社会との接点を失った人々にとって、第一歩を踏み出すのは大きな挑戦です。しかし、デジタル技術の進歩により、新たな可能性も広がっています。在宅ワークは、時間や場所の制約を受けにくく、自分のペースで仕事に取り組めることから、社会復帰の有効な手段として注目されています。
『NPO法人スポットライト』は、引きこもりの方やシングルマザーなど、様々な事情を抱える方々に向けて、動画編集やWebデザインのスキルを教える支援活動を行っています。オンラインでの学習環境を整備し、実践的なスキル習得から実際の仕事紹介まで、包括的なサポートを提供しています。
今回は、理事長の杉浦 昇氏に、支援活動に込める思いや、実際の取り組みについてお話を伺いました。引きこもり経験者とITスキルの高い親和性や、支援における工夫、そして今後の展望まで、詳しくご紹介します。
多様な背景を持つ方々への間口の広い支援
ー杉浦様、本日はどうぞよろしくお願いいたします!まずは『NPO法人スポットライト』様の概要について、教えていただけますか?
杉浦 昇 理事長(以下敬称略):『NPO法人スポットライト』は、おもに引きこもりの方やシングルマザーの方々向けに、在宅ワークのスキルを学んでいただくために活動しています。具体的には動画編集やホームページのデザインなどを教えています。対象は働ける年齢の方であれば誰でも参加可能で、障害者手帳の有無などの制限は設けていません。
また、LGBTQの方や障害をお持ちの方など、様々な悩みを抱えた方々も受け入れています。ただし、基本的には社会参画の第一歩となるような内容になっているため、すでに社会人として活躍されている方にとっては物足りない内容かもしれません。
私たちが支援しているのは、様々な理由で社会との接点を失ってしまった方々が、再び一歩を踏み出すためのステップとなることを目指しています。
引きこもり支援の現場から見えてきた可能性
ー『NPO法人スポットライト』設立のきっかけについて、教えていただけますか?
杉浦:元々は別のNPO団体で引きこもりの若者支援に携わっていました。そこでは施設に集まってもらい、CADや経理など様々なスキルを教えていたのですが、私は動画編集の講師として参加していました。
指導を続けていく中で、1人、2人と着実にスキルを身につけていく若者たちを目の当たりにして、「これをもっと広めていきたい」という思いが芽生えました。施設に集まってもらう形式では支援できる人数に限りがありますが、オンラインであればより多くの方にアプローチできます。
また、私は別に動画制作会社も運営しており、将来的には学んだスキルを活かして実際の仕事に関わってもらえればという思いもありました。動画編集やWebデザインの技術を身につけることで、在宅での仕事の機会を広げることができると考えたのです。
ーそもそも杉浦様が支援活動に携わるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
杉浦:元々、障害者施設でパソコンの使い方を教えるボランティアをしていました。その活動を通じて前職のNPO団体を知り、関わるようになりました。
当初は「引きこもりの方々は単にやる気がなくて、家でごろごろしているのではないか」という偏見めいた考えを持っていました。しかし、実際に接してみると、そうした先入観は完全に覆されました。多くの方が、人間関係の悩みや電車に乗れない、時間通りに出社できないといった具体的な困難を抱えていました。
そして、彼らの多くが「いつかは仕事をしなければいけない」という危機感を持ち、自立したいという強い思いを抱いていることを知りました。そうした自立への意欲を持つ人々を支援したいという思いが、今の活動の原点となっています。
ITスキルと引きこもり経験者の高い親和性
ー働きたくても外に出られない方々とITスキルの相性について、どのように感じていらっしゃいますか?
