日本の伝統を大切にしながら、未来を見据えたグローバルな感性を育てたい。
そんな想いを胸に、志のぶ幼稚園は地域に根ざしながら、子どもたち一人ひとりの”気づき”と”育ち”を大切にする保育を実践しています。
1911年の創立以来、四代にわたって受け継がれてきた志のぶ幼稚園。
その歩みと理念、そしてこれからの地域との連携まで、園長・岡秀樹さんにお話を伺いました。
明治の想いを令和に受け継ぐ──志のぶ幼稚園のはじまりと今
志のぶ幼稚園は、明治44年、1911年に創立し、今年で114年目を迎えます。私は四代目の園長を務めており、初代から曽祖母、祖母、母、そして私へとバトンを受け継いできました。
もともとは旧小石川で「大塚幼稚園」として誕生しましたが、昭和11年に現在の目黒区平町に移転し、「志のぶ幼稚園」と改名しました。
この“しのぶ”という名は、2代目園長の長男で、生後3か月半で亡くなった「忍(しのぶ)」の名前に由来しています。
創立から114年を経た今でも、私たちはその当時の志を大切にしながら、新たな時代に対応する保育を探求し続けています。
幼稚園は1学年1クラス、満3歳児から年長児までの4学年で構成され、常に100名前後の園児たちが在園しており、密な人間関係の中で、丁寧な保育を行っています。
「継往開来」の精神とともに──教育理念とこれからの使命
私が大切にしているのは、「継往開来(けいおうかいらい)」という言葉です。
これは、先人の事業を敬い、それをしっかりと受け止めたうえで、さらに未来へと切り開き、新しい時代につなげ発展させていこうという想いを込めたものです。
現代社会では、かつて当たり前だった四季の変化や伝統文化との触れ合いが、希薄になりつつあります。
志のぶ幼稚園では、このような時代だからこそ、年間を通じて日本の季節行事や子どもの歳時記を大切にした保育を展開しております。
また、園児の約2割が外国籍であることから、多文化共生の理念も非常に重要な柱です。
日本の子どもたちが異文化に触れ、外国籍の子どもたちが日本文化を学びながら互いに理解し合う──その両面を大切にすることこそ、真にグローバルな感性を育むことにつながると考えています。
“本物の体験”を通じて育む、五感と探究心
子どもたちの成長にとって「体験」は何よりの財産です。私たちは、ただの知識ではなく、五感を使って得る“本物の体験”を大切にしています。
コロナ禍以降、より多くの体験活動に力を入れるようになりました。密を避けつつも、屋外や自然の中でできる体験を増やすことで、子どもたちにとっての学びの幅を広げてきました。
長期休み期間中にわくわくカリキュラムと称したプログラムでは、子どもの新たな経験の引き出しを増やすことを目的として、忍者修行体験やタッチラグビー体験、プラネタリウムの解説、動物とのふれあい、科学実験、阿波踊りやアイリッシュダンスや和太鼓のワークショップなど、様々な分野の専門家と協力しながら多彩な活動を実施してきました。
こうした体験を通じて、子どもたちの好奇心や探究心を育み、「知らなかったことを知る喜び」や「できなかったことができるようになる達成感」を積み重ねていきます。
センス・オブ・ワンダー──気づきの芽を見守る眼差し
「わくわく」という言葉は擬態語で、語源は「湧く」です。ですので「わくわく」という感情は、単なる興奮ではなく、“湧き上がる感情”を意味する言葉です。
私たちは、子どもたちが自ら発見し、“湧き上がる感情”から感動する瞬間を大切にし、それを保育の中心に据えています。
第2園庭「志のぶセンス・オブ・ワンダーランド」では、子どもたちが植物や小さな命と出会うことができる環境を保障しています。
そこでは触れる、においを嗅ぐ、味わうといった五感の体験を通して、子どもたちが自然と親しみ、本当の意味で“学び”を深めることができるのです。
『センス・オブ・ワンダー』の著者レイチェル・カーソンは“知ることは感じることの半分も重要ではない”と言っていますが、大人がすぐに答えを教えるのではなく、子どもたちが自ら感じ、気づき、発見し、それを言葉にして他者に伝えるというプロセスを大切にしています。
地域資源としての幼稚園──これからの展望
私は、幼稚園を「地域資源」として、積極的に園庭開放を進めています。
近年では、保育所が急増したことにより、園庭を持たない保育施設が増え、外遊びを経験する機会が限られる子どもたちが増えています。
この課題に対し、志のぶ幼稚園では、年6回開催している園庭開放「志のぶわいわいパーク」を通して、地域の未就園児や保育園児、保護者、卒園児など、多くの人が集まる場所をつくっています。
イベントには毎回200〜250人が訪れ、コンサートや大道芸、アートや木育ワークショップ、火起こしや自然遊びなど、多彩なプログラムが展開されます。
また、目黒区には常設のプレイパークが無いという課題に対し、第2園庭では「わいわいプレイパーク」を同時開催しており、そこではプレイワーカーと連携して、秘密基地づくりや謎解きなどの試みを進めています。
卒園児がボランティアとして参加し、地域の子どもたちと一緒に活動することで、年齢や所属を超えた学びと交流の場が生まれています。
子どもだけでなく、大人も。誰もが来ていい場所に
私が目指すのは、子どもだけでなく、大人も気軽に関われる“ひらかれた幼稚園”です。
実際に、近隣の商店や企業、プレイワーカー、ボーイスカウト、専属のガーデナーなど多くの方が関わり、園の活動を支えてくれています。
最近では保育所との連携を進め、園庭のシェアをしています。
幼稚園を、幼児教育の実践を積み重ねる最前線の場としての機能にプラスして、保育園児でも子どもがいない大人でも気軽に立ち寄ることができる地域交流の拠点としても機能させたい。
そうした想いで、日々取り組んでいます。
これからも地域とのつながりを深めながら、志のぶ幼稚園は“学びの場”としてだけでなく、“つながりの場”としての役割も果たしていきたいです。
この記事をご覧いただき、志のぶ幼稚園にご興味を持たれた方は、ぜひ公式サイトをご覧ください。