大人気の韓国料理教室『Chinsugi’s Kitchen』代表・チンスギさんにインタビュー!

韓国料理と言えば、日本でもすっかり定着した人気ジャンルになりました。特に近年は韓国ドラマやK-POPの人気も相まって、本格的な韓国料理に挑戦してみたいという方が増えています。そんな中、大阪を拠点に注目を集めているのが『Chinsugi’s Kitchen(チンスギズキッチン)』です。

主宰のチンスギ (Chinsugi) さんは、韓国と日本の二拠点生活を続けながら、単なる料理の技術だけでなく、文化や歴史、さらには食を通じた深いディスカッションの場を提供しています。コロナ禍をきっかけに始まったこの教室は、今では「予約が取れない教室」として人気を博しています。

今回は、リアルな韓国の情報と本場の味にこだわるチンスギさんに、教室の理念や韓国料理の魅力、そして今後の展望についてお話を伺いました。韓国本来の味と文化を伝えながら、日本の食文化とも融合させる彼女の独自の視点とは—。

チンスギ (Chinsugi)
韓国家庭料理研究家・クリナリーコンサルタント

韓国国籍、日本育ち。大阪とソウルを拠点に、メニュー・レシピ開発、
アーティストや企業とのコラボレーションワーク、フードケータリング等、
幅広く活躍。予約が取れないと話題の韓国料理教室Chinsugi’s Kitchenを主宰する傍ら、
2023年には本場ソウルの味「ミン家のキムチ」を開業。
YouTubeチャンネル「Chinsugi’s Kitchen」では料理からトークまでバラエティ豊かに発信中。

“韓国ロス”から生まれた新発想—ハルモニの味を日本で伝える大人気料理教室

ーチンスギさん、本日はどうぞよろしくお願いいたします!まず簡単に、『Chinsugi’s Kitchen』はどういった方を対象にしている教室なのか、そしてどういった指導を行っている教室なのか、概要について教えてください。

チンスギ (Chinsugi)主宰(以下敬称略):特に女性限定ということではないのですが、料理教室という性質上、自然と女性の方が多くなっています。韓国料理を中心に、韓国文化全体に興味がある方に来ていただいています。年齢層は意外と高めで、50代半ばの方が中心ですね。若い方ももちろんいらっしゃいますが、主婦の方が約半分、お勤めの方が半分という構成です。

年齢制限や性別制限は設けていないので、どなたでも参加いただけます!男性も少数ですが参加されていて、奥様と一緒に来られる方や、韓国料理が大好きで作ってみたいという方もいらっしゃいます。

ーチンスギさんがこちらの教室を始められた経緯やきっかけを教えてください。

チンスギ:きっかけは完全にコロナ禍ですね。私はもともと料理教室とは全く無縁の世界にいて、コンサルティングの仕事をしていました。韓国と大阪の2拠点で生活していて、韓国籍で親戚も韓国にいるという関係で、30代からずっと2つの国を行き来していました。

日本の企業が韓国に進出したい、あるいは韓国の企業が日本のブランドを取り入れた事業を展開したいという時に、間に入ってコーディネートする仕事をしていたのですが、コロナで大阪から出られなくなり、仕事がなくなってしまったんです。

当然ながら、そのような状況でも生計は立てていかなければならず、2拠点の家賃も抱えている状況で、「これからどうしよう」と考えました。幸いにもコンサルタントをしていたので、先を見る目があり(笑)、「コロナで韓国に行けなくなった人たちがあふれるだろう」「日本中の奥様たちが韓国ロスに陥るのは時間の問題だ」と思ったんです。

そこで、日本にいながら韓国に触れられる何かをしたいと考えました。以前からプロのシェフたちのサポートやメニュー開発のアイデア出しなどの仕事をしていたので、料理には関わっていました。しかし、プロの料理人ではなく、主婦の方々向けに簡単な韓国の家庭料理、私が育った祖母(ハルモニ)の温かい味を伝えられたらと思ったのが始まりです。

ただの料理教室じゃない — 文化人類学×韓国料理の融合レッスン

ー『Chinsugi’s Kitchen』は一般的な料理教室とは違う独自のスタイルがあるように感じます。

チンスギ:料理教室は初めての経験だったので、どう運営するのか全く分からなかったんです。実は料理教室に行ったこともなかったので、まずはインスタで1分動画を始めました。簡単なキムチチゲの作り方などを紹介したところ、フォロワー数がどんどん増えていきました。「やっぱり韓国料理に興味を持つ人は多いんだ」と実感しました。

