大学入試における英語の評価方法が多様化し、4技能(読む・書く・聞く・話す)の総合的な習得が求められる中、効果的な学習方法の確立が課題となっています。特に、従来の文法中心の学習から、より実践的な英語力の習得へとシフトする過渡期において、個々の生徒に合わせた柔軟な指導の重要性が高まっています。
神奈川県鎌倉市で『Eigojuku英語塾-鎌倉教室』を運営する阿部氏は、集団指導の予備校や大手個別指導塾での経験を活かし、独自の教育理念のもと個別指導に特化した塾を展開しています。「受験勉強をしながら、将来使える実用的な英語力を身につける」という理念の下、医師が患者を診るように一人一人の生徒と向き合い、着実な成長を支援しています。
今回は阿部氏に、変化する英語教育の現場で実践されている指導方法や、今後の展望についてお話を伺いました。
個別指導を通じて生徒一人一人の可能性を引き出す
ー まず、『Eigojuku英語塾-鎌倉教室』の概要について教えてください。
阿部 毅塾長:当教室は個別指導が主体で、1対2までを個別指導として実施しています。生徒さんは中学生と高校生がメインですが、小学校高学年から社会人、大学生まで幅広い年齢層の方々が通われています。
ー生徒さんが目指される主な目標について教えてください。
阿部:中高生が中心ということもあり、最終的には受験を目標とされる方が多いです。ただ、最初のきっかけとしては「学校の授業についていけない」という相談から始まることが多いですね。英語の資格試験対策も行っていますが、やはり定期試験対策や受験対策のニーズが中心となっています。
独立までの道のりと教育理念
ー塾を始められたきっかけについて教えていただけますか?
阿部:独立前は集団指導の予備校や、上場企業の個別指導塾で講師として働いていました。その間に別の業種での経験も積みましたが、教育の現場に戻ってきました。どちらの教育現場でも多くのことを学びましたが、最終的に「自分の思うように教育がしたい」という思いが強くなり、独立を決意しました。それぞれの現場である程度は自分の考えを実現できていましたが、完全な形で理想の教育を実践するには独立しかないと考えたんです。
ー独立されて実現したかった教育とはどのようなものだったのでしょうか?
阿部:英語教育は少しずつ変化してきていますが、独立当初はまだ4技能重視の流れは今ほど強くありませんでした。文法中心の従来型の受験指導が主流で、特に「話す」「書く」といったアウトプットの部分は軽視される傾向にありました。最近になって4技能試験の導入が検討されましたが、特にスピーキングの評価の難しさから一部見送られるなど、まだまだ過渡期にあると感じています。
私は常々、英語はトータルで見るべきだという考えを持っていて、英作文などの発信型の学習も重視してきました。ただし、私自身がネイティブではないこともあり、スピーキングについては英検二次試験対策程度にとどめています。私の教室のコンセプトは「受験勉強をしながら、将来使える実用的な英語力を身につける」ということです。
医師と患者の関係性から学ぶ個別指導の真髄
ー4技能の習得において、個別指導ならではの利点についてお聞かせください。
阿部:個別指導の良さは、生徒一人一人の思考プロセスを深く理解できる点にあります。なぜそのように考えてしまうのか、なぜその間違いが起きるのかを、じっくりと観察し分析することができます。
10数年の指導経験を通じて、日本人特有の間違いのパターンも見えてきました。これは言語構造の違いや文化的背景に起因することが多いのですが、同時に生徒個人特有の癖というものも存在します。長年の経験で、これらの間違いパターンも類型化できるようになり、より効果的な指導が可能になってきました。
ー生徒さんとのコミュニケーションで特に意識されていることはありますか?
