農業×福祉で描く、誰もが自分らしく生きられる未来ーNPO法人ユアフィールドつくばから広がる可能性

「誰もが自分らしく生きられる場所を作りたい」——。つくば市で農業と福祉を組み合わせた活動を展開するNPO法人ユアフィールドつくばは、そんな想いを大切に活動を続けています。上下関係のない組織づくり、地域との交流、そして新たな挑戦の数々。既存の福祉の枠を超えた、新しい共生社会への取り組みについて代表理事の伊藤氏にお伺いしました。

福祉と農業を組み合わせた独自の取り組み

ー御社の事業概要について教えていただけますでしょうか。

伊藤氏:福祉サービスと農業を組み合わせた事業を展開しています。当初は就労継続支援B型として、障害のある方々の就労支援からスタートしましたが、現在は4箇所の施設を展開し、18歳から70歳までの知的障害、精神障害、身体障害のある方々、全体で120名ほどが利用されています。

最初は障害のある方々の働く場所の少なさに問題意識を持ったことがきっかけでした。しかし実際に事業を進めていく中で、障害のある方々が自分らしく楽しく地域で暮らしていくためには、働く場所だけでなく「暮らす場所や余暇支援」「健康面のサポート」なども必要だと気づいたのです。そこでグループホームの運営や、訪問看護ステーションの開設など、支援の幅を広げてきました。

地域に根差した多様な農業活動

ー農業部門での具体的な取り組みについて教えていただけますでしょうか。

伊藤氏:農業部門では、有機野菜セットの宅配や米作り、竹細工、地域における樫農園の運営、平飼い養鶏による卵の生産など様々な活動を行っています。最近では弁当の製造販売も始めました。

農業を選んだ理由は、当初、農業の担い手不足と障害者の就労支援というニーズがマッチすると考えたからです。しかし実際には、障害のあるスタッフの工賃を上げていくという点においては、相性は必ずしも良くないことに気づきました。一方で、体を動かす喜びや、地域の方々と交流できる機能として農業には大きな価値があります。

私たちは地域の中で「ごきげんファームがあって良かった」と思っていただけるような農業を目指しています。そう思っていただけるように、夏祭りや卵取り体験、野菜の収穫イベントなど、地域の方々と交流する機会を大切にしています。

障害特性に合わせた工夫と課題

ー農業と福祉を組み合わせる中での課題について教えてください。

伊藤氏:農業における課題の一つは、作業における判断の難しさです。例えば、ジャガイモを植える際の切り方一つとっても、どう切るべきか迷ってしまう場面が多くあります。

私たちは露地栽培を中心に、年間を通じて100品種以上の野菜を栽培していますが、これはマニュアル化が難しい農業形態です。出荷基準も生育状況によって柔軟に判断する必要があります。そのため、一つ一つの作業をどのように分解し、どういった手順で行えば障害のあるスタッフが無理なく取り組めるのか、日々試行錯誤を重ねながら活動を続けています。

対等な関係性を重視した支援

ー利用者の方々との関わりで意識されていることは何でしょうか。

伊藤氏:利用者の方々との関わりで最も大切にしているのは、上下関係を作らないということです。私たちは利用者という呼び方ではなく、スタッフと呼んでいます。「一緒に良い農業をしよう」という姿勢で接しています。

もちろんサポートは必要ですが、それは上司が部下をサポートするのと同じように、より良い仕事をチームでできるようになるためのものです。従業員間でも、役職や役割はありますが、ピラミッド構造にならないような組織づくりを心がけています。

社会貢献を重視した今後の展望

ー今後どのような取り組みを考えておられますか。

伊藤氏:今後の展望として、食鳥処理場の開設を計画しています。養鶏施設を持つ福祉事業所は少なく、さらに処理場を持っているところはほとんどありません。実は私たちの卵や鶏肉は現在でもミシュランの星付きレストランで使っていただけるほどの品質を実現できています。この強みをさらに伸ばしていきたいと考えています。

もう一つ、私は現在保護司として活動しているのですが、その経験から感じた課題にも取り組んでいきたいと考えています。刑務所から出所された方の多くは、帰る場所がないという現実に直面しています。平均すると7回程度の再犯に至るケースが多く、これは本人にとっても社会にとっても大きな損失です。そのため彼らが暮らせるグループホームや、働ける農場の設立を検討しています。

社会貢献を重視する価値観の源泉

ー収益よりも社会貢献を重視されている理由についてお聞かせください。

伊藤氏:私の価値観の源には、二つの大きな影響があります。一つは福祉の仕事に携わる家族の存在です。母が福祉の仕事をしており、兄弟も福祉の分野で働いていること影響を受けました。

もう一つは、つくば市長の五十嵐立青氏との出会いです。この団体は五十嵐氏が立ち上げ、私が引き継がせていただいた経緯があります。私のファーストキャリアとして五十嵐氏と共に働く中で、社会課題に向き合う姿勢や、困っている人に寄り添う価値観を学ばせていただきました。その経験は今でも私の活動の根幹となっています。

読者へのメッセージ

ー最後に記事を読んでいる方に向けたメッセージをお願いします。

伊藤氏:資本主義社会の中で、人の価値は往々にして収入や生産性で測られがちです。しかし、私たちの活動を通じて実感してきたのは、一人ひとりの存在には、そうした経済的な価値では測れない大切な意味があるということです。

障害のある方々、社会的に困難を抱えている方々を含め、誰もが自分らしく地域で暮らしていける社会を作っていくことは簡単ではありません。しかし、私たちは農業という手段を通じて、地域の方々との関わりを大切にしながら、一歩一歩その実現に向けて歩んでいきたいと考えています。

もし私たちの取り組みに共感していただける方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、ごきげんファームに足を運んでいただければ幸いです。私たちと一緒に、誰もが居場所と出番のある地域社会づくりに参加してみませんか。