世界では、障害のある人が出版物にアクセスできる割合はわずか7%。開発途上国に至っては1%にも満たないと言われています。この「本の飢餓」と呼ばれる問題に立ち向かうため、特定非営利活動法人エファジャパンは、カンボジアとラオスを中心に子どもたちの教育支援を続けています。設立から20年、すべての子どもたちが自分らしく学び、成長できる社会を目指す、その活動に迫ります。
アジアの子どもたちの教育支援に取り組む20年の歩み
ー 特定非営利活動法人エファジャパンの活動内容について教えていただけますでしょうか?
鎌倉さん:主にカンボジア、ラオス、ベトナムで活動を展開しています。特に力を入れているのは、障害のある子どもたちの教育支援です。彼らが学ぶことを諦めずに、継続して学習できる環境づくりを目指しています。
また、2024年1月1日に発生した能登半島地震への対応として、国内での緊急支援活動も行っています。私たちは国際協力団体ですが、緊急時には国内外問わず支援活動を行うことを定款に定めています。
各国での具体的な支援活動
ー 具体的にはどのような支援を行っているのでしょうか?
鎌倉さん:ラオスでは、首都ビエンチャンにある2つのモデル校で障害のある子どもたちの支援を行っています。
カンボジアでは、首都プノンペンから150キロほど離れた農村地帯で活動しています。この地域には障害のある子どもたちが多く暮らしていますが、特別支援学級や盲学校、ろう学校がありません。そのため子どもたちは普通の小学校に通いますが、授業についていけずに学校を辞めてしまうケースが多いのです。
そこで私たちは「チルドレン・スタディ・クラブ」という放課後教室を3つの村で運営し、授業の復習を中心とした学習支援を行っています。
設立の経緯と背景
ー エファジャパンの設立のきっかけについて教えていただけますでしょうか?
鎌倉さん:私たちの団体は、2004年に設立された特定非営利活動法人です。もともとは全国の公務員労働組合「自治労」が行っていた国際協力事業「アジア子どもの家」の活動を引き継ぐ形で誕生しました。
自治労は1990年代半ばから、カンボジア、ラオス、ベトナムで支援活動を行ってきました。これらの国々が内戦から復興に向けて歩み始めた時期に、より組織的で持続的な支援を行うため、独立した団体として設立されたのがエファジャパンです。
「本の飢餓」をなくすための取り組み
ー 「本の飢餓」という言葉について詳しく教えていただけますか?
鎌倉さん:世界中で、障害のある人が出版された本にアクセスできる割合はわずか7%です。さらに開発途上国では1%にも満たないと言われています。これは単に本がないという問題だけではありません。情報へのアクセスが制限されることで、教育や就職の機会が失われ、生活全般に大きな影響を及ぼすのです。
このような状況を改善するため、私たちは紙の本だけでなく、デジタル図書の開発も進めています。例えば、音声で聞けるオーディオブック機能や、文字を読み上げる際にハイライト表示される機能など、日本でも活用されている技術をカンボジア語やラオス語に対応させて提供します。
戦争の傷跡と教育の課題
ー カンボジアの教育環境が他の東南アジア諸国と比べて整っていない背景を教えていただけますか?
鎌倉さん:カンボジアが直面している教育の課題は、1975年から1979年までのポル・ポト政権時代に深く関係しています。わずか3年8ヶ月余りの間に、国民の4分の1が命を落としたのです。特に知識人層が徹底的に排除され、学校は完全に閉鎖されました。当時の小学校教員の生存率はわずか2割でした。
この時期に教育システムが完全に崩壊し、教員を育成する人材もいなくなってしまった影響は、今でも続いています。現在、カンボジアの小学校修了率は8割を超えていますが、障害のある子どもたちの修了率は22%にとどまっています。この大きな格差が、現在の課題となっているのです。
今後の展望と支援の可能性
ー 今後の展望についてお聞かせください。
鎌倉さん:私たちは「本の飢餓」の解決に向けて、3つの柱を掲げています。
1つ目は「学びの場所づくり」です。ラオスでは障害のある子どもたちが通う小学校に図書室を設置したり、国立図書館と協力して図書館を運営したりしています。カンボジアでは現在48名の子どもたちが学んでいる「チルドレン・スタディ・クラブ」の活動をさらに充実させていく予定です。
2つ目は「教材開発」です。現地で出版されている絵本の活用に加え、より多くの子どもたちが学べるデジタル教材の開発を進めています。特にMicrosoftの読み上げ機能を活用した教材は、視覚障害や発達障害のある子どもたちの学習支援に大きな可能性を秘めています。
3つ目は「人材育成」です。現地のスタッフや教員、そして子どもたちや保護者も含めた包括的な研修を行っています。障害のある子どもたちへの理解を深め、適切な支援方法を学ぶ機会を増やしていきます。
特にデジタル教材の開発では、エンジニアの方々のご協力を求めています。技術面でのアドバイスをいただくことで、より使いやすく効果的な教材を作ることができると考えています。
読者へのメッセージ
ー 最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
鎌倉さん:「本の飢餓」は決して遠い国の問題ではありません。私たち誰もが、事故や加齢により突然、情報へのアクセスが困難になる可能性があります。そのような状況になっても学び続けられる社会づくりは、世界共通の課題なのです。
ぜひエファジャパンのパートナーとして、私たちの活動に参加して頂けますと幸いです。会報やイベント情報の先行案内など、様々な形で活動に関わっていただけます。みなさまのご支援をお待ちしています。