「字が上手く書けない」「書道は堅苦しい」そんなイメージを一新する書道教室が広島県にあります。『清水凌勢書道教室』を運営する清水凌勢氏は、元作業療法士という異色の経歴を持つ書道家。書道一家に生まれながらも一度は書道から離れ、医療現場で患者さんと向き合う中で再び書道と出会った清水氏の人生には、多くの人が共感できるストーリーがあります。
「厳しい指導」ではなく「できたことを褒める」指導方針、3歳からシニア世代まで受け入れる懐の深さ、そして作業療法士としての専門知識を活かした個別対応。従来の書道教室とは一線を画す『清水凌勢書道教室』の魅力について、代表の清水氏に詳しくお話を伺いました。

松岡媛風に師事
日本書芸院 二科審査会員
呉市書道協会 理事
広島県書美術振興会 評議員
清水凌勢書道教室 代表
3歳からシニア世代まで!「誰でも歓迎」のオールインクルーシブ書道教室

ー清水先生、本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは『清水凌勢書道教室』の概要について、どういった方を対象にしてどのような指導を行っているのか教えていただけますか?
清水凌勢 代表(以下、敬称略):対象は本当に幅広く、3歳からシニア世代の方まで受け入れています。
文字をきれいに書く練習をしたいけれど、どうやって教えたら良いか分からないという小さなお子さんから始まり、小学生や中学生のように教育的に字を書くことを学びたいというお子様、そして高校生以上の大人の方で芸術的な書道も学びたい方まで、本当に多岐にわたります。教育的な書道から芸術としての書道まで、そして実用的なペン字まで幅広く指導させていただいています。
書道一家の息子が挫折から再起!医療現場で見つけた「自分だけの使命」
ー清水先生がこちらの書道教室を開かれた経緯やきっかけを詳しく教えてください。
清水:実は私は一度書道を完全に辞めた時期があります。母親も書道家、祖父も書道家という書道一家に生まれ、幼少期から書道に携わってきました。しかし小さい頃はやらされている感が強く、ずっと嫌々取り組んでいて、楽しさをあまり感じることができませんでした。中学・高校生の頃にはもう書道から完全に離れていました。
その後は全く違う道に進み、作業療法士の資格を取得して病院で勤務していました。作業療法士の仕事は、入院患者さんの人生に深く触れながらリハビリを行う仕事です。その方がどのような生き方をしてきたのかを理解しながらリハビリを進めていく中で、自分自身の人生を振り返る機会が多くありました。そこで「自分にしかできないこと」を改めて考えた時に、書道が浮かび上がってきたのです。
自分の得意なことを活かして仕事をしていきたいという思いが強くなり、書道が選択肢として入ってきました。書道には地味なイメージや堅苦しいイメージを持つ方が多く、実際に習う方も減ってきています。しかし、私のような若い世代でも十分に楽しさを感じることができ、芸術としての書道の面白さを多くの人に伝えていきたいと思うようになりました。
また、字にコンプレックスを持っている方が想像以上に多いことも分かりました。私自身、親がとても上手だったこともあり、「習っていた割にはそれほど上手くない」というコンプレックスを長い間抱えていました。
しかし、改めて書道に向き合う中で、文字には美しく見えるための理論がしっかりと確立されていることを実感しました。その理論さえ理解すれば、誰でもある程度はきれいに書けるようになります。子供でも大人でも、少しでも自分の字に自信を持って書けるような人が増えてほしい、そんな思いで教室を開設しました。
「厳しさより達成感を」従来の書道教室を覆す革新的指導哲学

