世界の言語を次世代へと伝える独自の取り組み – NPO法人地球ことば村・世界言語博物館の八木橋さんにインタビューしました!

2003年の設立以来、世界の言語・文化の保護と普及に取り組むNPO法人地球ことば村・世界言語博物館。

世界の言語・文化に関するオンライン博物館の運営や、毎月開催される「ことばのサロン」など、独自の取り組みを展開しています。

今回は同法人の八木橋宏勇さんに、活動内容や今後の展望についてお話を伺いました。

言語消滅の危機感から生まれた組織

ー団体の概要について教えていただけますでしょうか。

八木橋:私たちの法人は2003年に設立されました。当時、生物の絶滅危機については広く認知されていましたが、言語の消滅についてはあまり注目されていませんでした。

世界には約5000の言語があると言われていますが、21世紀末に安泰な言語は1割ほどで、8~9割が消滅あるいは消滅の危機に瀕するという試算もあります。こうした危機感から、言語学者や文化人類学者、そして一般市民が集まって設立されました。

設立当時はインターネットが普及し始めた時期で、オンライン上に世界の言語や文化、暮らしに関する情報を一元的に集約できる「バーチャル博物館」の構築を目指しました。

また、毎月1回「ことばのサロン」を開催し、専門家を招いて対談を行っています。少数話者危機言語の専門家だけでなく、英語教育など様々な分野の方々にご参加いただき、プロフェッショナルから一般市民まで、多くの方々と言葉についての知見を共有しています。

バーチャル博物館やことばのサロンで広がる言語文化の輪

ー実際に行っている活動の内容について詳しくお聞かせください。

八木橋:最も大きな事業は、バーチャル博物館の運営です。特に世界の文字に関する情報へのアクセスが多く、著作権などの権利に配慮しながら、できるだけ写真やイメージを交えて情報を提供しています。

この蓄積された情報は、テレビや雑誌、インターネット番組など、様々なメディアからの取材や執筆依頼にもつながっています。

また、毎月開催していることばのサロン」では、当法人の理事長である井上逸兵先生が様々なゲストと対談を行い、オンラインでも配信しています。

直近では「国境と言語を超えることわざ研究の可能性」をテーマに、ことわざ研究の専門家をお招きしました。今後はアイヌ語の専門家や本の編集者を招いた講演会も予定しています。

さらに、出版事業にも力を入れており、日本の童話を英語、ポルトガル語、スペイン語に翻訳し、海外で暮らす日本にルーツを持つ方々やお子さんに向けて発信しています。

これらの多言語化された童話は、皇室の方々が南米訪問の際に持参されるなど、国際交流の架け橋としても活用されています。

母語が築くアイデンティティ

ー貴法人ならではの取り組みについて教えてください。

八木橋:言葉に関することであれば幅広く取り組むという点が特徴です。「ことばのサロン」には各言語や文化圏の専門家のほか、落語家や芸人の方もいらっしゃいました。このように、多岐にわたるゲストとの対談を通じて言葉の世界を探求しています。

これは、NHKテレビの英会話番組講師として活躍された理事長の井上逸兵先生の楽しくも巧みな進行に拠るところが大きく、幅広い分野の方々との対談が実現しています。

また、20年以上に渡って蓄積してきたバーチャル博物館の情報量は他に類を見ないものとなっています。

ー今後、さらに強化していきたい部分や取り組みたい活動はありますか。

八木橋:現在力を入れているのが「継承日本語」の問題です。例えば、アメリカで暮らす日本にルーツを持つお子さんは、周囲が英語環境のため日本語が弱くなりがちです。

逆に、日本で暮らすブラジルにルーツを持つ方は、母語であるポルトガル語よりも日本語が強くなってしまうケースもあります。

言葉は空気のような存在で、普段はあまり意識されません。しかし、母語は人のアイデンティティの根幹に関わる「最強」の存在です。

寝ている時の夢も、とっさの叫び声も母語で表現されることが多く、母語は無意識でも自在に使用できるほど、私たちの思考や感情の基盤となっています。

メディアでは取り上げられにくい分野ですが、こうした言語アイデンティティの問題に取り組むことは、言葉の機能を考えるうえで非常に重要だと考えています。

今後は「ことばのサロン」の動画に英語字幕を付けるなど、より広い層に向けて発信していきたいと考えています。NPO法人として予算面での制約はありますが、言葉の重要性を広く伝えていくための取り組みを続けていきたいと考えています。

ー最後に、この記事をご覧になる方へメッセージをお願いします。

八木橋:毎月開催している「ことばのサロン」は無料でオンライン参加が可能です。気軽に「ことば村」の世界に足を踏み入れていただければと思います。

必ずしもすべての内容に関心を持っていただけるわけではないと思いますが、きっとどこかで心に響く言葉の不思議、面白さに出会えるはずです。より多くの方々と言葉の奥深さを共有できることを楽しみにしています。