古来より日本人の食卓を支えてきた発酵食品。味噌、醤油、甘酒など、私たちの身近にある発酵食品は、日本の食文化の根幹を成すだけでなく、健康や美容にも大きな効果をもたらすことが現代の研究でも証明されています。しかし、便利な時代になった今、これらの「手作り発酵食品」の知恵は少しずつ失われつつあるのではないでしょうか。
そんな中、発酵食品の素晴らしさを伝え続けている『まや発酵教室』の代表・上村まやさんにお話を伺いました。小学校教員からPTSDを経験し、自らの体調不良と向き合う中で発酵食品の力に救われた上村さん。その経験を活かし、特に「揺らぎ世代」と呼ばれる40〜50代の方々を中心に、体に優しく美味しい発酵食品の作り方を教えています。
元教員の経験を活かした分かりやすい指導と、継続をサポートする独自の取り組みが評判のまや発酵教室。今回は教室運営を通じて感じた発酵食品の魅力や、教室の今後の展望について詳しくお聞きしました。

1980年 兵庫県出身。 愛知県育ち。
以前は、小学校教諭として勤務。
とあることがきっかけでPTSD、自律神経失調症、不眠症、重度の冷え性などに苦しむ生活に。
療養中に体によいと言われる発酵食品と出会い、昔ながらの発酵食の素晴らしさを知る。
「こんなに美味しくて、体にも優しいなんて!」
「難しいイメージだったけれども、やり遂げてみて振り返ると意外とシンプル!」
「メリットばっかりの発酵をもっと周りの人にも気軽に楽しんでほしい。」
そういった願いから一念発起。
神戸市東灘区にある「日本糀協会」で2016年に『糀エヴァンジェリスト』を取得。
2017年より自宅で発酵の魅力を伝える「まや発酵教室」をスタート。
「揺らぎ世代」の健康をサポート!発酵食で叶える美味しく体に優しい食生活

ー 上村さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします!まず簡単にどういった方を対象にしている教室なのか、そしてどういった指導を行っている教室なのか、『まや発酵教室』の概要についてお伺いしてもよろしいですか?
上村まや代表(以下敬称略):食生活に関心があり、40代、50代で、揺らぎ世代という風に言われる少しもやもやとした体調不安のある方を中心の対象としています。具体的な指導としましては、糀(こうじ)という米にかびを生えさせたものを使って出来る調味料や、甘酒を活用して添加物を使わずに美味しくかつ体に良い食事作りを、簡単に時短で叶えることをお伝えしています。
10年の闘病を経て見つけた使命 ~教員からPTSDを経て発酵の伝道師へ~
ー 上村さんがこちらの教室を始められた経緯やきっかけを教えていただけますか?
上村:元々は小学校の教員をしていたんですけれども、様々な条件が複数重なってしまったことが原因でPTSD(心的外傷後ストレス障害)という病気を発症し、休職を余儀なくされました。約10年ほどは、ほとんど引きこもり状態でかなり体調が悪い時期が続きました。
体調が回復し社会復帰を考えた時に、教員の仕事は凄くやりがいがあって好きだったんですけれども、フルタイムではやはり厳しすぎるなと感じました。体調不良で苦しんだ経験を生かした仕事が何かないかなと考えたところ、療養中に出会った味噌造りや発酵食がすごく効果的だったことが頭に浮かびました。
皆さんの健康をサポートする非常に素晴らしい知識(発酵)なのに、なかなか皆さんが知っているわけではないということに気が付いたんです。これはすごくもったいないなと思ったので、それを広める活動をしていこうと思いました。
元教員の強みを活かした「楽しく学べる」発酵教室の秘訣

ー 他の料理教室や発酵教室にはない、まや発酵教室ならではの一番のアピールポイントを教えてください。
上村:私自身の武器としては、やはり元教員ということで説明を楽しく分かりやすくするところがあります。それに加えて、しっかりとしたアフターフォローを提供しています。今までもそうしてきたんですけれども、なかなか皆さん日本人的と言いますか、遠慮されると言いますか、帰ってからわからないことがあっても質問できなかったり、教室ですらやっぱり遠慮して聞けなかったりすることがあります。私自身もそういった悩みを持ちやすい性格なので、生徒さんが質問をしやすい環境をしっかりと整えています。
「楽しさ」と「悩み解決」を両立!発酵ライフを続けるためのサポート術

ー 生徒さん達に指導する際に、特に意識していることや方針などがあれば教えてください。
上村:一番は楽しんでいただくことですね。「頑張る」と「楽しい」の2つが必要かなと思っています。習い事をするにあたって、「一生懸命頑張ってスキルを身につける」という体育会系の考え方があると思うんですけれども、私たちの年代(40代以降)になりますと、正直、やりたくないことはやらないで済む年代です。楽しいから行く、楽しいからやりたい、美味しいから食べたいというところは絶対に外せないと思っているので、楽しさのある教室作りを大切にしています。

