近年、子育て環境の変化や地域のつながりの希薄化が進む中、子育て支援の重要性がますます高まっています。特に、核家族化や都市化の進展により、子育ての経験やノウハウが世代間で継承されにくくなっており、多くの親が孤立した環境で子育てに奮闘している現状があります。
そんな中、宮城県名取市で特徴的な子育て支援活動を展開しているNPO法人があります。『NPO法人子育て応援団ゆうわ』は、従来の保育や教育的アプローチだけでなく、「遊育(遊び+育つ)」という独自の視点から、子どもたちの健全な成長を支援しています。
東日本大震災の経験も踏まえ、「地域で親育ち子育ちを見守り応援し支え合う」という理念のもと、児童センターの運営や保育所運営、子育てイベントの開催など、多岐にわたる事業を展開。さらに特筆すべきは、子どもたちの「遊び」を重視した取り組みです。
今回、5人の子どもを育てながら理事長を務める斎藤勇介氏に、団体の理念や特徴的な取り組み、そして子育て支援に対する熱い想いについてお話を伺いました。
地域全体で子育てを支える仕組みづくりを目指して
ー斎藤様、本日はどうぞよろしくお願いいたします!まずは『NPO法人子育て応援団ゆうわ』の概要について教えてください。
斎藤勇介 理事長(以下敬称略):『NPO法人子育て応援団ゆうわ』は子供・子育てに関わる活動を行っている団体です。「地域で親育ち子育ちを見守り応援し支え合う社会の仕組みを作っていく」という理念を掲げており、少し奇妙に感じるかもしれませんが、法人の総会では必ず「発足したときから、‟消えてなくなること”を目標にしている」と話をしています。
なぜなら、子育ては地域全体で支え合える環境であるべきだと考えているからです。児童館であったり学習支援であったり、様々な取り組みが必要とされていますが、それらを地域の方々が自然に見守り、応援していける環境作りを目指しています。そのため、子ども・子育ての生活環境へのアプローチと同時に、地域づくりの視点も大切にしています。
ー親育ちという言葉が印象的ですが、これについてもう少し詳しくお聞かせいただけますか?
斎藤:今の保護者世代は、すでに核家族化が進み、地域との繋がりが希薄な環境で育ってきた方々も多い状況です。私の世代では、地域のご近所さんが親戚なのか隣人なのか分からないくらい地域性が強い環境で育ち、小さい子どもとの触れ合いも自然にありました。
しかし、現代の親御さんの中には、自分の子どもが生まれて初めて赤ちゃんを抱っこするという方も珍しくありません。一生懸命子育てをしようとしているけれど、経験がないために分からないことが多い。そこで、親御さんたちがさまざまなことを経験できる機会を提供することが、結果として子どもたちの育ちにも繋がっていくと考えています。「なんで分からないの?」ではなく、経験がないところは経験できるようにサポートしていく。それが親育ちにとって大切なことだと考えています。
保育現場での経験を活かした法人設立への想い
ー斎藤さまがこの法人を設立したきっかけについて教えてください。
斎藤:私は幼稚園のスクールバス運転手からキャリアをスタートし、その後、社会福祉法人の保育園で保育士として働きました。最後は地域子育て支援センターを担当し、地域の育児サークルや育児ボランティアの方々と関わる中で、より良い子育てを自分なりにもっと発信していきたいと考えるようになりました。
保育園での活動自体は充実していましたが、私の中で「地域の中で親育ち子育ちを見守って応援していく」という想いが強くありました。保育園だけが頑張るのではなく、地域全体で繋がりを持って取り組んでいく必要性を感じていました。一保育士として発信していくのか、それとも施設と連携を取りながらハブ的な役割を担うのか考えた結果、自分で法人を立ち上げることを決意しました。
「遊育」を重視した特徴的な支援活動
ー他の子育て支援NPO法人との違いや特徴を教えてください。
斎藤:私たちは「放課後の子どもたちに寄り添う」という立ち位置を専門性として重視しています。教育と遊びは、子どもたちの育ちにとってどちらも大切な存在です。学校教育で得た知識や経験を、失敗や成功を繰り返しながら本当の生きる力に変えていく。その過程において、遊びの中にはたくさんの重要な要素が含まれています。
私たちは敢えて指導的・教育的な立ち位置ではなく、支援者として子どもたちが自ら経験を積み重ねることに寄り添う姿勢を大切にしています。「遊育(遊ぶ+育つ)」という考え方を重視し、「プレーパーク」での自由な遊び場提供や、放課後児童クラブでの全力で遊び込める環境づくりを実践しています。
ー具体的にどのような活動をされているのですか?
