ALT)と積極的に会話する姿勢を養うため、英語の授業以外でも英語に触れる機会を設けています。
具体的には、音楽、図工、体育、情報などの実技系科目で、日本人教員とALTによるティームティーチングを導入しています。例えば体育では準備運動を全て英語で行い、図工では画材が欲しい時に英語で色を言わないと受け取れないようにするなど、自然な形で英語でのコミュニケーションを促しています。
このプログラムの特徴は、ALTに授業を全て任せる英語イマージョンではなく、日本人教員が授業を組み立てる点です。これは、海外の日本人学校での見学経験から得た知見に基づいています。英語イマージョンでは、例えば図工での色彩感覚などがALTの出身国の感性に基づくものとなり、日本の教育で育む感性と異なってしまう可能性があります。そこで、本校では日本人としてのアイデンティティも大切にしながら、英語を使用する場面を効果的に取り入れる方式を採用しています。
12年間一貫教育を見据えた受験指導と保護者との連携
ー受験指導について、どのような方針をお持ちでしょうか?
古橋:小中高の教員が年5回ほど集まる「小中高連絡会」を通じて、12年間の学びを見据えたカリキュラムを構築しています。例えば算数では、「つるかめ算」の扱いについて、中学での文字式学習を見据えて、どこまで教えるべきかを検討します。また英語では、小学校でどの程度の単語や表現を扱うかを共有し、中高でもその知識を活用できるようにしています。
また、近年増加している総合型選抜への対応も意識しています。小学校での卒業研究から中学での卒業論文へと、プレゼンテーション力や文章力を段階的に育成しています。さらに、各種検定試験へのチャレンジや、アドバンストテスト(複数単元をまとめて行われるテスト)の実施など、受験に尻込みしない環境作りも行っています。
ー保護者との連携について、工夫されていることはありますか?
古橋:保護者会組織「英風会」が非常に充実しています。運動会での駐車場係から保護者競技の運営まで、様々な学校行事に積極的に参加いただいています。また、特に低学年のうちは、月に1回は保護者が学校に来校する機会を設け、子どもの様子を確認し、担任とのコミュニケーションの機会を設けています。
さらに、職員室には複数の電話機を設置し、教員がすぐに保護者と連絡を取れる体制を整えています。これは先代の理事長の発案で、「三位一体で子供たちを育てていく」という本校の基本姿勢を具現化したものです。
充実した支援体制とアフタースクール
ー児童へのサポート体制について、特徴的な取り組みはありますか?
古橋:学習面では、アフタースクール「グローバルアカデミー」を開講しています。多くの学校が習い事系のアフタースクールを展開する中、本校は学習に特化したプログラムを提供しています。本校OBの教員による指導で、授業での躓きのフォローや、特選クラスを目指す児童への対応など、きめ細かなサポートを行っています。
また、本校独自の英語指導メソッドを理解した教員が英語の指導をすることで、他の学習塾とは異なる手法で混乱することなく、効果的な学習ができる環境を整えています。
児童の心理面のケアについては、スクールカウンセラーや教育相談支援員を配置し、何か問題の兆候が見られた場合には、担任のみならず学年や教職員全体で対応する体制を整えています。月1回の生徒指導報告会では、支援が必要な児童について情報を共有し、組織的なサポートを行っています。
変化する教育環境を見据えた新たな挑戦
ー今後の展望についてお聞かせください。
古橋:大学入試が大きく変わりつつある中で、小学校段階からの新たな取り組みを計画しています。その一つが、小学校版ポートフォリオの導入です。これは単なる記録ではなく、12年間の学びを見据えた重要なツールとして位置付けています。
具体的には、イギリスでの16日間やアメリカでの1週間の海外研修での体験など、様々な文化交流、農作業体験など、6年間で積み重ねた経験を体系的に蓄積していきます。実際に、本校の卒業生の中には、小学校での海外研修の経験を活かして総合型選抜で大学に合格した例もあり、早期からの体験の蓄積が、将来の進路選択に大きな影響を与えることを実感しています。
また、業務システムの改革も進めています。来年度からは、新しい校務システムを本格的に導入し、より効果的な学習管理と指導を実現する予定です。これにより、個々の児童の学習進度や経験値をより正確に把握し、きめ細やかな指導に活かすことが可能になります。
このように、時代の変化に対応しながらも、本校の教育理念である「心・知性・国際性」の3つの柱を基軸とした教育の質をさらに高めていきたいと考えています。特に、総合型選抜の増加など、大学入試改革の流れを踏まえ、小学校段階からより計画的で体系的な取り組みを展開していく予定です。
自然と学びが調和する環境で、未来を担う子どもたちを育む
ー最後に、小学校への入学を考えている保護者の方へメッセージをお願いします!
古橋:本校の大きな特徴は、21年の歴史の中で築き上げてきた教育プログラムにあります。1年次からの英語教育、文理イマージョンプログラム、そして日本人としてのアイデンティティを大切にする教育は、グローバル社会で活躍する人材の育成に大きな成果を上げています。
さらに、都会の喧騒から少し離れた自然豊かな環境にある本校には、かけがえのない魅力があります。この恵まれた環境での6年間は、子どもたちの心と体の健やかな成長に大きな意味を持つと確信しています。
「心・知性・国際性」という3つの柱を軸に、子どもたち一人ひとりの可能性を最大限に引き出す教育を実践している本校の姿を、ぜひ皆様の目でご覧いただきたいと思います。説明会や学校見学では、生き生きと学ぶ子どもたちの様子を直接感じていただけます。本校の教育に興味をお持ちいただけましたら、ぜひ一度足をお運びください。皆様のお越しを心よりお待ちしております。