「ダンスや演劇って、上手にできる子だけのものじゃないんです」。そう語るのは、演劇とダンスを組み合わせたユニークなレッスンを行う「9PROOM」のお二人。ここでは、技術の習得以上に、「楽しむこと」や「自分を表現すること」を大切にしています。
レッスンは、ストレッチやリズムダンス、演劇ゲーム、台本を使ったお芝居などが織り交ぜられ、子どもたちは自然な形で自己肯定感やコミュニケーション力を育んでいきます。特に、不登校や発達障害のある子どもたちにとっても安心して過ごせる“居場所”として、多くの保護者から信頼を集めています。
「うちの子だけが特別じゃない」「どんな子でも大丈夫」と感じられる温かな空間。上手・下手ではなく、「やってみたい」「楽しそう」という気持ちを何よりも尊重する9PROOMの想いについて講師の渡辺さんと高野さんにお話を伺いました。
ーまずは、9PROOMがどんな教室なのか、概要について教えてください!

渡辺さん:小学生から高校生までを対象にした演劇ダンススクールとしてやっています。小学生クラスと中高生クラスの二つに分かれていて、それぞれに合った内容でレッスンをしています。
今回「ダンススクール」としての取材ということだったんですけど、私たちとしては、演劇をやっている人間なので、もちろんダンスも教えていますけど、毎日ダンスに打ち込むというよりは、もっと広い意味で「自己表現」や「コミュニケーション」を大切にしている教室なんです。芝居だったりダンスだったり、体を使って気持ちを表すことを通じて、子どもたちが他の子と仲良くなったり、会話ができるようになったり。そんなところを目的にしていますね。
普通のダンススクールとはちょっと違う感じではあると思います。
ー演劇とダンスをどう組み合わせているのか、具体的なレッスンの流れを教えていただけますか?
渡辺さん:スケジュール的には、小学生クラスが1時間半で、中高生クラスが2時間半です。まずストレッチして体を少し動かしたあとに、簡単なリズム遊びみたいなダンスをやったり、発表会に向けて本格的な振り付けを覚えたりもします。そういう意味では、流れとしては一般的なダンススクールに近い部分もあるかもしれません。
その後に演劇的な要素を取り入れています。声や体を使ったゲームをしたり、台本を使ってお芝居をしたり。内容はその日によって変わるんですけど、そうやって時間を分けながら進めていますね。
表現って、セリフを喋るだけじゃなくて、やっぱり体も使って感情を出せる方が豊かになると思うんです。特にダンスって、体のコントロールが自然と身につくんですよ。音楽に合わせて体を動かすのって、単純に楽しいですしね。
中高生の中には技術的なことに興味がある子もいますけど、小さい子たちは、音楽に合わせて思いきり体を動かせたっていうだけで、すごい達成感を感じたりするんですよね。体を動かすのが苦手な子もいますけど、そういう子たちが段々と動けるようになっていって、「あ、できた!」ってなると、自信もついてくるんです。
ー教室を立ち上げたきっかけについて教えてください!
渡辺さん:もともとは、東京都北区の支援を受けた劇団で高野と一緒に芝居をやっていたんです。そこには子ども向けの教室もあって、私たちは20代の頃から講師をしていました。そこがとても良い教室で、子どもたちの成長に関わるのが楽しくて、大好きだったんです。
今は自分たちで劇団を運営しているんですが、「あの教室をもう一度、自分たちの手でやってみようか」と思ったのが始まりですね。
ただ、前にやっていたことをそのままやるのではなくて、ちゃんと自分たちでテーマを決めようと。そこで「コミュニケーションにフォーカスしよう」と考えました。基本的なスタイルは当時のものを踏襲していますが、自分たちの中でちゃんと意味付けをして、やっていこうという思いで始めました。
ー9PROOMならではの特徴や、他にはない魅力について教えてください!