斎藤:「プレーパーク」では、焚き火をしたり工作をしたりと、自由に遊べる環境を提供しています。また放課後児童クラブでは、限られた時間ではありますが、子どもたちが主体的に全力で遊び込める場を提供しています。
興味深い例として、クリスマス会などの行事についてお話しさせていただきます。私たち専門職の大人たちは、行事を子どもたちの遊びの一部として提供しているつもりです。子どもたちも確かに楽しんでくれて「また来年もやりたい」という声も聞かれます。しかし、その後に「クリスマス会終わったから遊んでいい?」という言葉が出てくることがあります。
これは非常に示唆的です。私たちは行事も遊びの一部だと考えていますが、幼稚園や保育所の場合、全員参加が基本です。子どもたちは自分で選んでその場に来たわけではなく、大人が設定した活動環境の中に入っているわけです。結果として楽しい経験になったとしても、それが本当の意味での「遊び」だったかというと、必ずしもそうではないかもしれません。
一方で、例えば掃除をしていた時に「何してるの?」と子どもが来て、「掃除してるんだよ」と答えると「じゃあ一緒にやる!」となり、それが子どもにとっては楽しい遊びになることもあります。このように、遊びの本質というのは非常に深いものだと考えています。
子どもの主体性を重視した関わり方
ー子どもたちと関わる際に特に意識されていることはありますか?
斎藤:大人の考えで頭ごなしに否定しないよう、職員・スタッフと徹底しています。子どもの権利を柱に、子どもの意見表明や主体的な参画を大切にしています。
例えば、「駄目」「危ない」「禁止」という言葉をいかに使わずに安全を確保するか。でこぼこがあって転んでも、周りに尖ったものがなければ大丈夫、というように予測できる危険は敢えて残し、自分で気を付ける経験ができるようにしています。形にこだわるのではなく、プロセスや失敗も大切な経験として捉えられる視点を持って取り組んでいます。
多様な事業展開と地域との繋がり
ー現在取り組まれている事業について詳しく教えてください。
斎藤:主に3つの事業を展開しています。
1つ目は児童センターの指定管理運営事業です。0歳から18歳までの子どもたちの健全育成を図る施設として、行政から受託して運営しています。
2つ目は小規模保育所の運営です。こちらも行政からの受託事業で、19名定員の0歳から2歳児までを受け入れています。保育所では、職員の方々が一生懸命取り組んでいますが、業務の擦り合わせや事務時間の確保に苦労されている現状があります。子どもたちともっと向き合いたいという思いがある一方で、事務効率をどう上げていくかという課題もあります。
3つ目は講師派遣と子育てイベントの開催です。児童館や保育園、行政などと協力しながら、子どもたちに必要な経験の場を提供したり、私たちの知識や経験を各自治体や他の運営団体に伝える活動を行っています。特に現場の保育士さんや幼稚園の先生方は、保育充実へのプレッシャーを感じている方も多く、負担感を減らしながら子どもたちとより充実した活動ができるよう、心のケアも含めたサポートを心がけています。
また、当法人の運営テーマである ‟わ” には3つの意味が込められています。
1つ目は「互いを大切にし協力し合える関係の‟和”」、2つ目は「子供・保護者・地域の方々・団体など地域の繋がりの‟輪”」、そして3つ目は「主に育ち育ちやがて次世代へと繋がる循環の‟環”」です。
地域との繋がりの中で育った子どもたちは、その地域への強い思い入れを持ちます。将来、自分が親になった時に「この地域で子育てをしたい」と思い、たとえ進学などで一時的に離れても戻ってきたいと考えるようになる。そうした循環が生まれることで、地域の活性化にも繋がっていくのではないかと考えています。
遊びの価値を広める今後の展望
ー今後、特に力を入れていきたい取り組みについて教えてください。
斎藤:私たちは「遊育」をポリシーに掲げており、この遊びという要素をさらに深めていきたいと考えています。現代では「遊んでばかり」というマイナスイメージを持たれがちですが、「遊び」には子どもたちの生活に必要な経験が詰まっていると考えています。社会性はもちろん、失敗や成功体験を主体的に積み重ねていける場として、遊びの環境はとても大切です。
今の子どもたちは、習い事も含めて月曜日から日曜日まで隙間のない生活を送っています。自由な時間、自由に過ごせる遊びの時間を意図的に確保していかなければならない時代になってきました。そこで、プレーパークと呼ばれる冒険遊び場事業や、地域の居場所となるサードプレイスの展開など、子どもたち自身が選んで過ごせる環境づくりを進めていきたいと考えています。
地域の中に点在する様々な居場所の中から、子どもたち自身が「今日はここで遊ぼう」と選べる環境を作っていきたいと考えています。
東日本大震災の経験を活かした活動理念
ー最後に、『NPO法人子育て応援団ゆうわ』を利用しようと考えている方々へメッセージをお願いします!
斎藤:私たちは東日本大震災を経験し、ちょうどその時期に法人を立ち上げました。便利な世の中だからこそ、ICTなど様々な知識や経験は大切です。しかし、ライフラインが止まっても子どもたちが生き抜いていける知識や経験を得ていくためには、遊びの充実が非常に重要だと考えています。
水もガスも電気も使えない状況の中でも、子どもたちが生き抜いていける知識や経験を得ていくには、遊びを通じた学びが不可欠です。子どもたちが自ら成功体験や失敗体験を積み重ねていける環境や関わり方が乏しくなってきている今だからこそ、遊び込める環境を大切にしています。ぜひ私たちの活動にご参加いただき、子どもたちの豊かな成長を一緒に支えていければと思います。