「正解のない絵の世界で、自分だけの発見を楽しんでほしい」――神戸を拠点に、子どもから大人まで幅広い世代が通う絵画教室を主宰する島田直季さん。
自由な表現を大切にする教室づくりと、20年間続けてきた指導への想いについて伺いました。


教室の概要と対象
私の運営する絵画教室は、大阪と神戸に10拠点あります。そのうち3カ所は自分で運営していて、残りはカルチャーセンター講師として出向いている教室です。
各教室では、子どもから大人まで幅広い年代の方に絵を学んでいただいています。
年齢の目安としては、子どもは5歳くらいから中学生までが対象です。大人の教室は高校生以上で上限は設けていません。どの年代の方にも、その人らしい表現ができるよう、柔軟に対応しています。
基本的には月に2回の開催で、子どもクラスは90分、大人クラスは2時間のレッスンを行っています。
大人の教室では、日本画や油絵、水彩など、使用する画材は自由です。
好きな道具を持ち込んでいただき、それぞれのスタイルで表現してもらっています。絵に触れるのが初めてという方でも、安心して取り組めるように、画材の使い方から丁寧に指導しています。


教室を立ち上げたきっかけ
もともと私は美大卒業後、自分の絵を描き発表することを続けながら会社員として働いていました。
やがて「もっと自分の作品を描く時間を持ちたい」と思うようになりました。やはり、会社勤めをしながらでは作品制作の時間が限られてしまいます。
そんな想いから、思い切って独立して、絵画教室を立ち上げることにしました。
現在も私は作家として活動していますが、創作活動と指導の両方に関わることができるこの仕事は、自分にとってとても大きな意味を持っています。
作品を描きながら、同時に誰かの創作を支えることができるというのは、非常にやりがいを感じます。


教室の特徴と大切にしていること
私の教室では、型にはまった描き方を教えることはしていません。むしろ、生徒自身の「ものの見方、感じ方」を育てることを重視しています。
絵は技術や技法だけではなく、観察すること、自分の視点を持つことから表現することが始まると思います。
たとえば、リンゴを描くときに「赤く描かなくてはいけない」と思い込むのではなく、「このリンゴは青く見える」と感じたなら、青で描いていい。
そんな自由な発想こそが、創作の原点だと思っています。そのため、生徒一人ひとりとコミュニケーションをとりながら、表現を一緒に探っていくようなレッスンを心がけています。
また、年齢や発達段階に合わせて教え方を工夫しています。
5歳の子どもに、いきなり大人に教えるようなデッサンを指導するのではなく、粘土や素材を使って触覚からアプローチするなど、その子の感覚に合った方法で遊びからアートに親しんでもらいます。
一方で、中学生には遠近法や陰影といった視覚的な要素も取り入れて、少しずつ深い表現へと導いていきます。


印象に残っている生徒とのエピソード
教室を始めてから、もう20年が経ちました。たくさんの生徒たちと出会ってきましたが、特に心に残っているのは、かつて小学生の時に通っていた子が、大人になって突然私の個展を訪れてくれたことです。
「先生、覚えてますか?」と声をかけてくれて、その瞬間に当時の面影がよみがえりました。その子は今では社会人として立派に成長していて、今では一緒にお酒を飲みに行くこともあります。
こうして長い年月を経てもつながりが続くのは、この仕事ならではの喜びだと感じています。
また、私の教室で絵に出会ったことがきっかけで、美術大学に進学したり、デザイン関係の仕事に就いた生徒もいます。
自分の作品や教室での指導が誰かの人生に影響を与えたと感じられる瞬間は、何よりのご褒美です。

今後の展望と取り組みたいこと
今後は、描くだけでなく「鑑賞する力」を育てることにも力を入れていきたいと考えています。作品を自分で表現するだけでなく、他人の作品を見ることで、新しい気付きや感性が養われます。
そのために、美術館やギャラリーへ生徒たちと一緒に足を運ぶ機会をつくりたいと考えています。実際に本物の作品を見て、自分なりの感じ方を持つこと。
それが、自分の表現にも自然と深みを与えてくれると思っています。
特に高学年の子どもたちは、「写実的に描きたい」と思う子が多いですが、絵には無限の表現方法があります。写実だけが正解ではないと伝えられる場を、これからもっと増やしていきたいですね。

興味を持った方へのメッセージ
もし少しでも絵に興味があるなら、ぜひ一度体験にいらしてください。特に子どもの教室では、上手い・下手を評価するのではなく、「楽しく描くこと」を何より大切にしています。
そこから絵をもっと深く知りたい、学びたいという気持ちが芽生えてくると思います。
初心者の方には、画材の名前や使い方など、基本的なことから丁寧に説明しています。
描くことが好きになるきっかけは、ほんの些細な体験から始まります。
ぜひ、絵を描く楽しさと、自分だけの表現を見つける喜びを味わっていただきたいと思います。
少しでもご興味があれば、見学や体験レッスンにぜひご参加ください。皆さまとアートを通じて出会えることを、心から楽しみにしています。