不登校、引きこもり、学校での居場所のなさ…。子どもたちの教育課題が複雑化する現代社会において、従来の教育システムだけでは対応しきれないケースが増えています。
そんな中、大分県で注目を集めているのが、フリースクール『あすらん』です。2024年9月には通信制高校も開校し、不登校の子どもたちに新たな学びの場を提供しています。特に注目すべきは、その独自のアプローチ。「人との関わり」を重視し、地域と密着した体験型の学習を通じて、子どもたちの自己肯定感を高めていく取り組みです。
代表の片原 由貴子氏は自身のいじめ経験や海外留学での気づきから、「子どもたちの可能性を引き出す場所を作りたい」という想いで活動を始めました。今回は片原氏に、『あすらん』の特徴的な教育方針や、不登校支援における新しい可能性についてお話を伺いました。
心が疲れた子どもたちの「異空間」として
ー 本日はどうぞよろしくお願いいたします!まずは、『あすらん』の概要について教えていただけますでしょうか?
片原:フリースクール『あすらん』では、心が疲れた子どもたちを主に受け入れています。HSC(Highly Sensitive Child)と呼ばれる子や、特別な才能を持つ子どもたちが多く在籍しています。何らかの事情で学校に行けない、あるいは行かないという選択をした子どもたちが、私たちの場所で様々な体験を通して視野を広げ、自己肯定感を高めていきます。そこから学校に戻るか、社会に出るか、進学するかといった次のステップに進んでいけるよう、一時的な「異空間」としての役割を果たしています。
また、2024年9月に開校した通信制高校(精華高等学校 大分中央校)との連携により、中学卒業後の進路についても安心してご相談いただけます。高校3年間という長いスパンで成長を見守り、その先の大学進学などに向けて準備していける環境を整えています。生徒たちは、フリースクールでの経験を活かしながら、自分のペースで高校生活を送ることができます。
個人の経験から生まれた教育への想い
ー片原様が『あすらん』を始められたきっかけについて、お聞かせください。
片原:最初のきっかけは、知り合いの高校生から「このままでは卒業できない」という相談を受けたことでした。その子の状況を見て、「うちで卒業できる道を作ろう」と考え、通信制高校の設立を決意しました。その後、中学生の時点で悩みを抱える子どもたちの存在を知り、フリースクールも開設することになりました。
しかし、より根本的なきっかけは、私自身の経験にあります。私は転勤族の家庭で育ち、中学時代には東京から千葉、さらに大分へと転校を重ねました。方言が分からないことなどが原因でいじめのターゲットになり、教科書を破られるなどの辛い経験をしました。当時は「学校に行かない」という選択肢自体が存在せず、辛い思いをしながらも通学を続けていました。
そんな中、中学2年生の時にアメリカへの留学機会を得たことが、人生の転機となりました。日本では「いかに目立たないか」を意識していた私でしたが、アメリカでは「いかに自分を表現するか」が求められ、その文化の違いに大きな衝撃を受けました。この経験から、視野を広げることの大切さを実感し、同じように悩む子どもたちの支援をしたいという想いが芽生えました。
体験重視の独自のアプローチ
ー他のフリースクールとの違いについて、アピールポイントを教えていただけますでしょうか?
