フィリピン・セブ島で音楽教育とスポーツ活動を通じて、現地の子どもたちの支援を行うNPO法人セブンスピリット。
2012年の設立以来、貧困地域の子どもたちに新たな可能性を提供し続けている同法人の活動について、代表の田中さんにお話を伺いました。
語学留学がきっかけで始まった子どもたちへの支援活動
ー 団体の概要について教えてください。
田中:私たちの活動の中心は、フィリピン・セブ島の主に貧困地域に暮らす子どもたちを対象とした、音楽やスポーツを通じた教育活動です。
当初は路上で物乞いや物売りをしているような貧困層の子どもたちに限定していましたが、現在は特に制限を設けず、地域の子どもたち全般を対象に教育支援を行っています。
ー 活動を始めようと思ったきっかけについて教えてください。
田中:2011年に語学留学で英語の勉強のためにフィリピンに来たのがきっかけでした。5ヶ月ほど滞在する中で、路上で生活する子どもたちの姿を数多く目にしました。
中には日本人観光客のスマートフォンや財布を盗む子どもたちもいましたが、彼らに話を聞いてみると、お金が欲しいという以上に、やることがないという状況が見えてきました。
家はあるものの帰っても食事はなく、両親も構ってくれないという状況で、子供たちは路上に出ているのです。
小さな子どもたちが一日中路上で過ごしているのはもったいないと感じ、彼らが情熱を持って取り組めるものを作ってあげたいと思ったのが、活動を始めるきっかけです。
音楽教育とスポーツ活動を通じた可能性の創出
ー 実際に行っている活動の内容について、より詳しくお聞かせください。
田中:音楽に関しては、日本の方々から寄付していただいたリコーダーや鍵盤ハーモニカを使って、まずは合奏などの基本的な音楽教育からスタートします。
ある程度できるようになった子どもたちは、オーディションを経てバイオリンやトランペットといったオーケストラで使用する楽器の演奏に進みます。セブ島ではオーケストラの楽器に触れる機会が非常に少ないため、子どもたちにとって貴重な経験となっています。
スポーツ活動については、様々な事情で一時中断することもありましたが、ここ2、3年は近隣の子どもたちとバスケットボールを中心に活動を展開しています。
また、年に2回は日本人の学生がセブ島を訪れ、子どもたちと一緒に演奏会を行ったり、現地の学校で演奏を披露したりする10日間程度のプログラムを実施しています。
さらに2017年と2019年には、クラウドファンディングのご支援により、フィリピンの子どもたちが日本で演奏会を開催することもできました。
フィリピンのスラム地域に住む子どもたちが日本を訪れることは非常にハードルが高く、多くの方々のご支援があってこそ実現できた貴重な機会でした。
楽しさを基本とした活動方針
ー お子さんと接する際に、特に意識していることや方針などがあればお聞かせください。
田中:何より楽しい場所、ポジティブな場所であることを大切にしています。多くの子どもたちは過酷な家庭環境や地域で暮らしているため、そういった環境から一時的にでも離れられる場所を提供したいと考えています。
また、私たちの活動は義務教育ではないため、楽しくなければ子どもたちは来なくなってしまいます。もちろん、してはいけないことに対しては注意をしたり、音楽指導に関してはしっかりと行ったりしていますが、基本的には前向きな場であることを重視にしています。
教育支援から進学支援へと広がる活動の輪
ー 他の支援活動を行っている団体にない、貴法人ならではの取り組みについて教えてください。
田中:現地在住の日本人の方々のご協力もあり、日本領事館主催のイベントでの国歌演奏や、セブ市のスポーツセレモニーの開会式での演奏など、大きな舞台で演奏する機会が増えてきています。
そうした活動が認められ、最近では音楽活動に参加している子どもたちが無償で大学まで進学できる道が開かれました。
スラム地域の子どもたちの大学進学率は1%にも満たない状況ですが、ここ2、3年で大学進学者が増えてきており、良い流れができつつあります。
音楽を通じて得たスキルが、子どもたちのその後の人生を大きく変える可能性につながっているということを実感しています。
就労支援も視野に入れた今後の展望
ー 今後、団体として強化していきたい部分や取り組んでいきたいことをお聞かせください。
田中:大学進学への道筋ができてきた一方で、すぐに働いてお金を稼ぎ、家族を助けたいという子どもたちもいます。今後は、就労に結びつく取り組みも始めていきたいと考えています。
例えば、日本語を学ぶことでセブにある日系企業への就職がしやすくなったり、日本文化を学ぶことで職場環境にスムーズに馴染めるようになったりと、大学進学以外の選択肢も提供していければと思っています。
ー 最後に、この記事をご覧の方へメッセージをお願いします。
田中:フィリピンの子どもたちは厳しい環境に身を置いていますが、本当に心の底から楽しみながら活動しています。
日本の方々にも、それぞれ様々な悩みや困難があると思いますが、子どもたちのように前向きに取り組むことで未来が開けていくということを、私は日々の活動を通じて実感しています。
一人ひとりが楽しんで取り組めるものを見つけられることを願っています。