私が始めた教室は一般的な料理教室と少し違います。3〜4時間のクラスのうち、1時間半が座学なんです。料理について文化人類学的観点から歴史を深掘りしたり、「こんな時代にこういうきっかけでこの料理が変わって、現代ではSNSの投稿がきっかけでこのように変化した」といった話をします。そして最後に料理を作って皆で食べて帰る、そんな教室です。

始めて1年足らずで「予約が取れない料理教室」と言われるようになりました。大阪は東京と違って当時は韓国料理教室が少なく、新大久保(東京)のようなコリアンタウンも規模が小さかったので、そのこともあって人気が出たのだと思います。小さなアパートの一室で始めたスタジオは最大6人しか入れない空間でしたが、月に150人ほどの方が来られる状況になりました。

それでは限界があると感じ、コロナ禍が落ち着いてソウルでの生活も再開できるようになったタイミングで、単発クラスを止めて思い切って1年コースに変更しました。本格的なスクールとして、月に1回同じクラスメイトと一緒に学ぶスタイルにしたんです。

このクラスでは韓国料理だけでなく、日本の文化や料理についても考える時間を設けています。私は韓国人として日本で暮らしているので、アイデンティティや民族的なことを考える機会が多いんです。その経験を活かして、世界の食文化についてもディスカッションする場を作っています。

韓国料理と文化の魅力

ーチンスギさん、めちゃくちゃお肌キレイなんですけど…。それは韓国料理のおかげでしょうか?チンスギさんから見た韓国料理の魅力を教えてください。

チンスギ:はい、お肌はきれいになると思います。何といってもキムチを本当によく食べるんです。皆さんが想像している量の50倍くらい食べているんじゃないでしょうか(笑)。キムチがないと下着を忘れたような感覚で、それくらい欠かせないものなんです。

キムチは直接食べるだけでなく、キムチチゲにしたり、細かく切って餃子に入れたり、調味料としても使います。キムチは乳酸菌の塊で、スプーン一杯に40億個の乳酸菌が入っていると言われています。そういった発酵食品に加えて、野菜もたくさん食べますし、タンパク質もしっかり摂ります。だから韓国の方はお肌がきれいなんですよ。

ー韓国料理に興味を持つ日本人の方は、どんなきっかけで来られることが多いですか?

チンスギ:ほとんどがドラマやK-POPがきっかけですね。10人に1人くらいは純粋に韓国料理が好きという方もいますが、多くは娘さんからの影響だったりします。娘さんがK-POPにはまっていて、一緒に見ているうちにお母さんの方がハマってしまうというケースが多いです。

韓国には、昭和の日本のような昔ながらの感覚がまだ残っていて、特に50代の方々が「エモい」と感じる原風景があるんです。旅行に行くとそれが見えてきます。そういったところに惹かれて、娘さんよりもお母さんの方がはまっていくということもあります。

ドラマやバラエティ、アイドルの番組を見て、「あの人が食べているものを食べてみたい」という気持ちから韓国料理に興味を持つ方も多いですね。それが入口になっているようです。

超本格!現地から仕入れる調味料とトップシェフコラボの特別空間

ー他の韓国料理教室にはない、『Chinsugi’s Kitchen』の一番のアピールポイントがあれば教えてください。

チンスギ:やはり、‟リアルな韓国の情報”だと思います。

現在は月の前半2週間はソウルで、後半2週間は大阪で過ごしていて、毎月必ず新鮮な材料を韓国で仕入れてきています。フレッシュな食材はもちろん日本でも調達しますが、特に干し魚や粉唐辛子など、韓国料理に欠かせない干し食材や調味料は全て韓国で調達しています。これらの調味料は韓国料理を作る上で要となる重要なものなんです。

また、最近ではNETFLIXの『白と黒のスプーン ~料理階級戦争~』という料理対決番組に出演する機会があり、それをきっかけに韓国のトップシェフたちとの交流が始まりました。この番組は世界170か国で配信された大規模な番組で、それによって韓国の著名なシェフたちとの繋がりができました。

