人との触れ合いを通じて心の安定を育む「NPO日本タッチ・コミュニケーション協会」。
30年以上にわたり、赤ちゃんからお年寄りまで、幅広い年代へのメンタルヘルスケアに取り組んでこられた宇治木先生に、その意義と実践についてお話を伺いました。
アタッチメントが育む心の安定性
ー どのような方を対象に、どういった指導を行っているのかお聞かせください。
宇治木先生:私たちのスクールでは、赤ちゃんから大人まで全年齢を対象に、ストレス対応力を高めるための講義と実践を行っています。
特に重要なのが、幼少期におけるアタッチメントの形成です。
例えば、赤ちゃんは空腹や暗闇への不安など、様々な場面で心の安定が崩れます。
特に空腹は、胎児期には経験したことのない死に直結するような恐怖として感じられます。
そんな時、保護者が声をかけながら抱っこをし、なだめたり、あやしたりする働きかけによって、赤ちゃんは心の立て直しを図ることができるのです。
アタッチメントと経済効果の意外な関係性
宇治木先生:アタッチメントの研究はアタッチメントを十分与えられなかった子ども達の研究から始まり、その結果は心身の発達に深刻なダメージを与えることが示されました。
一方で、1960年代から始まったアメリカの貧困地域での大規模な研究により、幼少期のアタッチメント体験がその後の人生に大きな影響を与えることが明らかになりました。それが、2000年にノーベル経済学賞を受賞したヘックマンの研究です。
幼少期に適切なアタッチメント体験を得た子どもたちが、40代になった時点で高い幸福度を示したのです。
これは単なるIQや認知能力の向上ではなく、「非認知能力」の発達によるものでした。
人生のどの段階からでも効果が期待できるアプローチ
宇治木先生:アタッチメントの効果は、幼少期に限ったものではありません。
私はタッチ・コミュニケーションという独自の手法を確立し、青年期から高齢期まで、どの年代においてもアタッチメント効果を引き出すことが可能だと実証してきました。
インドのアーユルベーダを基礎としながら、現代のニーズに合わせた形でプログラムを開発し、さまざまなセミナーを展開しています。
触れ合いが苦手な方には、カウンセリングを通じてアタッチメント効果を引き出すアプローチも行っています。
経験から生まれた使命
ー このような活動を始められたきっかけについてお聞かせください。
宇治木先生:43歳で夫を亡くした経験が大きなきっかけでした。
男性は泣いてはいけないという古い価値観の中で育った夫は、幼少期に十分なスキンシップを受けられませんでした。
また、1990年代に不登校の子どもたちの支援活動を行う中で、自傷行為や摂食障害に苦しむ若者たちと出会ったことも大きな転機となりました。
インドでの研修中に出会った子どもたちの強い生命力に触発され、ベビーマッサージの研究を始めました。
その後、医学的な研究を重ね、NHKでの全国放送をきっかけに、日本全国にベビーマッサージの概念が広まっていきました。
次世代に繋ぐ平和的問題解決能力
ー 受講者の方に伝える際に意識されていることはありますでしょうか?
宇治木先生:アタッチメントという言葉を知らない方でも、自身の赤ちゃん時代を想像しながら、心が不安定になった時の気持ちに寄り添えるよう心がけています。
そして、その体験を他者と共有することで、平和的な問題解決ができる次世代を育てることができるというメッセージを伝えています。
本質的な理解を持つ指導者の育成へ
ー 今後の展望についてお聞かせください。
宇治木先生:アタッチメントの本質的な意義や、非認知能力との関連性をしっかりと理解した指導者の養成に力を入れていきたいと考えています。
Zoomなども活用しながら、全国各地でアタッチメントと非認知能力を育むトレーナーを育成していければと思います。
メッセージ
ー 最後に、レッスンを希望される方へメッセージをお願いできますでしょうか?
心が揺らいだ時、不安な時に、タッチ・コミュニケーションを通じて心を立て直すお手伝いをさせていただくことができます。
一緒に心を安定させ、幸せで健康な生き方に繋げていきましょう。