物作りを通じて子どもたちの無限の可能性を引き出す—そんな理念のもと、大阪を拠点に活動するNPO法人Makers’ Club。高度経済成長期を支えた技術者から若手、そして子どもたちまでを繋ぐ3世代交流型の工作教室を展開しています。”失敗をどんどん応援する”という独自の教育スタイルで、次世代を担う子どもたちの「自分らしく生きる力」を育んでいます。

サービス概要
ー NPO法人メイカーズクラブ(Makers’ Club)さんの活動内容について教えてください。
中谷さん:メイカーズクラブは、ものづくりを通じて、子ども達やその保護者、若い世代からリタイアした世代まで、幅広い年代が一緒に活動できる場を提供しています。
私たちのミッションは、これからの時代を生きる人たちが、自分らしく成長し、活躍できるようなスキルやマインドを育てることです。また、若者、特に女性技術者がキャリアを築いていく中で、「組織の中でどう自分らしく働くのか」「個人としてどんな生き方ができるのか」といったことを、語り合い、実際の活動を通じて一緒に考えていける場を大切にしています。
設立メンバーには、大学の教員や、高度経済成長期を支えた世代の技術者が多く、若手会「CYT」には大学生から20代の技術者が参加しています。大阪府を拠点に、月1回程度のペースで年間約20回のイベントを開催。依頼者の希望に応じて、さまざまな場所やオンラインで活動を展開し、年に一度はお祭りイベントも実施しています。
6つの育てる力について
ー Makers’ Clubが掲げている「6つの育てる力」について詳しく教えてください。
中谷さん:私たちは物作りを通じて育みたい力として、「主体性」「協調性」「新しいことへのチャレンジ」「知的好奇心」「想像力」「忍耐力」という6つを掲げています。
これらは一見、互いに相反するように思われがちです。例えば「主体性」と「協調性」は、多くの親御さんが「うちの子は主体性はあるけど、自分勝手で協調性がない」というように、対立するものと捉えられやすいのです。
しかし私たちは、これらは対立するのではなく、むしろ互いに育て合う関係にあると考えています。主体性を持って自分の意見を持つからこそ、他者の考えも尊重できる協調性が生まれ、同様に、新しいことにチャレンジする勇気があるからこそ、うまくいかない時の忍耐力も身につくと考えているのです。
親御さんやサポーターも「教える立場」に固執せず、一緒に考え、時には子どもから学ぶという姿勢で関わることで、大人自身も6つの力を育む機会になっています。「失敗はアイテムゲット」の精神で、世代を超えた学び合いの中から、未来を切り開く力を育んでいきたいと考えています。
設立の経緯
ー どのようなきっかけでNPO法人を立ち上げられたのですか?
中谷さん:元々は私自身の気づきからスタートしました。私は工学の博士の資格を持っていて、研究所で働いたり、現在は兼業で教員をしたりしていたのですが、息子がまだ小学生の時に「ホバークラフトを作りたい」と言ったんですね。
ネット上にも情報がたくさんあるし、専門知識もあるので簡単にできるだろうと思って取り掛かったのですが、子供たちの目指すものと、実際にネット上にあるものが原理原則を満たしているとは限らないということが分かりました。そこで、本当にホバークラフトを知っている人、本物作りを知っている人たちから子供達が直接話を聞く機会が大切だと気づきました。
この経験をきっかけに、2022年4月にNPO法人を設立。最初は大阪市の男女共同参画センター(ドーンセンター)との協働イベントから活動を始め、徐々に地方自治体や学童などからの依頼を受けて活動を広げてきました。
特徴やアピールポイント
ー Makers’ Clubならではの特徴や強みはどのような点にありますか?