ー他にも書道教室がたくさんある中で、『清水凌勢書道教室』ならではのアピールポイントを教えてください。
清水:これはメリットでもありデメリットでもあると思いますが、私が一貫して大切にしているのは、厳しさよりも「できた!」という達成感を重視することです。字を書く自信をつけてもらうことに指導の重点を置いています。
子供たちにも大人にも、基本的には添削は行いますが、良くなった部分や上達した点にフォーカスを当てて指導を進めています。字にコンプレックスを持っている方が多いので、できたことに目を向けて、少しでも自信を持って字を書くことが苦痛ではなく、むしろ楽しいと感じられるような指導を心がけています。
ただし、その分昔ながらのお稽古のような厳しさは少ないため、礼儀や作法をしっかりと学ばせたいと考えている親御さんには、若干のギャップを感じられるかもしれません。私たちとしては、「できた!」という成功体験を何よりも大切にしています。
また、字を書き始めの段階から丁寧にフォローできるよう、オリジナルのプリントなどを活用しており、特に未就学児の指導には自信を持っています。
元作業療法士の専門知識が光る!一人ひとりに寄り添うオーダーメイド指導

ー生徒さんたちに指導する際に、特に意識していることや方針があれば教えてください。
清水:先ほどお話しした「できた!」という体験を重視することに加えて、「アドバイスした内容が次回にどう変化しているか」を必ず確認することを大切にしています。優しい指導とはいっても、適当では意味がないと考えているからです。前回アドバイスした点が次回どのように改善されているかを丁寧にフィードバックすることで、着実な上達につなげています。
この個別性を重視したアプローチは、作業療法士としてのリハビリ経験が活かされていると感じています。病院でのリハビリでは、担当者がしっかりと患者さんに付いて、その方に合った目標を設定し、目標に沿ってリハビリを進めていきます。書道の指導でも同様に、その子やその方の技術レベルやスキルに合わせた目標を立て、それに対して具体的なアドバイスを行っています。
最近では、ADHDなどの発達障害や集中が困難なお子さんも稀にいらっしゃいます。医療従事者としての知識があるため、グレーゾーンや発達障害に関する理解もあり、そういったお子さんの指導も得意分野の一つです。
書道で身につく驚きの能力!集中力・空間認識・手先の器用さが同時に向上

ー書道で得られる能力についてですが、清水先生から見てお子さんたちにどのような変化が生まれると感じますか?
清水:書道で得られる能力はたくさんありますが、お子さんのレベルによって身につく能力も変わってきます。ある程度座って集中して書けるレベルのお子さんであれば、美しい字を書く技術が確実に身につきます。お手本を見て、それを目で認識し、実際に書いていくという過程を通じて、空間的な認識能力も向上します。
美しい字を書けるようになることはもちろんですが、それだけでなく、美しいものを見た時の認識力や、空間的な認識を実際の手の動きに伝える能力も養われます。
また、字を書くこと自体が目標のお子さんの場合は、しっかりと座って手をついて書くという正しい姿勢や、一枚の用紙を最後まで書き終える集中力も身につきます。お子さんそれぞれのレベルに応じて、様々な能力が向上していきます。
美しい字を書くこと、目で見た認識を手の動きに変換する巧緻性(こうちせい:一般的に手先が器用なこと)、そして集中力の向上を特に重視しています。
ー確かに、書道が上手なお子さんは絵も上手な印象があります。
清水:まさにその通りです。お手本を見た時に、縦線がその文字のどの位置にあるのかなど、細かな部分まで認識できるお子さんとそうでないお子さんには明確な差があります。練習を重ねることで、そういった距離感や位置関係を認識する力が向上し、さらにそれを手の動きで表現する力も同時に身につきます。認識力と表現力の両方が鍛えられることが、書道の大きな魅力だと思います。
プロが断言「書き順は絶対に大切」その科学的根拠とは?

ー恥ずかしながら私は、漢字の書き順がメチャクチャなのですが…。書き順の重要性について、専門家としてのお考えをお聞かせください。
清水:書き順は非常に重要だと考えています。その理由を具体的にお話しすると、日常生活で字を書く際、急いで書くときは自然と行書のような続け字になりがちですよね。プライベートで丁寧に一字一字書く機会はそれほど多くありませんし、実際には文字を繋げて書くことが多いと思います。
このときに書き順が間違っていると、文字の繋がりが非常に不自然になってしまいます。しかし、正しい書き順で書いていれば、文字を繋げて書いても自然で美しい流れを保つことができます。
また、書き順というのは長い歴史の中で確立されてきたものです。甲骨文字から始まり、篆書、隷書、楷書、行書、草書と、様々な書体の変遷を経て現在の文字があります。これらすべての書体において自然に書けるようになるためには、正しい書き順が不可欠です。
実用的な面から見ても、正しい書き順の方が効率的で書きやすいことが多く、それは、長い歴史の中で培われてきた合理性に裏打ちされていると考えられます。
月額6,000円で毛筆も硬筆も!コスパ抜群のセットコースが人気の理由

