スポーツの力で地方・離島の子どもたちを繋ぐ -NPO法人スポーツ巡回ネットワークのチャレンジ

地方の全校生徒1人という小学校から、離島の教育・保育施設まで。スポーツを通じて子どもたちの可能性を広げる活動を展開するNPO法人スポーツ巡回ネットワーク。2005年の設立以来、地域に根差したスポーツ支援を続け、特に離島や地方の子どもたちに新たな可能性を提供し続けています。代表の黒部様に、独自の取り組みについてお話を伺いました。

離島・地方の小規模校に特化したスポーツ支援

ーまず、貴団体について、活動地域や活動の内容についてお聞かせいただけますでしょうか。

黒部様:私たちは、「スポーツの地域格差をなくしたい」を方針に、主に幼児から小学生までの子どもたちに対してスポーツを通じた交流支援を提供しているNPO法人です。2023年度は400以上の施設での活動実績があり、特に地方の小規模校や離島の学校への訪問指導に力を入れています。当初は徳島県を拠点としたフットサル施設の運営からスタートし、徳島県サッカー協会からの委託で巡回指導なども行っていましたが、より自由度の高い活動を目指してNPO法人化しました。

現在は、岡山県の山間部や鹿児島県の離島など、全国各地で活動を展開しています。全校生徒が1人という小学校に赴き、サッカー体験を提供したこともあります。このような環境では、子どもたちは普段地域外の方との交流機会が限られていますが、私たちが訪問することで新しい刺激や体験の機会を提供できています。

コロナ禍を機に見出した新たな可能性

ーオンラインでの活動実績もあると伺っっております。この点について経緯などを伺わせてください。

黒部様:コロナ禍による緊急事態宣言下で、多くの保育園から「子どもたちが外で遊べない」「体を動かす機会が減っている」という相談を受けました。そこで、「オンラインでサッカーはできないか」というチャレンジングな提案をいただき、私たちも初めての試みでしたが、挑戦することにしました。

当初は都市部での展開も検討し、東京や横浜、千葉、埼玉などの保育園にアプローチしました。しかし、都市部ではすでに様々な活動が再開されており、オンラインでのスポーツ指導のニーズは限定的でした。

そんな中、西表島の方々との出会いが転機となりました。当時はまだ島外からの訪問者も制限される中、子どもたちの交流不足を何とかしたいという切実な声を聞き、私たちの活動が本当に必要とされているのは、このような離島や過疎地域なのだと気づかされました。このことをきっかけに、よりニーズの高い地方での活動に力を入れることとなりました。

現在はコロナ禍も明けたため、直接訪問の支援も再開し、オンラインと組み合わせて活動を展開しています。

少人数だからこそ育まれる主体性

ー現在は離島や地方でのオンライン・オフラインの活動に力を入れていらっしゃるということですね。団体の活動を通じて解決したい社会課題についてお聞かせください。

黒部様:小規模校の子どもたちには、独自の強みがあります。人数が少ないからこそ、一人一人が主体的に行動せざるを得ない環境にあり、それが素晴らしい力を育んでいるのです。

印象的なエピソードがあります。徳島県のある休校することが決まった小学校で、最後の卒業生が3人しかいない卒業式に参加させていただいたときのことです。 通常卒業式での思い出発表はクラス全員で少しづつ行うものだと思っていましたが、この小学校ではそのスピーチを3人で約10分を見事につとめました。

校長先生に聞くと、特に練習させたわけではないそうです。子どもたち自身が、「卒業式ではこういうことをするんだ」という情報を自主的に集め、準備していたそうです。少人数だからこそ、「誰かがやってくれる」という他人任せの発想ではなく、自分たちで全てを作り上げる力が育まれていたのです。

しかし、このような素晴らしい力も、一般的な数百名規模の中学校に進学すると、時として失われてしまいます。私たちは、スポーツを通じてこの主体性や個性を継続的に発揮できる機会を作りたいと考えています。

地域を超えた交流の価値

ー支援活動において、特に意識されていることを教えてください。

黒部様:私たちが最も大切にしているのは、「接点のなかった他者との関わり」を通じた成長の機会の創出です。普段の学校生活では、同じ先生や地域の大人としか関わる機会がありません。そこに外部の人間である私たちが関わることで、子どもたちは新しい表現方法や可能性に気づくことができます。

例えば、保育園での活動では、「様々な動物になりきって身体を動かしていく」というプログラムを行いますが、徳之島のとある保育園で、みんなで牛になっているときのことです。子ども達が、手で指を立てて角を作っていて、友達の角と頭をぶつけだしました。そう!闘牛の真似をしていたのです。これは地域の文化が子どもたちの表現に自然と表れた瞬間でした。このような地域ごとの特色を活かしながら、新しい交流の形を作っています。

また、離島間の交流も積極的に行っています。例えば、岡山県と香川県の離島をオンラインでつなぎ、給食の時間に交流する取り組みを始めています。距離は離れていても、同じような環境で学ぶ子どもたち同士が繋がることで、新しい刺激や気づきが生まれています。

持続可能な支援の仕組みづくり

ー今後さらに強化していきたい取り組みについて、差し支えない範囲でお聞かせいただけますでしょうか。

黒部様:現在、最も力を入れているのが、持続可能な支援の仕組みづくりです。小規模校の先生方からは「音楽の先生に来てほしい」「スポーツを教えてほしい」という多様な要望をいただきますが、予算や距離の問題で実現が難しいケースが多くありました。

そこで私たちは、地域社会全体で子どもたちを支える新しい仕組みの構築を目指しています。学校側のニーズと指導者の想いを効果的に繋げ、かつ継続的な活動を可能にする支援の枠組みを検討しています。このような仕組みを通じて、より多くの指導者が離島支援に関われる環境を整えたいと考えています。

また私たちの活動は一過性の活動ではなく継続性を追求するため、地域の青年会議所などの地域団体との共催をしたり、協力関係をとりながら開催しています。これは地域に根差した団体との協力により、まずそのような地域の子どもたちを知ってもらうことでより継続した支援活動が可能になると考えているからです。

小学校,保育施設等関係者の皆様へのメッセージ

ー最後に、支援を検討されている小学校や保育施設等の方へメッセージをお願いします。

黒部様:よく「うちの小学校は2人しかいないんですが…」と遠慮されることがありますが、むしろ少人数の学校こそ私たちの得意分野です。数人しかいない学校に行けるのは私たちしかいないと自負しています。

費用面など、様々な心配をされる学校もいらっしゃいますが、そういった部分は柔軟に対応させていただきます。大切なのは、子どもたちに新しい機会を提供すること。私たちは、その学校だけの、その子だけのための活動をお届けする覚悟を持って活動しています。

また、活動を通じて感じるのは、これは決して一方通行の支援ではないということです。むしろ私たちの方が、子どもたちや地域の方々から多くのことを学ばせていただいています。ぜひ、まずは気軽にご相談ください。