教育業界において、従来の「成績至上主義」から脱却し、生徒一人一人の心に寄り添う新しい教育のあり方を模索する動きが広がっています。その先駆けとして注目を集めているのが、三重県で展開するAJ安藤塾(以下、安藤塾)です。
創業者の安藤大作氏は、自身の経験から「人は誰でも変われる」という強い信念を持ち、生徒の可能性を信じ抜く教育を実践。難関校への合格実績ではなく、一人一人の成長ストーリーを大切にする独自の教育方針で、多くの生徒や保護者から支持を集めています。
今回は安藤氏に、従来の塾の概念を覆す独自の教育アプローチや、その根底にある理念、そして次世代の教育に対する展望について、たっぷりとお話を伺いました。学習塾の新しい可能性を示す、示唆に富んだインタビューをお届けします。
従来の塾の概念を覆す、独自の教育アプローチ
ー安藤塾の概要と指導内容について教えていただけますでしょうか?
安藤大作代表:安藤塾は主に小中高生を対象としており、一部では海外在住の帰国子女向けのオンライン帰国準備コースも展開しています。しかし、一般的な塾とは大きく異なるアプローチを取っています。
当塾の根本的な考え方は、「成績が上がるのは、本人が強く上げたいと思った時だけ」というものです。従って、塾講師の最も重要な仕事は、生徒自身が成績を上げたいと強く思うようにすることです。そしてそれを実現する最も重要な要素が、教師と生徒の人間関係なのです。
教師が生徒の話を徹底的に聞き、理解しようと努める。それにより生徒は「この先生は自分のことを理解してくれている」「自分に興味を持ってくれている」「自分を信じてくれている」と感じるようになります。過去に何かあったとしても、可能性は無限大だと信じてくれる存在になることが重要なのです。
一般的な塾では授業の質や教材、宿題などで成績向上を目指しますが、私たちは違います。生徒の心に寄り添い、その子を理解しようとする姿勢こそが最も重要だと考えています。そのため、高学歴の講師を採用するのではなく、人間に興味があり、人の成長が自分の喜びになるような人材を重視しています。
従来の評価基準を超えた独自の価値観
ー一般的な塾との違いについて、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか?
安藤:多くの塾は難関校への合格実績を前面に出しますが、私たちはそうした広告を一切出しません。なぜなら、それは努力して地域の工業高校に合格した生徒の存在を無視することになるからです。
例えば、学業不振で社会からの脱落が危惧されていた生徒が、最後の最後で自分を信じてくれる先生と出会い、一般的な高校に進学できたとします。その生徒にとって、それは人生を大きく変える出来事です。しかし、そうした事例は通常の塾の広告には登場しません。
私たちは、難関校への合格者数ではなく、一人一人の生徒がどのように変化し、成長したのかというストーリーを大切にしています。そして、最も感動的な変化を遂げた生徒を表彰し、その姿をホームページなどで紹介しています。
創業の原点は自身の経験から得た強い確信
ー塾を始められた経緯について、より詳しくお聞かせください。
安藤:私自身、親に捨てられたという思い込みの中で育ち、自分の存在に自信が持てず、社会で生きていく自信もない状態でした。それでも必死に成果を残して承認欲求を満たそうとしていましたが、その生き方に苦しさを感じていました。
転機となったのは21歳の時です。勇気を出して実の親を探し出し、向き合って話をしました。その際、母親との関係が切れてしまうのではないかという恐怖もありましたが、実際に話してみると、母親なりの考えや愛情があったことを知りました。
その経験を通じて、自分は捨てられていたわけではなく、そこまで惨めに思う必要もなかったことに気づきました。それまでの思い込みが崩れ、世界の見方が劇的に変わったのです。
この体験から、多くの子どもたちも同じように何らかの思い込みの中で苦しんでいるのではないかと考えるようになりました。「そんなことはない、君には無限の可能性がある」というメッセージを伝えたいという思いで、22歳で塾を始めたのです。
実は、この思いを伝えるための手段は必ずしも塾である必要はありませんでした。私は元々サッカーをしていたので、ボランティアでサッカー教室も始め、それが全国大会に出場するほどの強豪チームに成長しました。また、30代からは保育園の開設準備も始め、現在では3つの保育園を運営しています。
つまり、塾や保育園、スポーツ指導など、形は違えど、「誰でもいつからでも変われる」「思い方次第で人生は激変できる」というメッセージを伝えることが、私の原点なのです。
独自の教育理念に基づく指導方針
ーどのような点を特に意識して指導されていますか?
