ブラジル音楽というと、多くの人はカフェで流れるボサノバを思い浮かべるかもしれません。心地よいギターの旋律と、独特のリズムが織りなす魅惑的な音楽世界。しかし、その演奏となると、ハードルが高いと感じる人も少なくないでしょう。
「もう年齢的に難しいのでは?」「音楽に向いていない」そんな不安を抱える人こそ、新しい可能性に出会えるかもしれません。なぜなら、ブラジル音楽には、日本の音楽教育とは異なる魅力が隠されているからです。
今回は、ブラジル音楽専門のギター教室「KOHIKETA音楽教室」を主宰する外園健彦(ほかぞの たけひこ)代表に、教室の特徴や指導方針、そしてブラジル音楽が持つ独特の魅力についてお話を伺いました。40代、50代からでも始められる理由、音楽経験がない人でも楽しめる秘密、そして価値観を180度変えうる音楽との出会いについて、たっぷりとご紹介します。
ブラジル音楽との出会いが人生を変えた
―本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは、KOHIKETA音楽教室の概要について教えていただけますか?
外園健彦代表:私はブラジル音楽を専門に演奏しています。特にボサノバやサンバを中心に演奏・指導を行っており、これらのブラジル音楽に興味のある方に、演奏方法や音楽の魅力をお伝えしています。
日本ではブラジル音楽、特にボサノバは多くの方がカフェなどでBGMとして耳にしたことがあると思いますが、サンバギターとなるとあまり馴染みがないかもしれません。そういった珍しい音楽に触れる機会を提供できることも、当教室の特徴の一つだと考えています。
生徒さんの年齢層は主に30代以上で、特に50代、60代の方が多いですね。若い時にブラジル音楽を聴いていて、仕事を退職された後にギターを始めてみたいと思われる方が多い印象です。
―ブラジル音楽に特化された教室を始められたきっかけを教えていただけますか?
外園:私自身、最初はポップスやロックを聴いていました。しかし、実際にブラジル音楽の演奏を生で見た時に、今までにない衝撃を受けました。「これは自分もやってみたい!」という強い思いから、その演奏者のもとで学び始めたのが、現在の活動につながっています。
元々は対面レッスンが中心でしたが、コロナ禍で生徒さんからの要望もあり、オンラインレッスンを始めました。これにより、場所を問わずレッスンを受けていただけるようになりました。
日本とブラジル、異なる音楽観が生む新しい可能性
―他のオンラインギター教室との違いについて教えてください。
外園:私自身、クラシックギターを15歳から始めましたが、本格的に勉強し始めたのは30歳を超えてからなんです。現在44歳ですが(2024年12月現在)、特に基礎をしっかりと学んだのはここ5年くらい。その経験から、40代前後から始めても基礎さえしっかりやれば上達できるということを、身をもって実感しています。
また、日本とブラジルでは音楽に対する考え方が大きく異なります。例えば、日本の学校教育では「整列」や「気をつけ」のように、揃えることが重視され、それができることが大切だとされています。一方、ブラジルではそれが難しい。ブラジルでは、人と同じことをすることよりも、個々の表現が重視されるんです。
これは音楽でも同じで、日本では譜面通りの正確な演奏や、楽譜が読めることが重視されがちです。しかし、ブラジル音楽ではそれとは異なる部分が大切にされています。この価値観の違いが、新しい音楽表現の可能性を開いてくれると感じています。
柔軟な指導とフォロー体制
―生徒さんへの指導で特に意識されていることはありますか?
外園:生徒さん一人一人のキャラクターや進度、目的が異なるので、画一的なカリキュラムではなく、個々の要望に応じて指導内容を組み立てています。ただし、音階練習や右手のアルペジオなど、ギターの基礎となる部分は全ての生徒さんにしっかりとお伝えするようにしています。
特に大切なのは継続することです。不器用だからと諦める必要は全くありません。継続して練習できる方であれば、必ず上達できます。これは私自身の経験からも言えることです。
また、オンラインレッスンでは音質や映像の問題で細かい部分が伝わりにくいこともあるため、レッスン後のフォローとして、実際の演奏動画や譜面を送付しています。これにより、復習もしやすく、着実に上達していただけるよう工夫しています。
相対音感からアンサンブルまで、多彩なレッスンプラン
―提供されているコースについて具体的に教えていただけますか?
外園:メインはオンラインのギターレッスンです。初心者から経験者まで対応しており、ボサノバの基本的な弾き方や楽譜の読み方、コードネームの仕組みなどを、イラストを使った教材で分かりやすく説明しています。レッスンは60分で、ZoomやSkypeを使用しています。
また、最近では生徒さんからの要望でウクレレレッスンも始めました。ウクレレでブラジル音楽を演奏したいという方も増えています。生徒さんからの新しい発想で、私自身も気づかなかった可能性を教えていただくことも多いんです。
特徴的なコースとして、相対音感を学ぶコースも提供しています。絶対音感は幼少期の訓練が必要ですが、相対音感は年齢に関係なく習得可能です。例えば「ドレミファソラシド」は誰でも口ずさめますよね。その「ド」を基準に音程を把握していく能力を、段階的に身につけていきます。これにより、楽譜がなくても演奏できるようになっていきます。
さらに、月1回程度、場所を借りてグループでのアンサンブル講座も開催しています。これは手頃な価格で、1回だけの参加も可能な形式で実施しており、多くの方にブラジル音楽の魅力を知っていただく機会となっています。
ブラジル音楽で広がる新しい音楽観
―今後の展望について教えてください。
外園:現在は比較的年齢層が高い経験者の方が多いので、若い方にもブラジル音楽の魅力を知っていただきたいと考えています。普段の演奏活動では、知っている方には来ていただけるのですが、まだブラジル音楽に触れたことのない方々への発信が課題だと感じています。
その一つの取り組みとして、ウクレレなど、より取り組みやすい楽器を通じてボサノバを広めていくことも検討しています。ウクレレは多くの方が始めやすい楽器だと思いますので、そこからブラジル音楽の世界に興味を持っていただければと考えています。
「音楽に向いていない」から始まる新しい発見
―最後に、レッスンを検討されている方へメッセージをお願いします!
外園:日本ではあまり触れる機会のないブラジル音楽ですが、知ってしまうととても面白く、深みのある音楽だと感じています。特に、「音楽に向いていない」と思っている方にこそ、新しい発見があるかもしれません。
私自身、若い頃はある程度型がしっかり決まっていないと進めないタイプでした。ギターも音楽も好きでしたが、なかなかしっくりこなかったのです。「努力が足りない」「練習不足だ」と、いつも苦手意識を感じていました。
しかし、ブラジル音楽に出会って、その考えが大きく変わりました。譜面に書けないリズムの揺れ、日本では「よくない」と思われがちな価値観が実は「OK」だったり…。音楽を通して普段の価値観が180度変わる経験ができるのが、ブラジル音楽の魅力だと思います。
音楽は苦手、リズム感がない、もう年齢的に難しいかも…。そんな風に思っている方こそ、新しい可能性が開けるかもしれません。まずは気軽に体験していただいて、ご自身のペースで音楽の世界を広げていっていただければと思います。