その方々を教室にお招きして、1年コース」の生徒さん向けの特別レッスンを開催しています。日本で例えるなら、鎧塚俊彦さんのような、誰もが知る著名なシェフやパティシエの方々です。この距離感でレッスンを受けられるのは本当に貴重な機会だと思います。

さらに、韓国の料理大家と呼ばれるのシムヨンスン先生との出会いもありました。この先生は、大統領夫人や財閥関係者などが、韓国料理を学ぶ際の登竜門として知られている方です。あるきっかけで2年ほど前に出会い、シムヨンスン先生の料理教室の日本校を弊社が担当することになりました。

現在は大々的な告知はしていませんが、「1年コース」の方や以前からの生徒さんを中心に、30名限定でスタートする予定です。あまり大きく宣伝すると殺到して対応しきれなくなるため、まずは小規模でスタートする予定です。来年からはもう少し体制を整えて、より広く展開していく予定です。

失敗OK、まずくてもOK — “適当”を大切にするChinsugiの料理哲学

ー生徒さんに指導する際に特に意識していることや、方針があれば教えてください。

チンスギ:私の方針は、‟適当” なんです(笑)。

みんな料理を難しく考えすぎています。料理はそんなものではなく、楽しむものなんです。失敗してもいいし、極論を言えばまずくてもいいんです。自分で「作る」ということが一番大事だと思っています。

現在は健康や発酵についての話題も多いですし、韓国料理を教える上で「五行陰陽説」「地産地消」の話もしますが、実はそれらはそこまで重要なことではなく、本当に大切なのは自分が創造的になることだと思います。

例えば、大根一本を千切りにして市販のドレッシングをかけるだけでもいいんです。コンビニで買った大根サラダではなく、自分で大根を切る、その行為が大事なんです。千切りが太くても何でもいい。自分が作ったものを食べる、食べてもらう、そこに幸せがあり、ひいては幸せの数珠繋ぎが始まると思ってます。極論すればクッキングセラピーですね。

だから、ここは料理スキルをアップするような場所ではないんです。一回目のレッスンでも「綺麗な料理を学びたい人は来なくていい」と言っています。もちろん、料理教室なので韓国料理はきちんと手間をかけて作りますが、本来、家庭料理とは国に関わらずそういうものではないかなと思っています。

1年かけて深める韓国文化—注目の新コースと今後の展望

ー現在提供しているコースやプランについて教えてください。

チンスギ:現在は主に「韓国家庭料理1年コース」を提供しています。それに加えて、今年(2025年)から始まるシムヨンスン先生とのコラボスクールがあります。この2つが主なコースですね。

また、不定期ですが私自身の料理を楽しんでいただく単発のイベントも行っています。

ー今後、強化していきたいことや取り組んでいきたいことがあれば教えてください。

チンスギ:個人的には、本の出版を考えています。

また、「1年コース」は現在私一人で運営していて、生徒さんたちと一緒に準備から片付けまで行う学校のようなスタイルで進めていますが、今後はもう少し内容に厚みを持たせていきたいと考えています。

よく「単発クラスを再開してほしい」とリクエストをいただくので、スクールの1年間のコースを通えない方のために単発クラスを増やしていきたいという思いもあります。仕事の都合で決まった日に参加できない方も多いので、そういった方々のニーズにも応えていきたいです。

韓国料理教室を通じた文化交流の場として

ー最後に、『Chinsugi’s Kitchen』に興味を持った方々にメッセージをお願いいたします!

チンスギ:「1年コース」は12月スタートという少し変わった区切りで運営しています。次の期の募集は毎年6月頃から始まり、その頃に体験レッスンも開催しています。お気軽に体験レッスンに来ていただければと思います。

単なる料理教室ではなく、韓国文化を深く知り、同じ興味を持つ仲間とディスカッションできる場として、多くの方に楽しんでいただけると思います。韓国料理を通じて新しい自分を発見するきっかけになれば嬉しいです。

韓国の家庭料理を通して、ただ料理のスキルを上げるだけでなく、文化や歴史、そして自分自身の新たな一面を発見できる場所として、『Chinsugi’s Kitchen』の扉は皆さんに開かれています。本場の味と文化を体験しに、ぜひお越しください。