高野さん:やっぱり、「かっこよく踊りたい!」という子だけじゃなくて、「ちょっと動いてみたいな」と思っている子たちにも来てほしいんです。
私はダンサーではなくて、ただダンスが好きな大人の代表、という立場なんです。だからこそ、「上手じゃなくていい」「楽しければ正解」という教室にしたいなと思っていて。
9PROOMの小学生クラスは年長さんから6年生まで一緒にやってるんですけど、ダンスの難易度もかなり低めです。できる子にはちょっと難しい振付を渡したりもしますけど、「できないからダメ」とは絶対に言わない。私自身が、かつてダンスがやりたくても行きづらかった経験があるので、だからこそ「みんなで踊ろう!踊っていいんだよ!」っていう空間を作りたいなと思っています。
ーお子さんに指導する際に、大事にしていることはどんなことですか?
渡辺さん:うーん、本当に「NOを言わない」っていうことかな。子どもって、すごく多様なんですよね。発達障害のある子や、内気な子、元気すぎる子、色んな子がいます。
高野さん:学校だったら注意されるような子でも、ここではその子なりに表現できる場所がある。ダンスがものすごく得意な子もいれば、お芝居が好きで夢中になる子もいる。それぞれの子が輝ける瞬間があるんですよね。
「君はこれが得意なんだね」って気づいてあげられる大人でいたい。私たちは、教えるというより、隣にいる大人として、受け止めてあげたいんです。
ー提供されているクラスやコースについて教えてください!
渡辺さん:「プレイクラス」というのが小学生対象で、土曜の14:30〜16:00にやってます。ストレッチから始まって、ダンスしたり、色んなゲームをしたり、すごく楽しくやってますよ。年度末には発表会もあります。
もう一つが「コミュニケーションクラス」で、中学生〜高校生が対象です。こちらは土曜の17:00〜19:30。より本格的なお芝居やダンスに取り組んでいて、ゲームというよりは台本を何回も読み込んで演じたり、ダンスも少し難易度高めのものにチャレンジしたりしています。
中高生クラスには、もともと学校でうまく馴染めなかった子も多いです。でも、演劇やダンスを通して自分の居場所を見つけていくんですよね。演劇にハマって専門学校に進んだ子もいますよ。
一時期は本当に不登校の子ばかりでした。「学校には行けないけど、9PROOMには来る」っていう子が多かったです。南千住の教室なんですけど、成田とか、東京の端の方から電車に乗って来てくれる子もいて、本当にありがたいなと思ってます。
ー今後、強化していきたいことや、新たに取り組んでいきたいことはありますか?
高野さん:私はダンス担当として、ダンスに興味を持つきっかけの場でありたいと思っています。「踊るって楽しい!」っていう最初の一歩を支えたい。そこからもっとやりたい子は、専門のスクールに送り出していけばいいかなって。
渡辺さん:ここ1年、特に感じたのが、体を動かすことで心が整っていく子が多いってこと。かんしゃくを起こしがちだった子が、少しずつセルフコントロールできるようになってきたんです。
感覚統合って言うんですかね。体と心がつながっていく感覚。それを丁寧に見守っていきたいと思っています。
あと、私たちは「教える大人」じゃなくて、「味方でいる大人」でいたい。年上の子が下の子の面倒を見たり、下の子が上の子に甘えたり、そういう自然な人間関係の中で成長していける場所でありたいです。
ー最後に、これから通おうか迷っている保護者の方や生徒さんへ、メッセージをお願いします!
渡辺さん:9PROOMは、本当にいつ来ても、いつ辞めてもOKです。「ちょっとやってみたいな」くらいの気持ちで来てくれたら嬉しいです。小学生クラスは特に、遊びに来る感覚で大丈夫ですよ。
高野さん:中高生クラスは、表現することに興味がある子、自分の居場所が欲しい子、どちらでも大歓迎です。「なんとなく気になる」で十分。ここが自分の居場所になるかもしれないので、ぜひ一歩踏み出してみてください。
保護者の方も、「表現する場所があるだけで、家庭でも落ち着いて過ごせるようになった」と言ってくださることが多いです。遠回りのように見えて、実はすごく大事なプロセスだと思います。
思春期って、親にはなかなか話さないけど、大人の第三者には話せる時期でもあるんですよね。そういう時に、信頼できる大人がいるというだけで、救われる子も多いと思っています。