埼玉県三郷市で開かれている「書道教室 紅(くれない)」。この教室では、幼稚園児から80代までの幅広い世代が、静かな筆の時間を楽しんでいます。
生徒の一人ひとりに寄り添いながら、書道の奥深さと楽しさを伝えているのが、講師の岩井紅果さん。教室誕生のきっかけや、日々の指導、そして未来への想いをじっくり伺いました。

三郷で書に触れる時間を。地域密着で広がる書道の輪
私が運営している「書道教室 紅」は、埼玉県三郷市で開いている教室です。場所は三郷中央駅からアクセスしやすく、近隣に小学校もあることから、小学生が多く通ってくれています。
とはいえ、生徒の年齢層は非常に幅広く、下は幼稚園の年少さんから、上は80代のシニアの方まで。まさに老若男女問わず、“誰でも書道を楽しめる場”として成り立っているのが、私の教室の特徴です。
書道って、どうしても「堅苦しい」「敷居が高そう」といったイメージを持たれがちですが、私の教室ではまず“楽しむこと”を一番の入口にしています。
筆を持って、墨の香りを感じながら、集中して一文字に向き合う時間は、年齢を問わず誰にとっても特別なものになるんです。
教室の原点は、6畳一間の小さな夢から
専門学校で書道を学び、「いつか自分の教室を開きたい」と思ったのが、すべての始まりでした。卒業後、実家の6畳間でたった一人の生徒さんを迎えるところからスタートした教室は、その後2回の引っ越しを経て、現在の場所で活動しています。
当時からずっと考えていたのは、「書道をもっと身近に」ということ。お習字を習ったことがない人でも、気軽に足を踏み入れられる教室にしたいと考えていました。
生徒さんたちは、学校や仕事帰りにふらっと来てくれる方もいれば、しっかり目標を持って通ってくださる方もいます。その両方が自然に同じ空間にいられるような、そんな柔らかい空気感を大切にしてきました。
2つのコースで、目的やレベルに合わせた指導を
教室では現在、主に2つのコースを提供しています。
ひとつは「スタンダードコース」。こちらは初心者の方やお子さんを中心に、月例の課題に取り組みながら、基本的な書道の力を少しずつ身につけていく内容です。お手本を見て、模写して、添削して…という王道の学びを丁寧に積み重ねていきます。
もうひとつが「トータルコース」。これは高校生以上の生徒を対象とし、古典臨書を軸に作品制作までをしっかり行うコースです。全国展への出品を目指す生徒も多く、かなり本格的な内容になります。
特に“型”を重んじながらも、自分らしい表現を探す過程は、書道の醍醐味そのものだと思っています。
「型破りは型あってこそ」。だからこそ、基礎を大事に
書道というと、個性や自由な表現に目が向きがちですが、その根本には“基礎”があります。古典臨書を丁寧に繰り返すことで、自然と筆づかいや線の運びが身につき、そこから初めて、自分らしさが生まれてくる。
私が伝えたいのは、「自由に書く」ために必要な土台をしっかり作るということです。
もちろん、「これが正解」というような世界ではありません。流派も考え方も様々あるなかで、一人ひとりが自分のペースで、自分の形を見つけていけること。それをサポートするのが私の役割だと考えています。
講師がひとりだからこそ見える、成長の軌跡
現在、教室は私ひとりで運営していますが、それはある意味、最大の強みでもあります。というのも、どの生徒がどんなところでつまずいているか、何が得意なのか、どんな表現をしたいのか――それを常に肌で感じながら、個別に対応できるからです。
「最初はこの線がうまく引けなかったけど、今ではこんなに堂々と書けるようになった」そんな成長を一緒に見守れるのは、講師冥利に尽きます。
生徒の数が増えても、目の前の一人に丁寧に向き合う姿勢は変えません。それが、私自身の指導方針であり、この教室の“芯”でもあります。
初めての合宿、そして共に笑った夜
最近では、長年の夢だった「書道合宿」を初めて開催しました。中学生から大人の生徒さんまでが集い、一緒にご飯を食べたり語り合ったりしながら、作品に向き合った時間は、本当に宝物のような経験でした。
教室を開いた頃から、ずっと「いつかやってみたい」と思っていた企画がようやく実現できたこと。
そして、それに賛同し、参加してくれた生徒たちの姿に、あらためてこの教室が“仲間”としてのつながりを育んできたのだと実感しました。
10周年に向けて、教室からもっと広い世界へ
2024年で教室は6年目。次なる目標は、10周年に教室としての展覧会を開くことです。
現在は地域の生徒を中心としていますが、これからはオンラインでの学びや動画コンテンツなども整えて、もっと多くの方に書道の魅力を伝えたいと考えています。
「書道教室 紅」らしい、親しみやすくてしっかり学べる指導を、遠方の方にも届けられるようにしたいですね。
SNSでの発信や動画制作も進めており、筆を持っていない方でも“書道って面白そう”と思ってもらえるようなきっかけ作りにも力を入れていきたいと考えています。
書道は、誰でもいつからでも始められる
最後に、この記事を読んでくださっている方へ伝えたいのは、「始めるタイミングに正解はない」ということです。
子どもでも、大人でも、何歳であっても、「書いてみたいな」と思ったその時が、まさにベストな瞬間。書道教室に通う・通わないに関係なく、まずは筆を持って、自分の字を書いてみてください。
それだけで、心が少し整ったり、新しい感覚が芽生えたりするはずです。
書道を通じて自分を表現し、誰かとつながり、日常に彩りが生まれる。そんな体験を、もっと多くの人に届けていきたいと思っています。