ひとり親の孤独を解消する―トークアプリ『ペアチル』が目指す新しいコミュニティ作り

ひとり親の方が抱える最も大きな課題の一つが「孤独感」です。その解決を目指し、2023年6月にローンチしたのが、ひとり親限定のトークアプリ『ペアチル』です。養育費の保証サービスで見えてきた課題から生まれたこのアプリは、同じ境遇の人との出会いを通じて、情報の孤立を防ぎ、精神的な支えとなることを目指しています。今回は運営元である一般社団法人ペアチルの南さんに、アプリの特徴や今後の展望についてインタビューしました!

サービス概要と特徴

ーペアチルの概要と特徴について教えてください。

南さん:私たちが提供しているペアチルは、ひとり親に特化したトークアプリケーションです。開発のきっかけとなったのは、ひとり親の方々が直面している重要な課題、特に「自分と似た境遇の方となかなか繋がれない」という問題でした。この課題は、強い孤独感を生み出すだけでなく、必要な情報からの孤立にもつながっているのが現状です。

このような課題を解決するため、ペアチルでは、できる限り自分と近い境遇のひとり親の方々と簡単につながることができ、LINEのようなチャットインターフェースを通じて気軽に相談や雑談ができる機能を実装しています。2023年6月のサービス開始以来、すべてのひとり親の方々に無料でご利用いただけるよう運営しています。

サービス立ち上げの経緯

ー立ち上げの経緯について詳しく教えていただけますか。

南さん:このサービスを立ち上げる前、私は「小さな一歩」という会社で養育費の保証サービスを手がけていました。その際、多くのひとり親の方々から養育費に関する相談を受けていたのですが、同時に子育ての悩みや収入面での不安など、より包括的な支援を必要とする声も数多くいただいていた背景があります。

当時はそれらすべての相談に十分な対応ができていないという課題を感じており、そこでひとり親家庭の親子に関する包括的な支援事業を立ち上げようと決意し、ペアチルの構想が始まりました。ひとり親支援は戦後の母子支援から始まり、長年にわたって様々な制度やNPOによる支援が行われてきましたが、支援が充実しているにもかかわらず、依然として多くのひとり親が困難を抱えているのが現状です。

そこに疑問を感じ、その理由を探るためのリサーチを開始。数十名のひとり親の方々への詳細なヒアリングを通じて見えてきたのは、収入の多寡に関係なく、ほぼすべての方が抱えている「孤独感」という共通の課題でした。

またこの孤独感は単なる寂しさにとどまらず、深刻なケースでは精神的な追い込みや、最悪の場合、子供への虐待にまでつながってしまう可能性があることも分かりました。

この発見から、就労支援による収入増加や他の支援策の前に、まず取り組むべきは人との繋がりや情報へのアクセスの最適化ではないかという仮説に至り、このプロダクトの開発を決意したのです。

アプリケーションの独自機能

ーアプリの特徴的な機能について詳しく教えてください。

南さん:ひとり親の状況は、一般的に想像されているよりもはるかに多様で複雑です。例えば、ひとり親になった経緯一つを取っても、離婚によるケース、事故や自殺による死別のケースなど、それぞれの方が抱える悲しみや怒りの質が大きく異なります。さらに、養育費の受給状況、面会交流の有無、親や子供の障害の有無など、様々な要因が複雑に絡み合って、一人ひとり異なる状況を生み出しています。

このような多様性に対応するため、私たちは独自のマッチングシステムを開発しました。まず、基本情報として親子の年齢、子供の人数、面会交流の有無、養育費の有無、ひとり親になった経緯などを入力していただきます。さらに特徴的なのが、Instagramのハッシュタグのような仕組みを採用し、自分の境遇を表す独自のタグを自由に作成できる機能です。

例えば、「小学2年生の息子がADHD」「養育費調整中」といった具体的な状況を表すタグを設定することで、より詳細な条件でのマッチングが可能になります。システムは入力された基本情報とタグの一致度を分析し、最も近い境遇の方を自動的にレコメンドする仕組みを導入しています。

また、私たちは境遇だけでなく、趣味や子育ての考え方でもつながれるよう工夫を重ねています。「晩酌が好き」「特定のアーティストのファン」といった趣味に関するタグや、子育ての方針に関するタグも用意しており、より多角的な観点でのマッチングを実現しています。

セキュリティと利用条件

ー利用条件やセキュリティ面での取り組みについて教えてください。

南さん:私たちのサービスは、現在ひとり親として子育てをされている方はもちろん、過去にひとり親であった方々もご利用いただけます。例えば、再婚されて現在は違う環境におられる方や、お子様が成人されて状況が変わった方なども対象としています。これは、過去の経験者の方々の知見や助言が、現在ひとり親として奮闘されている方々にとって大きな支えになると考えているからです。

セキュリティ面については、特に慎重な対応を心がけています。アプリケーションの利便性は重要ですが、それ以上にユーザーの方々の安全を最優先に考え、3段階の厳格な認証プロセスを設けています。

具体的には、まず詳細な基本情報の入力をお願いしています。次に、本人確認書類の提出、そしてひとり親であることの同意書締結という3つのステップを設定しています。この厳格な入口設定により、現在まで成りすましなどの問題は一切報告されていません。

今後のビジョン

ー今後の展望について教えてください。

南さん:私たちの長期的なビジョンは、ひとり親に関するあらゆるサービスを有機的に繋ぐ、包括的なインフラの構築です。このビジョンは、LINEの発展過程からインスピレーションを得ています。LINEは当初、単純なチャットアプリケーションとしてスタートしましたが、現在では様々なサービスと連携する総合的なプラットフォームへと進化を遂げています。

私たちもペアチルを、単なるコミュニケーションツールを超えた、ひとり親支援のプラットフォームとして発展させていきたいと考えています。その一環として、すでに「ペアチルの泉」という新しいサービスも開始しています。これは、アプリユーザーとAIが協力して質問に回答する、新しい形の掲示板サービスです。

利用を検討されている方へ

ー最後に、アプリの利用を検討されている方へメッセージをお願いします。

南さん:ペアチルは、ひとり親の方々の「いざという時」のために開発されたサービスです。私たちが提供しているアプリケーションやその他のサービスは、すべて無料でご利用いただけます。必ずしも毎日アクセスする必要はありません。むしろ、スマートフォンの中の「お守り」として捉えていただければと思います。

子育ての中で新しい情報が必要になった時、夜に子供が寝た後で誰かと話したくなった時など、様々な場面で気軽に使えるツールとして、ぜひダウンロードしていただければ幸いです。同じ境遇の方々との出会いや、必要な情報との出会いが、きっと新しい可能性を開いてくれると信じています。