安藤:まず、「このままじゃ受からないよ」といった脅しのマネジメントは一切排除しています。代わりに、生徒一人一人の目標とその奥にある目的について深く話し合います。
例えば、「将来お金持ちになりたい」という夢を持つ生徒がいたとして、その先にある「医者になって難病の問題を解決したい」「おばあちゃんに合格した姿を見せたい」といった、自分以外の誰かのため、社会のための目的を見つけ出すようにしています。
また、「世の中が良くならなかったら嫌だよね。じゃあ世の中にどうなってもらいたい?」といった問いかけを通じて、より大きな志を育むことも大切にしています。そうした目的意識を紙に書いて可視化し、その上で「次のテストで何点取る」といった具体的な数値目標を設定します。このように目的から目標へと落とし込んでいくアプローチが、一般的な塾との大きな違いです。
革新的な学習プログラムと独自のイベント
ー提供されているコースについて教えてください。
安藤:中学生向けには「通い放題コース」を中心に展開しています。定額で好きな曜日・時間に通える、まさに自分の家のような感覚で利用できるのが特徴です。その他、1対2や1対3の個別指導コースも提供しています。
高校生向けには、主に3つのコースを用意しています。1つ目は東進衛星予備校と連携した一般受験対策、2つ目は各学校の課題に特化したサポート、3つ目は最新のAIを活用した「頭プラス」です。特に個別指導では、塾からの宿題は出さず、学校の課題を徹底的にサポートする方針を取っています。両方の宿題を抱えることで生徒が疲弊してしまうのを防ぐためです。
小学生向けには、算数・国語・英語の総合コースを基本に、プログラミングの「キュレオ」や4技能英語の「レプトン」、速読などのサイドメニューも提供しています。また、中学受験コースも展開しています。
特に注目していただきたいのが、「生まれ変わり合宿」という独自のイベントです。例えば、中学2年生で躓いている生徒が、小学校レベルからの学び直しが必要だと分かっていても、周りの目を気にして踏み出せないことがあります。この合宿では、そうした不安を取り除き、安心して基礎から学び直せる環境を提供しています。
実際、中学2年生の視点で小学3年生の内容を学び直すと、当時は難しく感じた内容も案外簡単に理解できることが多いのです。これは、大人になって子どもの頃の道のりが狭く感じるのと同じです。「できない、できない」と思い込んでいただけで、実際はそれほど難しくなかったという気づきを得られ、それまでの否定的な学習体験を上書きすることができます。
さらに、かつての通知表を模した新しい通知表を作成し、「これが本当の通知表だ」と伝えることで、過去の成績に対するマイナスのイメージを払拭する取り組みも行っています。この「生まれ変わり合宿」は、多くの生徒から高い評価を得ています。
次世代の教育に向けた展望
ー今後、さらに強化していきたい取り組みについて教えてください。
安藤:より一層、精神的な豊かさを育む教育を日本の教育のスタンダードにしていきたいと考えています。戦後から昭和の時代、物が不足している時代には、物質的な豊かさを求めて偏差値を上げることや、24時間勉強漬けになることも必要だったかもしれません。
しかし、これからの時代に必要なのは、単に所有を増やすことや、他人を蹴落としてまで上に立とうとするヒエラルキー的な価値観ではありません。感謝や愛、精神的な豊かさがより重要になってくると考えています。
特に、現代の子どもたちは生まれた時から物質的に恵まれた環境で育っています。私たち大人世代のように「もっと頑張って、もっと手に入れよう」という感覚は薄く、高級車や豪邸よりもシンプルな暮らしを好む傾向があります。
つまり、子どもたちが求める幸せの形は、物質的な豊かさを追求してきた私たち大人世代とは異なっているのです。彼らが本当に求めているのは「幸せとは何か」「愛や感謝、つながりとは何か」という問いへの答えなのではないでしょうか。
そうした価値観を持つ若者たちが作り出す未来の社会に向けて、私たちは適切な教育のバトンを渡していく必要があります。そのために、より一層、精神的な豊かさにつながる教育に力を入れていきたいと考えています。
教育の本質を見据えた熱いメッセージ
ー最後に、入塾を考えている生徒・保護者の方へメッセージをお願いします!
安藤:私たちは最後まで生徒を見捨てません。どのような生徒でも必ず可能性があると信じ、その可能性を最後まで信じ続けます。その結果として、数字的な成果もついてくるはずです。
ただし、私たちは脅しやスパルタ的な指導で数字を追い求めることはしません。また、成績さえ上がればよいという考えで、生徒の心を置き去りにすることも決してありません。なぜなら、最終的な学びの目的は、幸せを感じ、幸せに生きることだと考えているからです。
その意味で、心と学力を共に育てていく姿勢を大切にしています。この理念に共感していただける方は、ぜひ私たちの門をたたいていただければと思います。