小学生を中心とした親子向けの自然体験活動を提供する「地球野外塾」。
単なる体験にとどまらず、子どもたちの自立的な判断力と応用可能な知識の獲得を目指す同団体の取り組みについて、代表の海老澤一彦氏にお話を伺いました。
親子で育む自然体験の価値
ーまず、どういった方を対象に、どのようなサービスが提供されていらっしゃるか教えてください。
海老澤氏:基本的には年長から中学生くらいまでの親子を対象とした自然体験活動を提供しています。
少人数制で、一人ひとりが「やってみた、工夫した、できた」と実感できる進行を重視しています。
小学3年生までは親御さんの同伴をお願いしているのが特徴で、これには重要な意図があります。
子どもだけでなく、親御さんにも体験を共有していただくことで、日常生活に役立つ新たな気づきやヒントにつながることを期待しているのです。
また、子供たちの体験格差の拡大を問題視していて、経済的に苦しいひとり親ご家庭向けの「チーター割」という参加費割引制度を10年間続けています。
体験活動に対価を払う意義を見出せていないご家庭のお子さん向けにはワンコイン・500円プログラムも用意して、より多くの方に自然体験の機会を提供できるよう工夫を重ねています。
早稲田大学探検部のDNAを継承
ーこの活動を提供するに至った経緯のきっかけについて教えていただけますか?
海老澤氏:私たちの遠い前身は1980年代の早稲田大学探検部に遡ります。
当時の探検部OBたちは自主的に子ども向けの自然体験活動を行っていましたが、その後、彼らも家庭を持って多忙になり、一時は活動が途絶えました。
2000年代に入り、自然体験を通じて子どもの能力をもっと引き出せる、と考えた有志のOBたちが再び集まり、今度はNPO法人という形で体系的な活動を始めたのが発足の経緯です。
2004年の設立以来、年間を通じて理念に基づいた自然体験活動を継続しており、昨年は設立20周年を迎えることができました。
「応用可能な体験知」の獲得を重視
ー 地球野外塾様の強みや注目ポイントについて教えていただけますか?
海老澤氏:最大の特徴は、参加者の自立を見据えたサポート方針です。
私たちが最も大切にしているのは、体験知の世代間伝承です。
例えば、虫とりにしても、本で知識を得ることとフィールドで実際に経験することでは大きな違いがあります。
失敗と工夫を繰り返すからこそ体験から得た有益な知恵、つまり体験知が獲得できます。
すべての活動は、たとえ1回限りの参加でもこうした体験知を確実に持ち帰っていただけるよう工夫しています。
活動後にはその日のようすを撮影したウェブアルバムと体験のポイントをメールで送り、いつでも体験内容を振り返れることができるようにしています。
自然の中で同じような場面に遭遇した時、体験知を活かして対処でき、その知恵を仲間や自分の家族にも伝え続けていただくことが私たちの願いです。
予測できない変化こそが学びの源
ー 自然体験だからこそ得られる良さについて、どのように考えますか?
海老澤氏:日帰りならば6-7時間という限られた時間の中でも、自然は予想もしないさまざまな変化を見せてくれます。
都会の公園では10年通っても得られないような経験が、たった1回の自然体験で得られることもあります。
ご参加者は、刻々と変わる自然の様相に次々と対応する必要があります。
そうした場面で、私たちがこころがけているのはサポーターに徹すること。
要注意ポイントがあっても、ご参加者自身が気づけるよう慎重に進行すれば、事前にアドバイスするよりも深く心に根づきます。
自然の変化に対してスタッフに守られすぎてしまうことなく、自分自身で判断して行動できるような機会をたくさん設けてあげられるよう努めています。
安全で豊かな体験は下見から
ー参加される皆さんと接する際に、どんなことを意識されていますか?
海老澤氏:活動の成否を決めるのは、活動当日につながる事前の下見です。
下見は、各場所でのリスクの認識はもちろん、時間の配分にも役立ちます。
当日、ご参加者が虫や花を見つけて道草がはじまったときも、その後の所要時間がわかっているので、制限時間のなかで計画を見直せます。
こうした道草はご参加者の自発的な興味の表れですから、想定外であっても大切にしています。
入念に下見をしたら、当日は臨機応変に。
活動の準備時と当日は、常にこのことを意識しています。
未婚層への期待
ー今後、新たに取り組んでみたいことや計画はお持ちですか?
海老澤氏:今年からは、これまでの親子のほかに、未婚の青年層も活動の対象に加えたら新しい相乗効果が生まれるのではないかと期待しています。
1つは若い世代に自然体験のノウハウをお伝えすれば、将来お子さんが生まれたときにご家族で自然を楽しむことができます。
2つ目は、自然体験をつうじて同じ興味を持つ人々が出会い、つながるきっかけになればと考えています。
3つ目は、世代間交流の促進です。
子どもたちにとって、若いお兄さんお姉さん世代との関わりは非常に刺激的です。
また、若い世代にとっても子どもたちと直接触れ合う経験は、将来の人生設計を考えるヒントになるかも知れません。
ー最後に、記事を読んで協力者の方へメッセージをお願いできますか?
海老澤氏:自然のなかでのスポーツやアクティビティは、なんでも動画で見られる時代になりました。
しかし、地球上の生き物のうち、今まで発見されたのは全体のたった1割ほどだといわれます。
今なお自然は人類にとって広大な未知の領域なのです。
身近な自然に親しむ体験が、まだだれも試みていない挑戦や新しい発見につながる第一歩になってもふしぎではありません。
私たちは、大ケガや事故を未然に防ぎながら20年間に6千人以上の方を自然の中へご案内した経験を活かし、そんな「はじめの一歩」を応援します。