スマホを置いて土に触れる、笠間流・21世紀の学び方|NPO法人笠間の魅力発信隊の大坪さんにインタビューしました!

都会では学べない。畑が教室、農家が先生。

東京から電車で約1時間半。茨城県笠間市で、子どもたちの未来を変える新しい教育の形が注目を集めています。NPO法人「笠間の魅力発信体」が提供する体験型観光プログラムは、国内外から年間800人以上の子どもたちを魅了し続けています。

なぜ、都会の子どもたちは田舎での体験にこれほど夢中になるのか?なぜ、海外からも多くの参加者が訪れるのか?そして、この体験は子どもたちの人生にどのような影響を与えるのか?

都会と田舎、日本と世界をつなぐ、笠間発の新しい教育の形。その全貌に迫ります。

笠間の魅力を発信する体験型観光の取り組み

ーまず始めにどういった方を対象にしている団体なのかあるいは、どういった活動を行っているのかお聞かせ頂けますでしょうか?
大坪:法人名は特定非営利活動法人笠間の魅力発信隊です。事業としては、笠間でのふれあい体験旅行の誘致と民泊の推進を2本柱としています。

主に海外からの中学生・高校生が笠間の民家でホームステイをするツアーを実施しており、昨年は約500人の参加がありました。国内の中学生・高校生向けにも、日帰りや宿泊付きで笠間の民家体験ツアーを行っています。

体験内容は多岐にわたり、農業はもちろん、笠間が陶芸の町であることから陶芸体験も人気です。その他、そば打ち、豆腐作り、神社での巫女体験、合気道体験など、都会では体験できないようなユニークな内容を提供しています。


ー体験内容は参加者が選べるのでしょうか?
大坪:はい、選べます。学校の校外学習や修学旅行の一環として参加する場合が多いのですが、事前に体験内容の一覧表を学校に送り、生徒たちが希望する体験を選択できるようにしています。

例えば、今年の9月10月に千葉県の3つの高校が来る予定ですが、各民家での体験内容を記載した名簿を作成し、学校側で決定してもらっています。

多様な体験を通じて広がる子どもたちの世界

ー体験の種類はどのくらいあるのでしょうか?
大坪:数えたことはないのですが、かなりの数があります。農業関係、森の整備、大工の仕事体験、ボルダリング、BMX、陶芸、カフェのお手伝い、お寺での座禅や写経、巫女体験、豆腐作り、そば打ち、茶道、ビオトープの整備、高齢者向けお弁当作りなど、本当に様々です。


ー海外からの参加者も多いそうですが、言葉の壁はありませんか?
大坪:意外とスマートフォンのアプリなどでコミュニケーションを取っています。それが逆に楽しい体験になっているんです。受け入れ側の民家の方々も、普段接する機会の少ない海外の若者との交流を楽しんでいます。

言葉が通じなくても、お互いに心を通わせ、最後には抱き合って別れを惜しむような感動的な場面も多々あります。LINEで連絡先を交換し、帰国後もやり取りを続けている例もあります。

都会の子どもたちに新たな価値観を

なぜ大坪さんはこの活動を始めようと思ったのでしょうか?この活動を始めた経緯やきっかけについてお聞かせ頂けますでしょうか?
大坪:私は30年以上中学校の教員をしていました。その経験が、今の活動に大きく影響しています。教員時代、子どもたちを長野県や山梨県の農業体験に連れて行く機会がありました。そこで目の当たりにした子どもたちの変化に、大きな衝撃を受けたのです。

都会で育った子どもたちが、初めて田舎の生活に触れる。知らない土地で、見知らぬ人々に親切にしてもらい、初めての農作業を体験する。最初は緊張していた子どもたちが、徐々に打ち解けていき、最後には別れを惜しんで涙を流すほどの感動的な場面を何度も目にしました。

この体験を通じて、子どもたちの中に大きな変化が起こるのを感じました。例えば、農業に対する印象が「大変で疲れる仕事」から「やりがいのある素晴らしい仕事」に変わったり、都会の価値観だけでなく、田舎での生き方にも魅力を感じるようになったりするのです。

また、教員として子どもたちと接する中で、現代の子どもたちが抱える課題も見えてきました。スマートフォンやゲームに囲まれ、実体験が乏しくなっている。人間関係も限られた範囲でしか築けていない。そんな子どもたちに、もっと広い世界を見せたい、多様な価値観に触れさせたいという思いが強くなりました。

定年退職後、私自身が笠間で田舎暮らしを始めた時、ふと思ったんです。「ここでも、あの時の子どもたちのような体験ができるんじゃないか」と。笠間には豊かな自然があり、陶芸をはじめとする伝統工芸もある。そして何より、温かい人々がいる。これらを活かせば、都会の子どもたちに新しい世界を見せられるのではないか。そんな思いから、9年前にこの活動を始めました。

教員時代の経験があったからこそ、子どもたちにとって何が大切か、何が不足しているのかが分かっていました。そして、田舎での体験がいかに子どもたちの成長に寄与するかを、身をもって知っていました。この活動は、教育者としての私の経験と、笠間の魅力を融合させたものだと言えるでしょう。

今では、国内だけでなく海外からも多くの子どもたちが笠間を訪れています。彼らの目の輝きを見るたびに、この活動を始めて本当に良かったと感じています。子どもたちの可能性を広げ、新たな価値観を提供できることが、私たちの活動の最大の喜びです。

地方の活性化と若者の価値観の変容を目指して

ご自身の中でこの団体での活動を通して解決したい世の中の課題についてお伺いさせてください。

大坪:私が笠間に来た2015年頃は、地方の人口減少や高齢化が進み、消滅可能性のある自治体という話題が出ていた時期でした。田舎出身で田舎が大好きな私は、田舎の自然や文化を守りたいという強い思いがありました。

そこで、都会や海外の人々に田舎の魅力に触れてもらい、その価値を理解してもらうことで、笠間に関わる若者を増やしていきたいと考えました。

これは関係人口を増やすことにもつながります。若者が笠間に移住したり、一度は笠間を離れた若者が戻ってきて仕事をするなど、地方で活躍する若者が増えてきています。こうした動きを通じて、地方の活性化にも貢献したいと考えています。

ー印象に残っているエピソードはありますか?

