「楽しく歌っているうちに、いつの間にか音楽の力が身についている」そんな理想的な音楽教育を実現しているのが、ハンガリー出身の音楽学者であるコダーイ・ゾルターンの手法を取り入れた『コダーイ・アプローチ音楽教育研究所 Fecske(フェチケ)』です。
0歳から大人まで、わらべうたを通じて音楽の本質的な喜びを伝える同研究所では、技術習得よりも心の成長を重視した指導を行っています。代表の南 葉子様に、従来のピアノ教室とは全く異なるアプローチの魅力や、わらべうたが子どもの人格形成に与える驚くべき効果について詳しくお話を伺いました。音楽教育の新たな可能性を探る、必見のインタビューです。

札幌大谷短期大学 ピアノコース卒業、同大学専攻科、研究科 ピアノコースを修了後ハンガリーへ留学。コダ−イ・ゾルターン音楽教育研究所にてコダーイアプローチによる音楽教育法を学び、アドヴァンスディプロマを取得。帰国後、南音楽教室を立ち上げると共に、昭和音楽大学付属音楽教室にてピアノ講師・及びバレエピアニスト、厚別混声合唱団ピアニストを長年務める。また同時に道内を中心に全国各地にて保育士、教師などの指導者を対象としたわらべうた、又、乳児の為の親子わらべうたや、幼児、学童へのソルフェージュなど、コダーイの理念による音楽教育の指導に当る。
0歳から始める音楽の旅!ハンガリー発・革新的教育メソッドの全貌

ー南さま、本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは『コダーイ・アプローチ音楽教育研究所 Fecske(フェチケ)』について、どのような指導を行っているか詳しく教えてください。
南 葉子代表(以下、敬称略):私が取り入れているのは、ハンガリーの「コダーイ・アプローチ」という音楽教育メソッドです。この教育法の最大の特徴は、自分の国のわらべうたを音楽教育の教材として使用することです。赤ちゃんの時から日本に伝承されてきたわらべうたをたくさん歌うところから始まります。
幅広い年齢層で対応しており、0歳児から指導を行っています。現在、0・1・2歳児を対象とした乳児クラス、3・4・5歳児を対象とした幼児クラス、そして学童クラスがあります。学童クラスでは徐々に合唱活動へと繋げていくのが特徴です。
ハンガリーでは、このような教育を通して子どもを育てた後、合唱活動へと繋げ、大人になった後も音楽を楽しめるようにという考え方があります。国全体で「コダーイ・アプローチ」を実践しており、すべての保育園でわらべうたを歌うことが当たり前になっています。
学校教育においても、小学校に上がった時には保育園でたくさん歌い、遊んだわらべうたを教材にして音楽理論を学びます。「みんながよく知っているこの音楽のリズムを分析してみましょう」「音程はどうなっていますか」というような形で進めていき、小学校3年生くらいになると、クラシックの芸術作品を主な教材にさらにレベルの高い内容に進んでいきます。
このような一貫した教育システムを日本でも実践したいと思い、教室では0歳から大人になるまで、長期的に子ども達とお付き合いしています。さらに、このメソッドを保育園や学校教育でも広めたいと考えており、多くの保育園で講演を行ったり、音楽教育に関わる方々へのレクチャーも実施しています。
知られざる日本の音楽文化!わらべうたと童謡、その驚きの違いとは
ーわらべうたについて具体的に教えてください。「どんぐりころころ」のようなものとは違うのでしょうか?
南:はい、異なります。皆さんがご存じなのは「なべなべそこぬけ」や「はないちもんめ」などだと思いますが、実は日本はわらべうたの宝庫と言われており、数えきれないほどのわらべうたが存在するのです。
ただし、多くの日本人がわらべうたと童謡の区別を理解していないのが現状です。これには歴史的な背景があります。明治維新以降、西洋から新しい音楽や文化が大量に流入してきました。その際、国は従来の土着の音楽や踊りを、西洋文化と比較して「恥ずかしいもの」と捉えてしまったのです。外国人が住む地域などでは、そうした「野蛮なもの」を止めようという動きもあり、消滅してしまった地域もありました。
わらべうたは本来、それぞれの地域で受け継がれてきたもので、学校で学ぶものではありませんでした。一方、文科省は西洋音楽に追いつく必要があると考え、西洋の7音階を使った西洋的な音楽をたくさん作らせました。これが「唱歌」です。しかし唱歌は言葉が難しく子どもには歌いづらいため、子ども向けに作られたのが「童謡」なのです。先ほどおっしゃった「どんぐりころころ」や「チューリップ」は童謡にあたります。
2006年頃から、小学校でわらべうた、民謡などの伝承音楽が教科書に載るようになりました。おそらく、わらべうた遊びを通して幼小接続をスムーズにするであるとか、グローバルな視点を持つために自国の文化を理解するためではないかと考えますが、現在の小学生は学校でわらべうたを学んでいます。
涙の練習から音楽の喜びへ!南代表を変えたハンガリー留学体験