阿部:医師が患者さんを診るように、一人一人の生徒さんの状態を丁寧に観察し、最適な指導方法を見出していくことを心がけています。特に伸び悩んでいる生徒さんに対しては、かなりの忍耐が必要です。同じことを何度も指摘し、時には感情的なやり取りになることもありますが、諦めずに続けた生徒さんは必ず成長を遂げています。
ただし、考え方に独特の癖がある生徒さんの場合は、短期間での改善は難しいことも多いですね。間違いの根本が性格的な部分に起因している場合は、特に時間がかかります。
独自の指導メソッドと授業スタイル
ー具体的な指導方法について、特徴的な点を教えてください。
阿部:特徴的なのが、講師である私自身が授業準備としての予習をしないということです。これは一見デメリットに思えるかもしれませんが、その場で生徒が問題を解く視点を講師側と共有できるため、どこに注目して解くべきかを指導にリアルに反映できるという利点があります。
新人講師時代は答えを間違えることを恐れてメモを取っていましたが、今では生徒と共に考えることで、より深い理解につながっていると実感しています。生徒にとっての大きなメリットは、「目の前にいる先生が、まさに今、自分と同じ視点に立って問題を解いてくれるので、どこに注目して、どういうプロセスで解けばいいのかが手に取るように分かること」です。
そして、「今日これをやりたい」という生徒の意欲に即座に対応できる柔軟性も、個別指導ならではの強みだと考えています。
これからの英語教育と個別指導の可能性
ー英語教育の変化を踏まえた今後の展望についてお聞かせください。
阿部:英語教育の変化を注視しながら、柔軟に対応していきたいと考えています。特に総合型選抜(旧・AO入試)の比率が上がってきていることで、従来とは異なる形で英語学習のニーズが出てくると予感しています。
予備校の大手である代ゼミの事業縮小は象徴的な出来事でした。従来型の大型教室での集団指導が成立しにくくなっている中で、個別指導には様々なニーズに柔軟に対応できる強みがあると考えています。大手の集団指導塾も様々な工夫を凝らしていますが、個別指導にはより柔軟な対応が可能という特徴があります。
高校生の英語学習 – 成功への道筋
ー高校生の英語学習について、開始時期や注意点を教えてください。
阿部:英語学習の開始時期は、目標によって大きく変わってきます。高校卒業後すぐにアメリカへ留学したい生徒さんもいれば、国内の大学進学を目指す生徒さん、推薦入試で早期に進路を決めたい生徒さんなど、様々です。
ただし、できるだけ早く、遅くとも高校2年生までには本格的な学習を始めることをお勧めしています。特に高校3年生の夏に駆け込みで来られる方の場合、時間的制約から可能な対策が限られてしまいます。
ー基礎固めの時期について、具体的なアドバイスをお願いします。
阿部:大学受験に必要な文法項目は、高校1年生のうちに一通り習得しておくのが理想的です。中学校で不定詞を学び、高校でより複雑な不定詞を学ぶというように、文法項目は螺旋的に難度が上がっていきます。高校1年生の間に大学受験レベルの文法知識を一通り身につけておけば、その後は抜けている部分を補いながら応用問題に取り組むという効率的な学習が可能になります。
実際、過去に高校2年生の時点で大学入試の過去問に取り組めるレベルまで到達した生徒さんもいました。その生徒さんは高校1年生の途中で英検準1級に合格し、難易度の高い問題にも対応できるようになっていました。これは特別なケースですが、高校1年生までに基礎をしっかり固めておくことの重要性を示す好例だと思います。
『Eigojuku英語塾-鎌倉教室』が目指す教育の形
ー具体的にどのような生徒さんに来ていただきたいですか?
阿部:当教室には、成績に悩む生徒さんから東大を目指す高校3年生まで、様々なレベルの方が通われています。「成績が全然上がらない」という相談から、「早大や東大を目指しています」という高い目標を持った生徒さんまで、幅広く対応しています。
傾向としては公立中学校の生徒さんよりも中高一貫校の生徒さんが多いのですが、これは現状たまたまそうなっているだけで、特に私立学校の生徒さんを優先しているわけではありません。どのような方でも、目標に向かって一緒に取り組んでいける環境を整えています。
これから英語学習を本格化させる生徒・保護者の方々へ
ー最後に、英語学習に取り組む生徒さんや保護者の方々へメッセージをお願いします!
阿部:生徒の皆さんへは、特に単語学習の重要性を強調したいと思います。英検対策を例にとると、最初の4択問題は一見、大学入試の問題に似ていますが、実は文法的な難しい仕掛けはありません。単語力さえあれば十分に解ける問題なんです。単語をしっかり覚えることは、長文読解やリスニングにも直結する基礎力となります。これは自学自習でも十分に取り組める部分なので、ぜひ力を入れていただきたいですね。
保護者の方々へは、高校生の自主性を尊重することの大切さをお伝えしたいと思います。この年齢になると、すでにある程度の学習スタイルが確立されています。ただし、受験を見据えた場合、できるだけ早めの対策開始が効率的だということは覚えておいていただければと思います。早期からの計画的な学習が、より多くの選択肢と可能性を生み出すことになるでしょう。