中谷さん:私たちの最大の特徴は、様々な世代を巻き込んだ「入れ子構造」にあります。「匠サロン」と呼ばれる60代、70代の元技術者グループ、「CYT」と呼ばれる高校生から20代の若手グループ、そして子供たちとその保護者という三世代が交流しながら学び合います。
高度経済成長期を経験した世代は、未知の課題に挑戦する強さとマインドを持っています。彼らの経験談は、現代のDXやAI時代にも通じる貴重な知恵です。若手は子供たちに教えながら、自身の悩みを匠サロンのメンバーに相談することができるのです。
また「失敗をどんどん応援する」「失敗はアイテムゲット」という考え方も特徴的です。失敗をただの失敗で終わらせず、なぜそうなったのかを考え工夫していく中で発見を促す姿勢を大切にしています。
生徒に指導する際に意識しているポイント
ー 工作教室で子どもたちを指導する際に、特に大切にしていることは何ですか?
中谷さん:私たちの工作教室では「これをやればうまくいきますよ」と決まった道を提示するのではなく、「あなたはどうしますか?」と問いかけるスタイルを大切にしています。
親御さんには積極的に参加していただきますが、教えるためではなく、子供のこだわりを見つけたり、一緒に考えたりする役割をお願いしています。「モーターってどうやって使うんですか?」と聞かれても「一緒に考えましょう」と言ってもらうことで、子供が主体的に考え、時には親に教える場面も生まれます。
学校では45分の授業枠内で「言われた通りにやってください」という制約がありますが、私たちの活動ではそういった制限は設けません。一人ひとりのペースを尊重しています。また、若い世代の学生や社会人に指導役として参加してもらうことで、子供たちにとって身近なロールモデルとなる環境も作っています。
料金体系について
ー 活動の頻度や参加費はどのようになっていますか?
中谷さん:基本的には材料費と工作を手伝ってくれる学生さんの交通費が出ればという考えで、1回500円から1000円程度の参加費をいただいています。
活動頻度は月1回ペースで、年間20回ほど開催しています。現在は地方自治体や音楽教室、地域の学童などからの依頼に応じて実施していますが、次年度からは自主的なコースも展開予定です。
今後の展望・ビジョン
ー 今後どのような方向性で活動を広げていきたいとお考えですか?
中谷さん:今後の展望は大きく2つあります。1つ目は新たなコースの作成です。これまでは依頼されたものを受動的に実施してきましたが、今後は自分たちでコースを作り、継続的に少しずつレベルを上げていくカリキュラムを提供していきたいと考えています。
もう一つは「土壌を開く」という視点です。私たちが直接活動するだけでなく、私たちと一緒に活動してくれる人が増え、その人たち自身が実装していけるようにしたいと考えています。例えば、既存の学童や地方自治体などが自分たちでこうした活動ができるよう支援していきます。
それぞれの地域には異なる課題があります。お父さんに子育てに参加してもらいたい、防災に力を入れたいなど。そういった課題に合わせた工作教室を提供し、それぞれが互いに学び合い、ノウハウを共有しながら広がっていく仕組みを作りたいと思っています。私たちだけでなく、社会全体で子どもたちを育てていく土壌を作ることが目標です。
記事を読んでいる方に向けたメッセージ
ー 最後に、Makers’ Clubの活動に興味を持った方々へメッセージをお願いします。
中谷さん:参加を検討されている子どもたちや親御さんに対しては、これからの時代、自分で考えて道を切り開く力が必須になっていると思います。私たちは水泳教室やピアノ教室と同じように、ものづくりを通じてその力を育てていきたいと考えています。
特徴的なのは、子どもたちが単に自分で作るだけでなく、人と積極的に関わりながら進めていくことです。社会に出れば、協力し合い、自分の得意なことをアピールし、苦手なことは助けを求めながら新しいものを開発していく力が必要です。物作りが好きな子はもちろん、学校では「勝手なことをしないで」と言われがちな子こそ、このプロセスを通じて成長できると思いますので、ぜひ一度参加してみてください。
協力を検討されている方々へは、会社や社会と繋がることが最も大切だと考えています。子どもたちは会社や社会全体で育てるものであり、NPOだけでは限界があります。ぜひお力をお貸しいただき、子どもたちが未来を切り開いていくための土壌を一緒に作っていければと思います。私たちの考える6つの力を理解し、広めていくことで、子どもたちへの接し方や育て方が変わり、社会全体が変わっていくと信じています。