ー南さまが『コダーイ・アプローチ音楽教育研究所 Fecske(フェチケ)』を始められた経緯やきっかけを是非お聞かせください。
南:元々はピアノが専門でした。親もピアノ教師をしており、非常にスパルタ的な指導で(笑)、毎日泣きながら練習をする日々を送っていました。大学生の時、人前でピアノを弾くことが怖くなってしまったときがあり、「音楽に命を懸けてやってきたけれど、この方向性で良いのだろうか」と疑問を持つようになったのです。
卒業が近づいた頃、音楽は捨てられないと感じながらも、音楽教育というより教育全般、特に「子どもをどう育てていくか」ということに強い関心を抱くようになりました。そうした学びができる場所を探していたところ、ハンガリーでは「音楽は子どもの人格形成に大きな影響を与え、その子の人生を左右するもの」という考え方があることを本で知りました。
また、知り合いがハンガリーに留学しており、間接的に話を聞く機会もありました。詳しく理解していないにも関わらず、「ここだ!」と思い、留学を決意しました。今思えば無謀でしたが、実際に行ってみると非常に興味深く、日本とは何もかもが違っていました。
帰国時の大きな課題は、あまりにも日本と異なるアプローチをどう受け入れてもらうかということでした。私自身も日本の音楽教育をベースに学んできましたし、保護者の方々も従来の音楽教室を想像されるため、180度異なるものをどう理解していただくかは現在も課題です。
帰国後は細々とスタートしましたが、幸い保育園での指導依頼を多くいただき、様々な地域の保育園で講演や講座を行いながら徐々に活動を広げていきました。当初は従来型のピアノ教室も並行していましたが、一貫性がないと感じ、12年前(2025年現在)に完全にハンガリーのアプローチに切り替えました。
「気づいたら上達していた!」遊びから学ぶ驚異の指導法

ー他の音楽教室にはない、『コダーイ・アプローチ音楽教育研究所 Fecske(フェチケ)』ならではのアピールポイントや特色を教えてください。
南:最大の特色は、‟合唱”へ繋げていくクラスがあることです。このクラスでは、わらべうた遊びをとにかくたくさん行います。現在の小学生は昔ながらの遊びをする機会が少ないため、わらべうた遊びは非常に新鮮で、子ども達は大いに盛り上がります。
遊んだ後は、その‟うた”を分析していきます。徐々に音楽の知識を高めたり、遊びを通して聞く力や歌う力を向上させていくのです。「とにかく楽しい!」と思っているうちに、気づいたら何かができるようになっているというスタイルを目指しています。
もちろん努力が必要な場面もありますが、それも成長にとって大切なポイントです。まずは「楽しい」ということをメインに据え、自然に上達していけるよう工夫しています。
そのためには、指導する側の十分な準備が不可欠です。頭の中をきちんと整理し、何をするのかを明確に把握した上で子ども達と関わることを重視しています。ノートを見ながら指導するのではなく、しっかりと準備を整えて臨むことは、弊教室が特に力を入れているポイントでもあります。
楽器を超えた表現力!歌だからこそ伝わる音楽の本質