杉浦:実は非常に相性が良いんです。働きたくても外に出られない方々は元々パソコンに触れる機会が多く、ITに対する苦手意識がほとんどありません。また、YouTubeなどの動画コンテンツを日常的に見ているため、「こういうものを作ればいいんだな」という感覚も自然と身についています。
特に重要なのは、時間に余裕があるという点です。例えば、シングルマザーの方々も学ぶ意欲は高いのですが、仕事や育児との両立で時間を確保するのが難しい状況にあります。その結果、なかなか学習が進まないケースも少なくありません。
一方、引きこもりの方々は十分な時間があるため、集中して学習に取り組むことができます。また、レッスンに対するレスポンスも早く、作品の添削を受けた後の修正も素早く行えます。そういった意味で、在宅ワークのスキル習得には最適な環境にあると言えます。
社会復帰を見据えた実践的なアプローチ
ー『NPO法人スポットライト』の支援における、特徴的な点について教えてください。
杉浦:私たちが対象としているのは、ある程度心のケアの段階を終えた方々です。引きこもり支援には様々な段階があり、まず部屋から出られるようになることを目指す団体もあれば、不登校の生徒のケアに特化した団体もあります。
私たちは社会復帰の最終段階として、実践的なスキル習得を支援しています。そのため、特別扱いはせず、一般社会で求められる水準での対応を心がけています。例えば、締め切りを過ぎた場合はきちんと指摘するなど、実際の仕事を想定した指導を行っています。
技術的な面では、編集の仕方や撮影方法など、基本的な内容はYouTubeでも学べます。私たちが重視しているのは、作品の添削指導や、仕事の受け方、料金設定など、実務に直結するアドバイスです。単にスキルを教えるだけでなく、実際に仕事として成立させていくためのサポートを提供しています。
実践重視の年間プログラム
ー提供しているプログラムの具体的な内容について教えてください。
杉浦:年会費1万2000円で、1年間のプログラムを提供しています。オンライン講座は見放題で、月1回の作品添削が基本となります。ただし、熱心な受講生からの質問や相談には柔軟に対応しています。
講座内容は3つの柱で構成されています。
まず、動画編集やWebデザインのオンラインレッスンで基礎的なスキルを習得します。
次に、ある程度スキルが身についた方には実際の仕事を紹介することもあります。
さらに、キャリアカウンセリングを通じて、今後のキャリアプランの相談にも応じています。
ただし、必ずしもこの順序で進める必要はありません。例えば、そもそも動画編集やデザインが自分に合っているかどうか分からない方は、まずキャリアカウンセリングから始めることもあります。一人一人の状況に応じて、柔軟に対応しています。
映像への情熱から始まった社会貢献への道
ー杉浦様ご自身の経歴についてなのですが、映像制作の道に進まれたきっかけを教えていただけますか?
杉浦:小学生の頃から映像制作に興味があり、当時はまだYouTubeもない時代でしたが、テレビや映画の映像に魅了されていました。2001年、学生時代にサークルのような形で映像制作チームを立ち上げ、趣味程度から作品作りを始めました。
その後、2007年に名古屋市内の映像制作会社に就職し、約10年間勤務しました。YouTubeが普及し始め、映像コンテンツの可能性が広がってきた時期に独立を決意しました。長年の経験を活かしながら、社会貢献にも携わりたいという思いが、現在のNPO法人の活動につながっています。
今後の展望と課題
ー今後強化していきたい点について教えてください。
杉浦:最も大きな課題は卒業生のアフターケアです。現状では1年間のプログラムを終えた後のフォローが十分ではなく、せっかく学んだスキルがその後どのように活かされているのか把握できていません。卒業生同士のコミュニティづくりなど、継続的なサポート体制の構築が必要だと考えています。
また、オンライン学習の特性上、自己管理能力が求められます。実際、最初は意欲的に取り組んでも、途中で提出物が減っていくケースも少なくありません。「入会すれば何とかしてくれる」という受け身の姿勢では成果は望めません。
私たちはNPO法人ですが、それは決して「甘えていい」という意味ではありません。この点は時々誤解を受けることがあります。就労支援や就労移行支援とは異なり、より実践的なスキル習得を目指しています。
本気で学ぶ人を全力でサポート
ー最後に、入会を検討されている方へメッセージをお願いします!
杉浦:オンライン学習の最大の特徴は、自分のペースで学べる点です。しかし、これは同時に大きな課題も含んでいます。決まった時間に通う必要がないからこそ、自分で時間を作り、学習を継続する強い意志が必要です。
また、在宅ワークを副業として考えている方も多いのですが、簡単な編集ができるようになっただけでは、なかなか仕事につながりません。片手間の学習では、実践で通用するスキルを身につけることは困難です。
本気で学ぶ意思のある方には、私たちも全力でサポートさせていただきます。アドバイスや後押しはできますが、主役はあくまでも学習者自身です。「自分が何とかする」という強い意志を持って取り組んでいただければ、必ず成長につながるはずです。
なお、『NPO法人スポットライト』ではブログやSNSでも随時情報を発信しています。まずは私たちの活動に触れていただき、ご自身に合っているかどうかを判断していただければと思います。在宅ワークを通じて、新しい一歩を踏み出したい方のご参加をお待ちしています。