片原:フリースクール『あすらん』の最大の特徴は、性別や属性に関係なく、一人の「人」として子どもたちと向き合い、そのパーソナリティを大切にする点です。特に力を入れているのが、豊富な体験活動と地域密着型の取り組みです。
子どもたち自身が地域の方々や企業に連絡を取り、イベントの企画・運営を行います。電話での発注や納品、検品、物販など、実践的な経験を積むことができます。本格的イベント運営なども行っており、それぞれの得意分野を活かせる場を提供しています。例えば、音響が得意な子、ポスター制作が得意な子など、個々の才能を引き出し、伸ばしていくことを大切にしています。
他のフリースクールと大きく異なる点は、積極的に外部との接点を持つことです。多くのフリースクールが内部での活動を中心としているのに対し、私たちは意図的に外部との関わりを増やしています。これは私自身のアメリカでの経験から、「自己表現」の機会を多く設けることが重要だと考えているからです。
多様な指導体制で一人ひとりに寄り添う
ー指導員の方々の体制や、特に意識されていることについて教えてください。
片原:弊校の指導員は、教員免許保持者に加え、様々な専門性を持つスタッフで構成されています。パソコンのスペシャリストや心理カウンセラー、音楽指導者、子育て経験者など、多様な経験と資格を持つスタッフが在籍しています。年齢層も幅広く、70代のスタッフもおり、子どもたちは自分に合った指導者と関係を築いていけます。
指導における最も重要な方針は、「やりたくないことを楽しくする」ということです。特にイベントなどでは、まず指導員自身が楽しむことを心がけています。HSCの子どもたちは周囲の感情に敏感なため、指導員の前向きな姿勢が子どもたちの意欲を引き出すことにつながるのです。
また、子どもたち同士のコミュニケーションを促進することも重視しています。最初は大人がきっかけを作りますが、徐々に大人が引いていき、子どもたち同士で関係を築けるよう支援しています。寄り添いながらも、共に上を向いていける関係性を築くことを大切にしています。
個性に応じた3つの高校コース
ー中学卒業後のフォローも充実していますね。「精華学園高等学校 大分中央校」のコース内容について詳しく教えていただけますでしょうか?
片原:「精華学園高等学校 大分中央校」では、生徒の状況や目標に応じて3つのコースを用意しています。
1つ目は単位認定コースです。体調の関係で通学が困難な生徒向けに、年間10日程度の出席で卒業できるよう設計されています。ただし、1年次からこのコースを選択することは推奨していません。心の回復や成長のためには、可能な範囲で人との関わりを持つことが重要だと考えているからです。2年生、3年生になってからのコース変更は可能で、状況に応じて柔軟に対応しています。
2つ目は一般コースで、毎日通学が可能な生徒向けです。日々の通学を通じて生活リズムを整え、人との交流を楽しみながら、様々な体験活動に参加できます。フリースクールで培った経験を活かしながら、より本格的な学習にも取り組んでいきます。
3つ目は特別コースで、資格取得に特化したプログラムを提供しています。医薬品登録販売者や会計士、カウンセラーなど、生徒の目標に応じた資格取得をサポートします。一人ひとりの興味や適性に合わせて、教職員が伴走しながら資格取得を支援していきます。
これまでの卒業率は100%を維持しており、卒業後は約9割が進学、1割が就職や当校の伴走型予備校に進んでいます。3年間の過程で、人との関わりに自信を持ち、大学生活を楽しめる心の強さを育んでいます。実際に、元々人との関わりが苦手だった生徒が、卒業後に小学校教師になり、さらに現在は大学院で研究助教授として活躍している例もあります。
不登校支援の未来へ向けて
ー今後の展望についてお聞かせください。
片原:大分県は不登校の子どもたちが非常に多い地域です。まだフリースクールや通信制高校の存在を知らない子どもたちも多く、家に閉じこもってスマートフォンやパソコンに向かう時間を過ごしている現状があります。
私たちは「人との関わり」を最も大切にしています。より多くの子どもたちに私たちの存在を知ってもらい、人との関わりを通じて成長できる場を提供していきたいと考えています。子どもたちの才能は、いつ、どのような形で開花するか分かりません。だからこそ、様々な体験や機会を提供し続けることが重要だと考えています。
将来的には、小中学校の設立も視野に入れており、大分から日本全体、さらには世界へと羽ばたける人材の育成を目指しています。一人でも多くの子どもたちが、自分らしく輝ける場所を作っていきたいと考えています。
ー最後に、『あすらん』への入学を考えている方へメッセージをお願いします!
片原:第一歩を踏み出すのは難しいかもしれません。でも、一度来てみれば必ず楽しさを感じていただけると確信しています。卒業生たちは皆、3年後の自分の変化に驚くほどの成長を遂げています。その第一歩を踏み出す勇気を持って、ぜひ私たちの門を叩いてください。
次回の学校説明会は2025年1月24日を予定しています。在校生との交流も可能ですので、フリースクールや高校の雰囲気を直接感じていただくことができます。また、個別相談は随時受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。
私たちは、一人ひとりの子どもたちの可能性を信じ、それを最大限に引き出すことに全力を尽くしています。新しい一歩を踏み出す勇気を持った皆さんを、温かく迎える準備は整っています。