就労継続支援B型事業所として、障害のある方の就労支援に取り組むNPO法人障害者就労支援センターどんまい福祉工房。同施設では、施設内での作業だけでなく、地域での活動を重視した支援を展開しています。地域と共に歩む福祉の実践について、代表の渡邉さんにお話を伺いました。
事業概要と特徴
ー御社の事業概要について教えていただけますでしょうか。
渡邉さん:当施設は主に知的障害の方と精神障害の方を受け入れている就労継続支援B型の作業所です。当事業所の方針として「地域インクルージョン」を掲げ、地域をメインターゲットにした支援環境の構築に力を入れています。
具体的には、地域の商店街での季節ごとのバナー交換作業や、区立高齢者施設の清掃、地域のマンション清掃、区立の芸術会館のカフェのバックヤード業務、農園作業など幅広い作業に従事しています。施設内での作業も行っていますが、「施設の箱物福祉」ではなく、施設外に出て行く支援環境を重視しています。
設立の経緯と理念
ー設立のきっかけや背景について教えていただけますでしょうか。
渡邉さん:私自身がずっと福祉の分野で働いてきて、入所施設から通所施設まで、他法人の管理者なども経験してきたのですが、当時は施設内での閉鎖的な支援が主流で、障害のある方々が作業所と自宅の往復だけの生活を送っているという現状がありました。
確かに地域に出ていくことにはリスクがあります。また利用者の方々の失敗のリスクもあります。しかし、そこを恐れていては当事者の方々も地域に馴染めず、障害への理解も進まないと考えました。そこで、「とにかく外に出ていく」という、当時としては新しい展開を具現化したいという思いで平成18年12月にNPO法人を立ち上げました。
地域との関わりがもたらす変化
ー地域との関係性についてお聞かせください。
渡邉さん:最初に商店街をフィールドにして作業をお願いした際は、障害のある方々が作業することで事故やトラブルが起きるのではないかという懸念が地域の方々からあったのですが、その懸念は杞憂でした。早朝の清掃活動から始めることで、徐々に商店街の方々の理解が深まっていったのです。
朝早くから見に来てくださる方も増え、「我々が持っていたイメージと違って、色々なことができるんだ」という声が広がっていく。それが発展して、商店街として外部に依頼していた仕事も任せていただけるようになりました。
結果として、障害のある方々への偏見というより、どういう方々なのか分からないという不安が本質だったことが分かりました。当事者の方々が地域で当たり前に働くことで相互理解が深まり、私たちの取り組みが間違っていないという確信を得ることができました。
施設の特徴とアピールポイント
ー御社の特徴やアピールポイントについて教えてください。
渡邉さん:当事業所の特徴として、工賃や福祉的就労の方から、将来的に一般就労を目指したい方まで、幅広い障害のある方々を受け入れ、それぞれに合わせた支援を展開しているという点が挙げられます。
また、余暇活動支援にも力を入れています。働くことだけでなく、その他の時間も有意義に楽しく豊かに暮らすことが大切だと考え、夏のレクリエーションや冬の忘年会、地域の運動会への参加なども行っています。
利用者との関わり方
ー利用者の方と接するときに意識されているポイントを教えてください。
渡邉さん:私たちは専門職として、ダウン症の方や自閉症の方など、それぞれの障害特性に応じた専門的な対応をベースとしています。しかし、私が特に留意しているのは、「ダウン症のAさん」ではなく「地域で生活するAさん」、「自閉症のBさん」ではなく「地域で生活するBさん」として接するということです。
これは、専門職としての障害への対応は当然必要なのですが、その障害の「冠」を外した、一人の人としての関わりも同様に大切だと考えているからです。その方が地域でどのように幸せに暮らし、自分の思い描く人生を送れるのか。そういった視点を常に持ちながら関わるようにしています。
今後の展望
ー今後の展望についてお聞かせください。
渡邉さん:利用者の方々の多様化が進んでいる状況を踏まえ、より幅広い障害に対応できる施設の開設を目指したいと思っています。
また、現在の障害者雇用の状況にも課題を感じています。国が就労支援に力を入れる中で、企業側も雇用率の達成に苦心されているのが現状です。
確かに障害者雇用支援サービスは増えてきていますが、企業がノウハウ不足を理由に丸投げでアウトソースし、結果として生産性の低い仕事だけを任せているという現状も一方であります。これでは、せっかく国が推進している就労支援の本来の意義が失われてしまいます。
そこで、来年度から福祉寄り・当事者寄りの新しい形の障害者雇用支援サービスの立ち上げを進めています。当事業所で支援を受けながら力をつけ、しっかりと企業に貢献できる人材として自社雇用に繋げられるような仕組みづくりを目指しています
読者へのメッセージ
ー最後に、この記事を読まれている方へメッセージをお願いします。
渡邉さん:現在、区内3か所(工房、分室、高円寺のカフェ「ルースト」)で事業を展開しています。地域に根差した小さな事業所ではありますが、見学はいつでも歓迎しておりますので、ご連絡いただければ、実際の現場をご覧いただくことができます。
私たちの活動を通じて、少しでも地域の障害理解が進むことを願っています。ぜひお気軽にお問い合わせください。