ー提供されているコースやプランについて簡単に教えてください。
清水:コースは大きく子供向けと大人向けに分かれています。
子供向けには、硬筆と毛筆をセットで学べるプランを中心に、未就学児向けの文字を書き始めたばかりのお子さん向けのなぞり練習中心のプランもご用意しています。
大人向けには、実用的なペン字のコースと、芸術的な書道のコースをそれぞれ設けています。
ーホームページを拝見すると、毛筆と硬筆のセットコースが月額6,000円程度と、とてもリーズナブルな料金設定になっていますが、実際にセットで習われる方は多いのでしょうか?
清水:現在通っていただいている生徒さんの約半数が、セットコースを選択されています。最初は硬筆のみで始められる方も多いのですが、途中でセットコースに変更される方が非常に多いのが特徴です。私たちとしても、両方を学ぶことで相乗効果が期待できるため、セットコースを最もお勧めしており、結果的に半数程度の方がこのコースに落ち着かれています。
上級者も初心者も見捨てない!二極化する生徒ニーズへの戦略的アプローチ

ー今後、より強化していきたい取り組みについて教えてください。
清水:二つの方向性で取り組みを強化していきたいと考えています。
一つは、上達した生徒さんたちのさらなるレベルアップです。展覧会への出品などを通じて、優秀な生徒さんたちをしっかりと引き上げ、具体的な実績を作ることで、他の生徒さんのモチベーション向上にもつなげたいと思います。
もう一つは、字を書くことが苦手なお子さんへのサポート強化です。現在、高学年になっても字が上手く書けないお子さんが増えている現状があります。そういったお子さんも、親御さんの「少しでも上達してほしい」という願いを背負って通われています。
お子さん自身は苦手意識があるため嫌がることも多いのですが、そういった親御さんの思いにもしっかりと応えたいと考えています。ただ、一人ですべてのお子さんに付きっきりで指導するには限界があります。
そこで現在、基礎的な教材の充実に力を入れています。書き順や基本的な文字の書き方、特にひらがなに特化したコツを凝縮したオリジナルプリントを作成中です。高学年のお子さんでも、実は低学年で習う漢字やひらがなから復習が必要なケースが多いため、そういった基礎的な部分をしっかりとカバーできる教材を用意することで、私が常に付きっきりでなくても着実に上達できる環境を整えたいと思います。
上級者には展覧会などの目標を、初心者や苦手なお子さんには充実した教材でのサポートを、という両面からのアプローチが私の今後のビジョンです。
「堅苦しい書道はもう卒業」自信と楽しさを届ける清水流メッセージ

ー最後に、『清水凌勢書道教室』に入会を考えていらっしゃる生徒さんおよび保護者の方たちへメッセージをお願いします!
清水:書道というと堅苦しいイメージを持たれる方が多いと思いますが、私たちの教室は非常にアットホームで、「できた!」という想いを何よりも大切にしているため、明るく楽しい雰囲気の中で学んでいただけます。
文字というものは、中国の古い時代から現代まで長い年月をかけて発展してきたものです。そのため、美しく書くための理論がしっかりと確立されています。その理論さえマスターしていただければ、誰でも必ずある程度はきれいに書けるようになります。
私は、自分の字に自信を持って書けるようになることは、誰にでも可能だと確信しています。ぜひ私たちの教室で、一緒に自分の字に自信を持てるようになりませんか。そして、芸術としての書道の奥深い楽しさも感じていただければと思います。皆さんと一緒に学べることを心から楽しみにしています。