また、生徒様のお話をしっかり聞き、悩みを伺って解決することが重要だと考えています。私の過去の反省点として、自分が伝えたいことだけを話して満足していたことがありました。発酵の楽しさを伝えることに熱心なあまり、生徒さんの具体的な悩みに十分寄り添えていなかったのです。生徒さんは「楽しかった」と言って帰られるので一見問題ないように思えましたが、「本当に技術が身についているのか」「実際の悩みが解決できているのか」と考えると不十分でした。多くの方が家に帰ると一人で実践するのに挫折してしまうという課題があります。
多くの方が「発酵が怖い」「うまくいっているか分からない」と言われるんです。確かに分からないですよね。仕込んだ発酵食品はその日に完成しないので、時間が経過したものを教室に持ってきて「見てください」という方もいらっしゃいます。そういったお声をしっかり伺い、躓かれているところを取り除くお手伝いをさせていただくことが最も大切なことと考えています。
体調改善から専門知識まで!発酵教室に集まる多彩な生徒たちの「二つの欲求」

ー 『まや発酵教室』に通われる生徒さんたちは、どのような悩みや目的を持って来られることが多いのでしょうか?生徒さんの特徴について教えてください。
上村:生徒さんの入会理由は大きく分けて2つあります。
まず1つ目は、便秘であったりといった、すぐには死ぬわけではないけれども、なんらかの不調を抱えていらっしゃる方がいます。
もう1つは、スキル面の向上ですね。例えば管理栄養士の資格は持っているけれども発酵については全く知らないという方や、薬膳の先生、シェフの方など、専門的なことをされている方でも、科学的根拠のある深い内容をきちんと学びたいという方に選んでいただいています。
現在は、専門的な知識をすでに持つ方が、さらに深く学びに来るケースが多くなっています。私は日本糀協会の副理事も務めているのですが、発酵文化は非常に奥が深いため、さまざまなレベルに合わせた学びの場が必要だと感じています。上級者向けの専門的な内容はもちろん、初めて発酵に触れる方向けの基礎コースも大切です。今後は料理に特化したコースやスイーツに特化したコースなど、中級者向けにも幅広く展開していきたいと考えています。日本糀協会の講師陣と協力しながら、生徒さんが自分のレベルや興味に合わせてステップアップできるような仕組みづくりを目指しており、私自身は初心者の方々をサポートする講座を担当していきたいと思っています。この新しい取り組みは9月からスタートする予定です。
四季を感じる「1年コース」で発酵の深みに触れる学びの場

ー 提供しているコースについて簡単に説明していただけますか?
上村:最近は「1年コース」というものをご提案しています。日本には四季があって、旬の食材がどんどん変わっていきます。塩麹という調味料一つでも、四季のお野菜など色々なものに組み合わせて活用する練習を継続的にしていただきたいという願いから、「1年コース」を設けています。
ただ、現在のコースは2025年8月で終了し、9月からリニューアルします。新しくは初心者向けのコース1本に絞っていく予定です。味噌造りなどの講座は、現在講師を目指されている先生方にお譲りしていく形で調整しています。
オンラインの可能性を活かして!理想の生徒さんとの「心の距離」を縮める新展開
ー 今後、より強化していきたい点や取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
上村:私の求める生徒様との相性をより重視していきたいですね。もちろん極端に選別するわけではないのですが、よりマッチした生徒様を受け入れていきたいと思います。そのために「こういった方に伝えたい」ということをもっと強く打ち出していけるようにしていきたいです。
コロナ禍でオンラインという手段も広まったので、それをもっと活かして本当に困っている方と、私のサポートしたいという思いがマッチする方との出会いを強化していきたいと考えています。
「人は吸収されたもので作られる」~発酵食があなたの体と人生を優しく支える理由~

ー 最後に、『まや発酵教室』に興味を持たれる方へメッセージをお願いします!
上村:私たち誰もが毎日食事をとる必要があります。そして実際には、食事の準備だけでも一日に2時間以上を費やしていることも珍しくありません。これだけの時間を費やすものですから、食事の質は私たちの健康や生活の質、そして人生全体に大きな影響を与えるのです。
そういったことを理解しながらも、なかなか自分の食べたいものがわからなかったり、年を重ねるごとに今までの食生活では少し合わなくなってきたと感じる方が大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
発酵という選択肢は少しハードルが高く感じられるかもしれませんが、健康へのメリットが大きいことに加え、実は節約にもすごく関わっています。時短になったり、食費が減っていったり、最終的には医療費が減っていくところまでに繋がります。
大人の方の習い事としてとてもお勧めですので、怖がらずに「残りの人生楽しもうかな」という気持ちで覗いていただけたら嬉しいです。
人は食べたもので作られますが、「人は吸収されたもので作られる」とも言えます。いくら良いものを食べても吸収されなければ意味がありません。発酵食品は消化も手伝ってくれるので、お守りのように優しく寄り添ってくれます。健康的な生活のために、ぜひ ‟発酵を学ぶ” という選択肢を検討してみてください。