大坪:子どもたちの感想で「心優しい人たちで、家に帰りたくないほど楽しかった」という声があり、とても印象に残っています。また、「今まで都会が勝ち組だと思っていたけど、田舎には都会にない魅力がたくさんあって、来てよかった」と感想を書いてくれた子もいました。

小学生の時に笠間で体験し、数年後に中学生になって再び訪れ、お世話になった民家の方に挨拶に来てくれたという話もあります。さらに、笠間で体験した後に陶芸に興味を持ち、笠間の陶芸専門学校に進学して陶芸家になった人もいます。

こうした形で、子どもたちの世界を広げられたことがとても嬉しいですね。

子どもたちへの配慮と支援:安心できる環境づくり

ー団体の活動をしていくなかで、お子様を支援する際に意識していることがあれば教えて下さい。

大坪:子どもたちを受け入れる際に最も意識しているのは、安心できる環境づくりです。知らない場所に来て初めて会う人たちと過ごすわけですから、子どもたちはとても緊張します。最初はカチカチに固まってしまうんですよ。

そこで私たちがまず心がけているのは、「ここは親戚の家に来たのと同じだよ」という雰囲気づくりです。受け入れる民家の方々にも、できるだけフランクにオープンな感じで接するようお願いしています。

例えば、子どもたちが到着したら、まずは和やかな雰囲気で自己紹介をし合います。その後、一緒に活動をしたり、食事を共にしたりする中で、徐々に緊張がほぐれていきます。大体1〜2時間もすると、子どもたちの表情や態度が柔らかくなってくるのです。

また、体験内容についても、子どもたちの年齢や興味に合わせて柔軟に対応するよう心がけています。無理をさせず、楽しみながら新しいことにチャレンジできるよう配慮することが大切です。

このような配慮を通じて、子どもたちが安心して新しい環境に馴染み、豊かな体験ができるよう支援しています。そして、この体験が子どもたちの心に残り、将来の糧となることを願いながら活動を続けています。

民泊を通じた地域活性化への展望

ー今後、こういった点をより強化していきたいあるいは、取り組んでいきたいことがあればお聞かせ願います。

大坪:現在、笠間での体験型観光や民泊の受け入れは大分広がってきましたが、今後さらに強化していきたい点があります。特に注目しているのが、民泊を副業やビジネスとして展開する可能性です。

最近、民泊の許可を取得して宿泊業を始める方が増えてきています。現在10件ほどの民家が許可を取得し、お客様を募集しています。中には副業としてだけでなく、メインの収入源として民泊事業を始めている方もいます。

笠間市は元々宿泊施設が少ないのですが、特に海外からのお客様にとって、日本の田舎の家に泊まること自体が大きな魅力となっています。そこで、今後はこの需要に応えるべく、特に海外のお客様向けの民泊サービスを拡大していきたいと考えています。

さらに、この動きを地域の雇用創出につなげていきたいですね。例えば、笠間の若い人たちが農業の傍ら民泊事業を行うなど、新たな収入源として民泊事業が成り立つような仕組みづくりを目指しています。

また、民泊の許可取得手続きは少し煩雑ですが、そこまで難しいものではありません。そこで、私たちNPOでは、許可取得の支援も行っています。この支援を通じて、民泊事業者をさらに増やしていきたいと考えています。

このように、体験型観光と民泊事業を両輪として、笠間の魅力を多くの人に知ってもらいながら、地域の活性化と雇用創出につなげていくことが、私たちの今後の大きな目標です。

団体へのご相談などを検討しているお子様(および保護者の方)へのメッセージ

ー最後に、笠間での体験に興味を持った方へメッセージをお願いします。

大坪:都会の子どもたちの遊びは型にはまりがちです。しかし、田舎に来ると、遊びの可能性が無限に広がります。畑を駆け回ったり、虫を捕まえたり、大根を引き抜いたり…。子どもたち自身が遊びを発見し、創造性を発揮できるのが田舎の魅力です。

ぜひ小さなお子さんにも、自然の中での遊びや仕事の体験をしてほしいと思います。きっと子どもたちの世界が大きく広がるはずです。個人での参加も歓迎しています。ご家族で笠間を訪れ、ユニークな体験をしてみませんか?東京から1時間半ほどで来られますので、気軽にお越しください。

保護者の方々にもお伝えしたいのは、この体験が子どもたちの将来の選択肢を広げる可能性があるということです。都会での生活や進学だけでなく、田舃での暮らしや働き方など、多様な生き方があることを子どもたちに示すことができます。

参加をご検討の方は、「笠間ふれあい体験旅行推進協議会」のホームページや笠間観光協会のホームページからお問い合わせいただけます。

また、私たちが運営するゲストハウス「門前ハウス」に宿泊しながら笠間での体験をすることも可能です。どのような体験をしたいか、ご要望をお聞かせください。皆様のご参加を心よりお待ちしています。