「働く喜び」と「社会貢献」を同時に実現 ー 障がい者就労支援事業所『ホープ』代表 斎藤博之氏が語る‟真の自立支援”

障がい者の就労支援において、「働く場所の提供」と「経済的自立」の両立は長年の課題とされてきました。しかし、北海道札幌市で10年以上にわたり障がい者就労支援事業所を運営する斎藤博之氏は、この課題に真正面から取り組み、独自の解決策を見出しています。

再生自転車販売事業では北海道一の実績を上げ、利用者の経済的自立を実現。さらに、たい焼き・たこ焼き店の運営や犬用クッキーの製造など、多角的な事業展開により、一人ひとりの適性に合った働き方を提供しています。そして特筆すべきは、利用者自身が「支援される側」から「支援する側」へと成長し、地域社会に貢献する存在となっていることです。

今回は斎藤氏に、従来の就労支援の枠を超えた『多機能型就労支援事業所 ホープ』の取り組みについて、その理念と実践、そして未来への展望を詳しく伺いました。

『ホープ』が目指す就労支援の形

ー 本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは、『ホープ』がどのような方を対象に、どういった支援サービスを提供されているのかをお聞かせください。

斎藤:知的障害、精神障害、身体障害、それから難病の方など、障がい者全般の就労支援を行っています。利用者は20歳前後から70代までと幅広く、現在約30名の方が通所されています。就労移行支援及びB型の多機能型施設として、一人ひとりの希望や能力に応じた支援を提供しています。

特徴的なのは、週1回の研修活動です。若者グループと年配者グループに分かれ、仕事をする上で必要な考え方や心構えを学んでいます。例えば報告・連絡・相談の重要性や、約束を守ることの大切さ、感謝の気持ちを持つことなど。これらは単なる座学ではなく、実際の仕事の中で活かせる実践的な内容となっています。

人間関係の基本を大切にしながら、実践的なスキルを身につけられるよう工夫しています。私たちが研修で教えることは、自転車販売やたい焼き・たこ焼きの仕事など、実際の業務に直接つながっています。

革新的な取り組みの原点

ー 斎藤様がこの支援サービスを始められた経緯について教えてください。

斎藤:私は以前、協同組合の連合団体で28年間働いていました。これは弱い立場の人々が集まって共同して行う、歴史ある協同運動の流れを汲む仕事でした。

その後、人生の意味を深く考える時期がありました。大学時代から「人間とは何か」「生まれてきた意味は何か」といった哲学的な問いに向き合い続けてきました。退職後は約4年間の充電期間を取り、その間に海外で妻と暮らしながら、違った視点から日本を見つめ直す経験もしました。

そして、困っている人々のために働きたいという強い思いを持つようになり、まず相談支援の活動から始めました。その中で障がい者の方々からの相談が増えていく中で、驚くべき実態が見えてきました。多くの事業所が、国からの給付金目当てで運営され、利用者に対して十分な支援や仕事を提供していないのです。

特に衝撃的だったのは、利用者を集めさえすれば一定の給付金が得られるという仕組みを悪用し、十分な支援も提供せずに運営している事業所が少なくないという現実でした。そういった「障がい者ビジネス」と呼ばれる状況に強い問題意識を感じ、本当の意味で利用者の自立を支援できる事業所を作ろうと決意しました。

そこで、利用者が真にやりがいを持って働け、かつ経済的にも自立できる場所を目指して、現在の事業をスタートさせたのです。この想いは今も変わらず、むしろ年々強くなっています。

独自の支援モデルの確立

ー 他の就労支援サービスにない特徴や、最も大きなアピールポイントを教えてください。

斎藤:私たちの最大の特徴は、2つの観点からのサポートです。

1つは、知的障害を持つ若い方々への支援です。親御さんの最大の心配は、「この子が社会で暮らし、楽しく仕事ができ、経済的に自立できるか」ということ。その不安を解消できるよう、まともな仕事とやりがい、そして十分な工賃を提供することを目指しています。

もう1つは、年配の方々への支援です。精神的な問題を抱えて社会から離れていた方々が、再び社会復帰するための橋渡し役となっています。彼らの多くは真面目で、むしろ真面目すぎるがゆえに悩んでしまう。そんな方々に「問題の多くは社会の方にあり、自分のせいだと思いこまないように」というメッセージを伝え、再出発を支援しています。

挑戦から実績へ ー 障がい者支援の新たな地平を切り開く

ー 実際に、どのような事業を展開されているのでしょうか?

斎藤:最も規模の大きい事業が、ホープ再生自転車販売です。創業から10年目を迎え、現在では北海道一の中古自転車販売店として評価されています。年間2,500台もの販売実績があり、毎日10台以上の自転車を整備・販売する必要があるほど忙しい状況です。

創業当初は「障がい者が自転車店を運営するのは無理だ」と言われました。札幌には20社以上の中古自転車専門店があり、ノウハウもない状態からのスタートでした。しかし、1年目で160台販売し、2年目には飛躍的に930台販売となり、障がい者の取組みという話題性もあったため、テレビや新聞の記者さんにたくさん取材していただきました。以降、丁寧な整備状況と手頃な価格設定が評価を高め、右肩上がりの販売実績となっており、マスコミには既に累計で30回以上取り上げていただいております。

