不登校の子どもたちの居場所づくり ー多機能型事業所スピカが目指す”安心できる場所”

「不登校の子どもたちやその家族に、まず伝えたいのは「大丈夫」という言葉だと語る多機能型事業所スピカの施設長・新田さん。子どもの不登校をきっかけに20年間のサラリーマン生活から転身し、児童福祉の道に進んだ経緯や、独自の支援の形を模索する現場の様子についてインタビューしました!

集団活動が苦手な子どもたちのための放課後等デイサービス

ー放課後等デイサービスとして、どのような方を対象にサービスを提供されていますか?

新田さん:放課後等デイサービスは通常、小学1年生から高校3年生までの障害のある子どもたちを幅広く受け入れるサービスですが、当事業所では特に集団活動が苦手なお子様、不登校の子どもたちを中心に受け入れています。現在登録している25名のうち、約20名が学校に通えていない状況です。

不登校経験から生まれた支援への想い

ースピカを立ち上げられた経緯について教えてください。

新田さん:私自身、以前は20年間一般企業に勤めていましたが10年ほど前に子どもの不登校をきっかけに退職し、その後児童福祉の世界に入りました。理由は子どもに寄り添える仕事がしたいと思ったからです。

課後等デイサービスの現場で働く中で、集団活動に馴染めない子どもたちの存在に気づきました。また「集団生活に慣れる」ことを目標に掲げ、それを強いるような支援の在り方に疑問を感じていました。

さらに不登校の子どもたちを受け入れる施設でも、「何をしていいかわからない」「ただ預かるだけ」という施設が多く見られました。そこで、学習支援と居場所づくりを組み合わせた新しい形の支援を目指して、この施設を立ち上げることにしました。

アピールポイントと特徴

ー他の放課後等デイサービスと比べて、どのような特徴がありますか?

新田さん:サービスの中心となるのは、eラーニングによる学習支援と自由時間の提供です。eラーニングは1日30分から1時間程度で、子どもたち一人ひとりの理解度やペースに合わせて進めています。その後の時間は、子どもたちの希望に応じてゲームや読書、友だちとの会話など、その子の興味や関心に合わせた過ごし方ができます。

また、私たちは「預かり」ではなく「居場所づくり」を重視しています。そのため、利用時間も柔軟に対応しており、30分程度の短時間の利用でも構いませんし、設定された時間いっぱいまでいることもできます。大切なのは、子どもたち自身が「ここにいたい」と思える場所であることです。

不登校の子どもたちは、土曜日や祝日に通うことに抵抗を感じる場合が多いため、営業は平日のみとしています。これも、子どもたちの気持ちに寄り添った運営方針の一つです。

料金体系について

ーご利用にあたっての料金体系を教えてください。

新田さん:放課後等デイサービスは国からの補助があるため、比較的低価格で利用できます。平均的な収入世帯で月額4,600円程度、生活保護世帯は月額0円+αでeラーニング費用等をいただいています。

一般的なフリースクールは入学金が15-20万円、月額も5万円程度かかることが多く、経済的な理由で利用できない家庭も少なくありません。当事業所では、経済状況に関係なく、支援を必要とする子どもたちが利用できる場所であり続けたいと考えています。

子どもたちに寄り添うコミュニケーション

ー子どもたちとコミュニケーションを取る際に、気をつけていることはありますか?

新田さん:私自身も不登校を経験したことがあるので、「こうした方がいい」といった一方的なアドバイスはしないようにしています。不登校の子どもたちは、私たちが思う以上に様々なことを考え、努力しています。ただ、思うように心と体が動かないだけなのです。

またその子が今取り組もうとしていることを否定せず、むしろ積極的に支援する姿勢も大切にしています。例えばYouTuberになりたいという子がいれば、知り合いのYouTuberを紹介したり、ギターを習いたいという子には私自身が教えたりしています。背伸びをし過ぎることのない、良い距離感のある関係づくりを心がけています。

支援の現場から – 印象的なエピソード

ー実際にあった印象的なエピソードを教えてください。

新田さん:ある日、利用者の子どもが「コップが汚いからコップが欲しい」と言ってきたことがありました。私が「家のコップが汚いの?」と返したところ、その子から「そういうことは人に言っちゃいけないんだよ」と諭されたのです。たとえ本人が発した言葉でも、それを他人に指摘されることは嫌なんだと、子どもから大切なことを教えられました。

また、隣の市から来た子どもの事例も印象に残っています。その子は自傷行為があり、地元の施設では「預かっても何もできない」と断られ続けた末に、当施設にたどり着いたのですが、ここでの生活を通じて、徐々に自己肯定感を高めていくことができました。

つい最近では、ある中学生との会話が心に残っています。その子は「年も年だから将来は真っ暗だ」と言っていたのですが、「去年の今頃はもっと真っ暗でした」と話してくれました。その言葉から、彼なりに未来への希望を見出せるようになってきたことが感じられ、とても嬉しく思いました。

子どもたちを取り巻く課題と今後の展望

ー今後どのような取り組みを考えていらっしゃいますか?

新田さん:不登校支援を続ける中で、虐待や家出、自傷行為など、より深刻な問題を抱える子どもたちの存在も見えてきました。たとえば最近では、ある子どもが痩せ細った状態で助けを求めてきたことがあったのですが、保護したいという気持ちがある一方で現状では適切な対応ができず、警察に保護をお願いするしかありませんでした。その時にとても悔しい気持ちになりました。

現在、全国の子どもシェルターは22か所しかなく、埼玉県内でも1か所だけですが、そのシェルターの定員は3名程度と非常に限られています。そのためもっと子どもを保護できる場所を増やすべく将来的には児童相談所からの許可を得て、緊急保護が必要な子どもたちも受け入れられる体制を整えていきたいと考えています。

また、学校側の対応にも課題を感じています。確かに学校の先生方も大変な状況ではありますが、明らかに学校側に問題があるケースも見受けられます。このような理由から私たちは「学校に戻すこと」だけを目標とするのではなく、一人ひとりに合った支援の形を模索していきたいと思います。

すべての子どもたちへのメッセージ

ー最後に、この記事を読む方々へメッセージをお願いします。

新田さん:近年、不登校支援を謳った悪質なビジネスが増えていることを危惧しています。例えば、「3日で直す」「1週間で直す」といった安易な約束をする事業者や、知的な遅れのある子どもに対して「必ず伸びる」と約束し、高額な料金を請求する塾なども見受けられますので、そういった甘い言葉に惑わされないよう、注意していただきたいと思います。

そして何より、不登校の子どもたちやご家族に伝えたいのは、「安心してください。大丈夫です」ということです。学校の先生を含め、多くの人が「このままでは進学も就職もできません」と不安をあおってくるかもしれません。しかし、どんな選択をしても社会で生きていける道はあります。

小学校5年生までの学習内容が理解できれば、普通に生活していくことはできます。計算が苦手なら電卓を使えばいい。大切なのは、その子らしく生きていくことです。私たちスピカは、すべての子どもたちが自分の道を見つけられる可能性を信じています。そして、その歩みをこれからも支援し続けていきたいと思います。