桐朋学園小学校では、明文化された教育理念を持たない代わりに、日々の生活の中で一人ひとりの子どもの心に寄り添う教育が大切にされています。都会の中にありながら、自然と共生する豊かな体験を重視した環境で育つ子どもたちの姿に、私たちは多くの学びと感動を得ました。
今回は小学校の代表である、小学部長・有馬様よりお話をお伺いしました。
一人ひとりの子どもの心に寄り添う教育
有馬:実は、桐朋学園小学校には明文化された教育理念や教育目標というものはありません。ただ、私たち教員が大切にしている言葉があります。それは「一人ひとりの子どもの心のすみずみにまで行きわたる教育を」という言葉です。
特別なことをしているという感覚はなく、この言葉の通り、子どもを中心に据えた日々の教育を丁寧に積み重ねている学校です。恐らく日本中多くの教員が目の前の子どもを大切にしたいと思っているように、桐朋学園ではその想いを本気で実践しているだけなんです。
自然と共にある日常が子どもを育てる
ー具体的にどのような教育活動を行っているのか教えてください。
有馬:たとえば、ある朝、3年生の子どもたちが校内にある桑の木から葉っぱを採っていました。それは育てているカイコに与えるための葉っぱです。その横では、同じ桑の木から1年生や2年生が桑の実を採って食べていました。それからその脇で、4年生はニワトリやウサギなどの動物たちの世話をしていました。
また、校内には雑木林をそのまま残した小さな林があり、そこではヤギの「さつき」が葉っぱを食べたり、子どもたちが秘密基地を作ったり、思い思いのすごし方をしています。この林ではキツツキの仲間であるコゲラや絶滅危惧種の植物「キンラン」を見ることができるのです。
他にも、田んぼや池ではカエルやカルガモが見られ、畑ではトマトや枝豆を育てる活動も行っています。子どもたちは五感を使って、自然と一緒にある生活を当たり前のこととして過ごしています。

豊かな自然体験
ー都市部ではなかなかできない体験が多いですね。
有馬:そうですね。ICTも使いますが、それ以上に大事にしているのは「自分の体で感じること」。味覚・嗅覚・聴覚・触覚・視覚のすべてを使って、子どもたちが自然に出会い、そこから何かを感じて動く。それが桐朋学園の教育の根幹です。
もちろん、安全面にも配慮しています。でも、あまり「これはこうしなきゃいけない」という形に縛らず、子どもたちが心動かされたことを大事にしたいんです。
子どもたちが主役のクラブ活動
ー主体性を育む取り組みもされていますか?
有馬:はい、異学年混合のクラブ活動があり、クラブは子どもたちが立ち上げます。たとえば、今年は6年生が発案した料理研究部ができました。ある日、教員室のドアが開いて「アリック(有馬先生のあだ名)、食べて!」とりんご飴を持ってきてくれて(笑)。
子どもたちとの距離がとても近く、一緒ににやにやしながら、やりたいことを応援しています。私たちが全部やってあげるのではなく、子どもたち自身が叶えていく。それを見守り、時に手助けするという姿勢です。

教員として大切にしていること
ー教育において、有馬先生が大切にされていることは何ですか?
有馬:やっぱり「敬意」ですね。相手が子どもであっても、しっかりと敬意を持って接すること。距離が近いからこそ、ぞんざいにならないように気をつける必要があります。
一緒に生きているという感覚が強いです。授業だけでなく、日々の生活の中で悩んだり、叱ったり、笑ったり。教員としての仕事は、そうした毎日の積み重ねにあると思っています。
今後について
ー今後、学校として取り組みたいことはありますか?
有馬:うーん、難しいですね(笑)。というのも、桐朋学園はトップダウンで「これをやる」と決める学校ではないんです。みんなで日々の子どもたちを見ながら考えるスタイルです。
ただ一つ言えるのは、「今いる子どもたち」を一番に考えるということ。社会がどれだけ変化しても、人として大切にすべきことは変わらない。温かく、朗らかで、しなやかな人に育ってくれればいい。
流行を追うのではなく、今やるべきことを今しっかりやる。それをこれからも大切にしていきたいと思います。
保護者の皆さまへのメッセージ
ー最後に、この記事をご覧になる保護者やお子さまへメッセージをお願いします。
有馬:ぜひ一度、学校を見にいらしてください。百聞は一見にしかずです。私たちは、日々子どもたちと真剣に、そして楽しく過ごしています。その姿を見ていただければ、きっと何かを感じていただけると思います。
皆さんとお会いできる日を、心から楽しみにしております。