ー楽器ではなく‟歌”だからこそ音楽により深く親しめるポイントがあるのでしょうか?
南:赤ちゃん学の研究によると、赤ちゃんは生まれた時から音楽を楽しみたいという欲求を持って生まれてくるそうです。言葉を理解していない赤ちゃんにとって、大人の話す言葉は抑揚として聞こえており、それが音楽のように感じられるのです。
わらべうたは、その言葉の抑揚に音程を付けたものです。つまり、言葉に非常に近い音楽なのです。赤ちゃんは元々音楽を楽しみたいと思って生まれてきているため、大人の話し言葉も音楽のように聞いており、「面白い抑揚だ、私も真似してみよう」という気持ちから音楽との関わりがスタートします。
ピアノは技術的に難しい面があります。歌にも当然テクニックは必要ですが、技術面にこだわりすぎると本来の音楽性が軽視されがちです。一方、ハンガリーでは「間違ったか間違わなかったかよりも、歌に心がなければ誰の気持ちも動かせない」と言われます。歌の方がそうした音楽性により意識を向けやすいのです。
コダーイ・アプローチでは「子どもが初めて音楽をするのは楽器ではなく歌」と言われています。いきなり楽器を弾き始めることはありませんから、自然に始めるのが歌なのです。歌は人間にとって最も自然な音楽表現だと思います。
幼い時に歌うことが自然な環境であることで、聴くこと、歌うことの技術は自然と高まりますし、人前でうたうことも躊躇しません。また、何より、幼い子どもは自分の気分や感情を自由に歌によって表現します。それが子どもの自然な音楽表現です。そして後の音楽性に繋がっていくと考えています。
技術より心を大切に!子どもの人生に寄り添う指導哲学

ー生徒さん達に指導する際に、特に意識していることや方針があれば教えてください。
南:何かができるようになることよりも、その子が何を感じ、何を考えているのかを、コミュニケーションを通して理解することを最も重視しています。音楽教室では一人の子どもと長期間お付き合いすることが多く、長い子では高校生まで通い続ける場合もあります。その子たちの人生に寄り添っている感覚を大切にしています。
小さい頃からどのような問題を抱えているか、どういう性格の子なのかなど、様々な話をしながらその子のことを理解していきます。親以外にそうしたことを相談できる、話ができる場というのは非常に特別だと思うのです。
できる限り子どもとのコミュニケーションを大切にしたいと考えています。子ども達も話をしながら自分自身を理解していくという側面もあります。ソクラテスの産婆術のように、こちらが聞いてあげて整理させてあげる、そのような安心できる場でありたいと常に思っています。でも技術に関して妥協しているわけではありません。上手くすることに固執するのでなく、心の成長と共に自然に引き出すことが理想と考えています。
乳児から高校生まで!年齢別コースで育む音楽の芽

ー提供されているコースやプランについて、それぞれ簡単にご説明いただけますか?
南:まず、ピアノ・声楽の個人クラスがあります。
それとは別に、0・1・2歳の乳児クラス、3・4・5歳児の幼児クラス、そして小学生から高校生まで幅広い年齢層を対象とした学童以上のクラスがあります。
学童以上のクラスでは、年齢差があっても関われるよう時間を調整しながら運営しています。この中には合唱を行うクラスがあり、「つばくろ少年少女合唱団」という名称で活動しています。
特徴的なのは、完全にアカペラで歌うことです。ピアノなどの楽器は使用せず、ひたすら聞く力を育てることに重点を置いています。
もともとピアノ専攻で、ハンガリーでも演奏に関してはピアノをメインに取り組んでいましたが、先生に歌を褒められ、帰国後、ア・カペラの声楽アンサンブルグループで歌ったり、レッスンを受けたりと、現在も鍛錬を続けています。わらべうたクラスで子どもたちが歌っている合唱もア・カペラ作品を歌い、正しい音程、ハーモニー感が養われるよう聴くことは特に力を入れ指導しています。
科学が証明!わらべうたが育む「心の土台」と驚きの効果

