実戦空手道 心学館――心を育てる空手道場の20年 

静岡県御殿場市にある実戦空手道心学館は、幼児から大人まで幅広い世代が「心と身体を鍛える場所」として、地域に根ざして活動を続けている空手道場です。

心学館という名前の通り、「こころを まなぶ やかた」を掲げ、単なる武道の技術習得にとどまらない教育を実践しています。 

心学館の創設者であり代表の五味様に、その想いと展望をお伺いしました。

地域に根ざした小さな道場としての始まり 

私自身が心学館を立ち上げたのは、今からちょうど20年前の2005年のことです。当初は静岡県御殿場市で大人5人の仲間たちと一緒に始めました。空手自体は20代前半から始め、長年選手として活動していたのですが、自分が人に教える立場になるとは当時は思ってもいませんでした。

それでも「教えてくれるならやりたい」と言ってくれた仲間たちの声に背中を押され道場を開いたのです。 

最初は大人を中心に稽古をしてきましたが、年月を重ねるうちに地域の方々から「子どもにも教えてほしい」という声をいただき、幼児や小学生の指導も始まりました。

今では子供の生徒が中心となり大人と子供を合わせ在籍している生徒が常時10人前後の小さな町道場です。最初に教えた幼児たちは高校生や大学生となり現在も稽古に励んでいます。道場の歴史そのものが生徒たちの成長と重なっています。

 

組手と心の修練を重視した独自のコース 

稽古は週1回の通常クラスに加えてフルコンタクト空手に対応した「組手コース」、そして月2回の特別コース「心錬(しんれん)コース」があります。

通常クラスでは道場名にもある『こころを まなぶ やかた』の理念を体現する事を目的として稽古を行っています。空手の稽古というと技の習得が中心だと思われがちですが、私自身が重視しているのは「心の教育」です。

例えば「反省」という言葉の意味も独自の定義で伝えています。私たちにとっての反省とは、単なる謝罪ではなく、「次に活かされて初めて反省が完了する」こと。失敗を糧に未来の行動を変えていく、その姿勢を身につけてもらうことが大切なのです。それは稽古以外の日常生活でも常に意識してほしいことです。

この「反省」の教えは、失敗したり後悔したりしたことを、次に同じ場面が現れた時に繰り返さぬようにその時が来るまでずっと反省した心を持ち続けること。

それが数日先になるのか数ヶ月、数年、いや一生現れないかも知れません。しかし心の中にずっと持ち続けることが大切で反省が多ければ多いほど本当の意味での心の成長であり、この教室の目指す教育です。 

そして特別コースの「心錬コース」は、通常稽古で学んだ心を「錬(ね)る」といった意味を込めて「心錬」と名付け誕生しました。

心錬の生徒は空手の基本的な稽古の応用や、身の危険を回避する護身術、心学館オリジナルの難易度が高い組手形の習得など多岐に渡り稽古が行われています。

その分心錬の稽古は一段と厳しくなりますが、厳しさに敢えて身を置くことで色んな自分を知るきっかけにもなるでしょう。

そんな自分自身と向き合うことは大変かも知れませんが、その分得るものは大きく自分の心の成長をより後押ししてくれるコースです。

ちなみに現在の心錬のメンバーは小学生の低学年の時に心錬の門を叩き、厳しい稽古を課せられてきましたが誰一人脱落する事なく10年以上も心錬を続けています。

また組手コースは心と技の調和を主体にしています。

組手を通じて相手に敬意を払いながら自分の限界に挑戦する中で謙虚さや忍耐力が養われ、ただ相手に勝つことだけではなく自分自身を高めることに重点を置き、負けても「挑む心」、困難に立ち向かう「勇気」を組手の中で育てます

初心者の方でも安心して取り組めるように年齢や経験に応じた稽古内容で安全に配慮した組手指導を行っています。

教えることの意味と生徒との向き合い方 

少人数で運営している小さな道場ですが、その分、私自身が子どもたち一人ひとりと深く向き合う事ができます。すぐにできる子もいれば、時間をかけて成長する子もいます。

そうした子どもたちの良いところを見つけ、必要なときはしっかり叱り、良いところは素直に褒める。その子にとって本当に大事なことは何かを見極めながら指導しています。

時には自分の子どもに接するような気持ちで、一切妥協せず本気で向き合う。それが私の指導の根幹です。生徒が何かに悩んでいたり、自信を持てなかったりしても、それを一緒に乗り越えられるような道場でありたいと思っています。

子どもたちが大人になったとき、「あの時こう教わって良かった」と思えるような、そんな記憶を残せる存在でありたいのです。 

13年半の軌跡と心の成長 

つい先日も、私が最初に教えた当時4歳だった子が高校を卒業し黒帯の昇段審査を受けましたが、入門してから13年半もの間、空手を通して心を鍛え、己と向き合い続け、悩みや迷いなど乗り越えてきたその積み重ねが、昇段審査という舞台にすべて現れていたと思います。

その真っ直ぐな姿に、見ていた誰もが胸が熱くなり込み上げるものを抑えきれないくらいでした。その瞬間、自分が20年間やってきた道場の意味が報われた気がしました。

生徒の成長は、私にとって何にも代えがたい財産です。心と心で向き合うからこそ、小さな道場でも大きな感動が生まれたのだと思います。

小さな頃から見守ってきた生徒が、自分自身の力で前に進んでいく姿を見るたびに、この道場を続けてきてよかったと心から感じます。 

今後の展望――生涯学習としての空手 

今後も、今のスタイルを大切にしながら、『心の教育に特化した道場』としての姿勢を貫いていきたいと考えています。子どもたちだけでなく、大人の生徒さんにとっても自分を磨く場としてこの道場が役立つように私自身も学び続ける必要があると感じています。 

私は空手を「生涯学習」だと思っています。道場の外でも、自分の心を律し、前を向いて生きていく。心学館はそのための力を育てる場であり続けたいです。空手を通して身につけた心構えや姿勢は社会に出たときや家庭の中でも大いに役立つものだと信じています。

自信がない人こそ、心学館へ 

心学館には、自分に自信がないという人が多く通ってきます。なぜかはわかりませんが、そういう方が自然と集まってくる道場なのかもしれません。

何かに悩んでいる、前に進みたいのに一歩が踏み出せない、自己表現がうまくできない等、そんな人達にこそ一緒に空手をやってほしいと強く思います。 

空手の技術ではなく、心を磨く場所としての心学館。一緒に心を育て強くなっていける仲間をいつでも歓迎しています。どうぞ気軽に道場へ足を運んでみてください。

ここには、技術を超えた人間的な成長が待っています。