フリースクール「ビリーバーズ」が目指す、子どもの主体性を尊重する居場所づくり

「子どもを子ども扱いしない」という理念のもと、不登校の子どもたちに新しい居場所を提供する「ビリーバーズ」。アドラー心理学をベースにした支援で、子どもたちが自分で決める力を育んでいます。2021年の設立以来、着実に実績を重ねてきた同校の活動と、今後の展望について代表の熊野さんにインタビューしました!

フリースクール「ビリーバーズ」の概要

ーフリースクールの概要と、どのような方を対象にされているのか教えてください。

熊野さん:フリースクールには一般的に、不登校、つまり学校に行かないという選択をしている子供達のための場所というものが多くあります。例えば学校のような大きな校舎があり、時間割や先生、クラスが設定されている場所や、在籍している学校への復帰を目的としているところなど、様々です。

しかし、私たちの「ビリーバーズ広尾」「ビリーバーズ板橋」は、そうしたフリースクールとは異なり、学校復帰を直接の目的とはしていません。現在学校に行かないという選択をする子供達が、ゆっくり休み、自分で考え、エネルギーを補充して、次のステップに自分から一歩踏み出すための準備をする居場所として運営しています。

2021年10月に1拠点目のビリーバーズ広尾をスタート。ビリーバーズ板橋は2拠点目として2024年1月からスタートしており、現在2つのフリースクールを運営しております。

子どもたちの日常と活動内容

ー日々の活動内容について具体的に教えてください。

熊野さん:私たち大人は「先生」という役割ではなく、共にその場を過ごす人という立場でいます。その意味で大人がプログラムを作ったり先導したりすることはあえてせず、その日参加する子供達に自分で何をするかを決めてもらっています。もちろん一緒に何かをすることもあるのですが、逆に「やらないという選択」を取る練習もします。

子供達が慣れてきて友達ができると、おおよその流れが決まってきます。広尾も板橋も、朝10時から10時半ごろまでの間にみんなが集まり、午前中は室内でゲームをすることが多いです。お昼ご飯は、お弁当を持ってきたりコンビニで買ったり、時には皆で作ったりします。昼食後は天気が良ければ公園に遊びに行くなど外に出ることもあり、午後2時までを過ごすという流れが一般的な1日となっています。

ビリーバーズ設立の経緯

ー設立に至った経緯を教えてください。

熊野さん:私は元々、株式会社子育て支援という会社を経営しており、2007年から保育園の運営や自治体の児童館、子育て支援センターなどの事業を行ってきました。また、アドラー心理学をベースにした教育コンサルティングや保護者向けカウンセリング、書籍の出版、講演会なども実施してきました。

その活動の中で、不登校に関するご相談が年々増加し、特にコロナ禍でその傾向が顕著になってきたというのがきっかけです。同時に会社の方はコロナの影響で事業が一時的に停滞し、スペースと時間に余裕が生まれたため、それまでは主に大人が来る場所だった会社のスペースを、学校に行かない子供達の居場所として活用できないかと考え、非営利活動として一般社団法人ビリーバーズを立ち上げることにしました。

ビリーバーズの特徴と強み

ー運営を通じて見えてきた特徴や強みを教えてください。

熊野さん:これまで3年以上活動を続けて、多くの子供達がビリーバーズを巣立っていきました。実践を通じて分かったのは、ビリーバーズはストックの場所ではなく、フローの場所だということです。子供達は親がSNSなどで見つけて来るものの、私たちは学校復帰を促すようなことは一切言いません。それでも子供達は通ううちに元気を取り戻し、自信をつけ、自分のタイミングで次の一歩を踏み出していくのです。

例えば、年明けや学年の切り替わり、小学校から中学校への進学など、それぞれのタイミングで子供達が自分で決めて動き出すことが多く見られます。中には、都会から長野県への移住を決めて家族で引っ越すなど、大きな行動に出る子供もいます。このように、子供達が自分でエネルギーを蓄え、動き出せる場所としての実績が積み重なってきています。

親子の変化と成長

ー参加されているお子様や保護者の方に、どのような変化が見られますか?

熊野さん:好循環が生まれています。最初は学校復帰にこだわっていた親が、子供の笑顔を見て安心し、その親の笑顔を見て子供もまた安心する。この循環が始まると、親の表情も明るくなり、服装が軽やかになったり、お化粧が綺麗になったりと変化が表れます。

当初は親同士のつながりを求める方も多いのですが、次第に「自分は自分のことをする」と、仕事や自分の時間を大切にするようになります。そんな親の姿を見て子供も嬉しく感じ、お互いに元気になっていくのです。これはアドラー心理学の考え方でもある、ネガティブな方向ではなく良い可能性に目を向けることで、人との関係がスムーズになっていく過程だと言えます。この原理は、親子関係だけでなく、夫婦、恋人、職場の人間関係など、あらゆる対人関係に当てはまります。

スタッフへの指導方針

ースタッフの方々への指導で大切にされていることは何ですか?

熊野さん:アドラー心理学をベースに、まず「子供を子供扱いしない」ということを大切にしています。これは代表である私とスタッフの関係性においても同様で、上下関係ではなく横の関係、相互尊敬・相互信頼の関係を築くようにしています。子供に対して横からアプローチしようと言っているのに、大人同士が上下関係でやっていたら、子供達はすぐに気付いてしまうのです。

このアプローチにより、「自分が子供だから」とか「スタッフだから」という言い訳ができなくなる代わりに、互いにリスペクトし合える関係が生まれます。大人も子供も共にそれを学んでいける場所を目指しています。

今後のビジョンと展開

ー今後の展開についてお聞かせください。

熊野さん:厚生労働省の発表によると、不登校児童の数は毎年急増しており、昨年秋の最新情報では小中学生で34万人に達しています。都会でも地方でも、1クラスに1人や2人は学校に来ていない状況が当たり前になってきています。

ビリーバーズとしては、なるべく早く日本中にそういう子供達が元気に過ごせる居場所を作りたいと考えているのですが、私たちの努力だけでは現実的ではないため、各地で同じような思いを持つ仲間を集め、ノウハウを共有することで、地域に密着した小さな居場所を増やしていく活動を進めています。板橋がその第一号となりました。

今後は、地元で居場所を作りたい方々にノウハウを提供し、リモートでの展開支援なども加速させていく予定です。ビリーバーズのブランドでのフランチャイズ展開や、別ブランドでのコンサルティング提供など、形態は問いませんが、子供たちの主体性を尊重する居場所を日本中に作っていきたいと考えています。

保護者へのメッセージ

ー不登校のお子さんを持つ保護者の方へメッセージをお願いします。

熊野さん:子供が学校に行かないという選択をしたとき、親として心配するのは当然のことです。ただ、心配する気持ちを「信頼」に変えていただきたいと思います。心配から信頼へ、たった1文字の違いですが、その変化が子供を動かす大きな力となります。

「なんとかなるよ」「いつか大丈夫だよ」「学校に行かなくても、あなたはあなたなりに幸せになれるから」と親が思えた瞬間に、子供は動き始めます。時が解決することもたくさんあるので、どうか子供の力を信じてください。

この取り組みを1人で抱え込む必要はありません。私たちビリーバーズに相談していただければ、親御さんに勇気を与え、お子さんに居場所を提供することができます。

また、日本全国で居場所づくりに興味を持つ個人や法人の方々も増えています。経営やマーケティング、資金調達、スタッフ採用など、分からないことがあっても、まずは私たちに連絡してください。様々な勉強会やFacebookグループを通じて、同じ志を持つ仲間とつながることができます。