ーわらべうたで得ることができる心の栄養や、そして効用について詳しく教えてください。
南:効用は本当にたくさんあります!まず、乳児期のわらべうたは特別な意味を持ちます。「なべなべそこぬけ」や「はないちもんめ」のような集団で遊ぶわらべうたとは異なり、乳児期のわらべうたは母親と子どもが1対1で遊ぶものです。
これは子どもの認知能力の発達段階に関係しています。乳児は認知できる範囲や距離が限られているため、近い距離で触れ合いながら遊ぶことが重要なのです。
肌を触れ合うことには深い意味があります。生まれたばかりの赤ちゃんは、自分がどのような形でどのような存在なのかを理解しておらず、母子が一体化した混沌とした状態です。触れてもらうことで自分という存在を意識し、「これが手、これが顔、顔には目と鼻と口がある」ということを認識していきます。どのように動かすのかも遊びを通して理解し、大人の動作を模倣するようになります。
母親に触れてもらって楽しいから「もう一回」と何度も歌ってもらう中で、自分は受け入れられているという実感を得て、安心感と自己肯定感が大きく向上します。肌の触れ合いによってオキシトシンという幸せホルモンが分泌され、母親との基本的信頼感が強固になります。
この安心感や自信があると、子どもは安心して探索を始め、様々なものに興味を持ち「これは何だろう」と探求心を発揮するようになります。しかし、基本的信頼感が不安定だと、恐怖心から挑戦する気持ちが生まれません。探求心の土台となるのが、この乳児期の基本的信頼感なのです。
音楽的な面でも、指導者が正確なピッチを意識して歌うことで子どもの聞く力が伸び、たくさん歌ってもらった子どもは歌唱力も自然に向上します。
学童期になると集団での活動が始まり、自分の立ち位置を理解することが重要になります。自分の要求ばかりしていては仲間から受け入れられません。適度なバランスでみんなと調和していくために、集団の中での自分のポジションを考える必要があります。これができないと社会性が育たず、集団での遊びも上手くいきません。現代の子ども達に不足しがちな能力でもあります。集団で歌うことで、「自分の立ち位置を理解する」能力も育まれるのです。
さらなる高みを目指して!教室が描く未来のビジョン

ー今後、より強化していきたいことや新たに取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
南:生徒数がもっと増えることで、できることの幅が広がると考えています。
現在は小学1年生から高校2年生まで幅広い年齢層が一緒に活動しており、これはこれで興味深く、社会性を育む点でも効果的です。子ども達もそうした環境を良いものと感じてくれています。
ただし、全員ができることに合わせる必要があるため、音楽的な能力をより高めたいと考えた時には制約もあります。生徒数が増えれば、各年齢に適した内容をより深く追求できるようになります。例えば高校生にはより高度な内容を提供するなど、まだまだ改善の余地があると感じています。
入会検討者必見!南代表からの心温まるメッセージ

ー最後に、『コダーイ・アプローチ音楽教育研究所 Fecske(フェチケ)』への入会を検討されている方々にメッセージをお願いします!
南:子ども達が大人になっても音楽と良い関係を築いていけるよう育てていきたいと思っています。音楽は突き詰めれば突き詰めるほど新たな発見と学びがあります。発見の喜び、知の欲求を持って人生を謳歌して欲しいですね。
そして、現代は人との関係性が希薄になりがちな社会ですが、人間は本来、誰かと関わりたいという気持ちを持っているのではないでしょうか。引きこもってしまう子も、本当はそうしたいけれど怖さを感じていたり、方法が分からなかったりするのだと思います。根底には必ず、誰かと関わって生きていきたいという想いがあるはずです。
人と関わることが自分の人生においてどのような意味を持つのか、教室を通してほんわかとでも良いので考えてもらえる機会を持っていただけたら嬉しく思います。