ホープ再生自転車の命名の経緯をお話しすると、ある利用者の想いから始まっています。その想いとは、「自転車修理をする過程で、その自転車を自分のことのように思ったという。つまり自分は廃人みたいなもので、何の価値もないと思っていたが、廃棄物一歩手前の自転車が、再生し、よみがえっていくことに直接たずさわり、それが実現していくと、まるで自分のことのようにうれしく、自分にも可能性を感じた」というものでした。その話に感動した私は、単なる中古自転車店ではなく、自転車の再生そして心の再生でもある。そこでホープ再生自転車と命名したのです。

そして、利用者たちは自信を深め、店舗のレイアウトも自分たちの手で作り上げ、丁寧な整備と手頃な価格設定が評価され、現在では北海道でも指折りの実績を誇っています。利用者たちも、北海道一の販売実績を持つ店で働くことに誇りを持ち、社会的責任を感じながら仕事に取り組んでいます。

また、たい焼き・たこ焼き店の運営も行っています。札幌でトップクラスの美味しさと評価されているほどの人気店です。他にも、犬用クッキーや自転車部品を利用したグッズは、全国展開しており、多角的な事業を展開しています。

人間性を重視した支援の実践

ー 支援をする際に特に意識されていることはありますか?

斎藤:最も重視しているのは、誠意を持って人と接することです。「あなたの隣人を自分自身のように愛しなさい」という言葉を事業所の看板に掲げているように、相手を思いやる心を大切にしています。

特筆すべきは、利用者自身もサポートする側になれるという点です。月2回開催している「ホープ食堂」では、約100食を無償提供していますが、その調理や運営の6-7割は利用者が担っています。常にサポートされる側ではなく、自分たちも社会に貢献できるという実感を持ってもらうことが重要だと考えています。

また合わせて、生活に必要な子供用のスキーや靴、衣料や靴等を集めて、提供する支援も行っています。これらの活動を通じて困っている人を気遣い、サポートする心が養われていきます。

経済的自立への取り組み

斎藤:私たちは、利用者の経済的自立を重要な目標の一つとして掲げています。現状の福祉制度において、生活保護制度は確かに必要不可欠なセーフティネットです。しかし、就労可能な方々が、制度に依存することで本来の可能性を制限してしまうケースを、私は数多く見てきました。

そこで私たちは、「働く」ということの本質的な価値を大切にしています。一人ひとりの能力に応じて精一杯働き、その結果として得られる収入を基盤とする。そして、必要な場合は生活保護制度を補完的に活用するという考え方です。これは決して生活保護制度を否定するものではなく、むしろ制度本来の趣旨に沿った活用方法だと考えています。

特に若い利用者の方々には、将来の自立に向けた具体的なビジョンを示すことを心がけています。親御さんと定期的に面談を行い、現在の状況や将来の展望について共有し、必要に応じて支援計画の見直しも行っています。私たちの事業所で働く利用者の多くが、障がい年金と工賃を組み合わせることで、一定水準の収入を確保できています。

また、経済的な自立は単なる収入の問題ではありません。仕事を通じて社会的責任を果たし、地域社会に貢献できているという実感が、自尊心や自信の向上にもつながっています。例えば、自転車販売事業では、安全で信頼できる商品を提供する責任を担っているという誇りを持って働いています。

このように、経済的自立と精神的な自立は、車の両輪のように互いに支え合っているのです。そして、このバランスの取れた自立支援こそが、私たちの目指す「まともな支援」の核心なのです。

人生の質を真に向上させる支援を実現するためには、従来の福祉的な発想に加えて、ビジネスとしての視点も必要です。その意味で、私たちは常に新しい事業機会を探り、利用者の可能性を広げる取り組みを続けています。

限界なき挑戦 ー さらなる高みを目指して

ー 今後、より強化していきたい点について教えてください。

斎藤:私たちは受け入れ人数に制限を設けていません。30人、35人、40人、50人でも、来たい人は誰でも受け入れる方針です。そして、新しいことにチャレンジしたい人がいれば、新規事業も積極的に立ち上げていきたいと考えています。

地域との関わりも大切にしており、振興会への参加や地元の高校の学園祭への出店なども行っています。私たちの理念や考え方は決して秘密にするものではなく、むしろ積極的に社会に広げていきたいと考えています。

障がい者が自分の力で人生を切り開き、なおかつ社会貢献もできる。そんな理想の世界を、制度が整うのを待つのではなく、自分たちの手で作り上げていきたいと考えています。

共に描く明日への一歩 ー 新しい仲間へのメッセージ

ー最後に、サービスの利用を検討されている方へメッセージをお願いします!

斎藤:やりがいのある仕事を探している方は、ぜひ一度体験に来てください。私たちの事業所では、一人ひとりの可能性を最大限に引き出せる環境が整っています。自転車販売、たい焼き・たこ焼き店の運営、クラフト制作など、その方の適性や興味に合わせた多様な仕事があります。まずは実際に体験していただき、自分に合っているか確かめていただければと思います。

「障がい者だから」という既成概念に縛られることなく、一人の人間として、自分の力で人生を切り開いていく。そして、困っている人々をサポートできる存在として成長していく。私たちはそんな「本物の自立」を目指しています。工賃の面でも、従来の就労支援の常識を超える水準を実現しており、経済的な自立も決して夢ではありません。

理想を語るだけでなく、それを着実に実現してきた10年の実績があります。この歩みをさらに前へ進めていくため、新しい仲間の参加を心待ちにしています。私たちと共に、支援の新しい形を創っていきませんか。