築100年の古民家を舞台に子どもたちの可能性を育む、愛知県のフリースクール「大地の学校ロータス」。従来の教育の枠組みにとらわれず、一人ひとりの個性を大切にしながら、体験型の学びを通じて子どもたちの「生きる力」を育んでいます。今回は代表の今井様に、同スクールが目指しそして実践する、”教育の新たな選択肢”についてお話を伺いました。
自然と共に育む、五感を活かした独自の教育環境
ー「大地の学校ロータス」の概要や、教育内容の特徴等についてお聞かせください。
今井様:大地の学校ロータスは愛知県岡崎市の竜泉寺町にあるフリースクールです。校舎は築100年ほどの古民家を改築して利用しています。現在、小学1年生から高校3年生までの約20名の生徒が通っており、蒲郡や豊橋、遠くは名古屋から電車を乗り継いで通う子もいれば、近隣から自転車で通う子もいます。
当スクールの最大の特徴は、自然豊かな環境を活かした体験型の学習スタイルです。子どもたちは畑で野菜を育て、収穫した野菜で昼食を作るなど、五感を使って自然と触れ合いながら学びを深めています。これらの活動を通じて、教科書だけでは得られない実践的な知識と生きる力を育んでいます。
また、年々生徒の構成も変化してきており、従来の不登校支援の枠組みを超えて、新しい教育の選択肢として最初から当スクールを選ぶ家庭も増えてきています。
個性を認め合う教育を目指して
ースクールを立ち上げられた経緯やきっかけについて教えていただけますでしょうか?
今井様:そもそも私自身が学校教育に馴染めない特性を持っていました。じっと座っていられない、集団行動が苦手といった特性があり、「みんなと同じことをしなさい」という均一化を求められる教育システムの中で大きな苦労を経験しました。
社会人になってからも、大企業で働く中で上司の命令や会社の方針に従うことに困難を感じ、この課題は教育の在り方に根差しているのではないかと考えるようになりました。集団で学ぶことに違和感を感じない子は良いのですが、特性の違う子どもたちにとって、均一化を求める教育はとても苦しいものになりがちです。
そこで、一人ひとりの個性を認め、それぞれの強みを伸ばしていける新しい形の学校を作りたいと考え、大地の学校ロータスを立ち上げることを決意しました。
フリースクールの新しいかたち
ー貴スクールの活動を通して解決したいと考えている社会課題等について教えてください。
今井様:当スクールや、当スクールが所属している愛知県フリースクール連絡会で共通して感じている大きな課題が、フリースクールの「出口」の問題です。入口としての受け入れ体制は整ってきていますが、卒業後にどのように社会で活躍していけるのか、という道筋が明確でないことが大きな課題となっています。
この課題に対応するため、来年度から新しい取り組みを始める予定です。地域企業と連携し、フリースクール卒業後の子どもたちの受け皿となる組織を作ろうとしています。単なる労働力としてではなく、教育者としての視点を持って子どもたちを育てていける企業とチームを組み、伴走型の支援を実現していきたいと考えています。
実際に、すでに10社ほどの企業に声をかけ、職場体験やアルバイトの受け入れを始めています。来年度の卒業生の中には、学生時代から関わっていたIT企業への就職が決まった生徒もおり、具体的な成果も出始めています。
一人ひとりの成長に寄り添う支援
ー個性や特性がそれぞれに異なる子どもたちに対する支援の中で、特に意識されていることや具体的な対応方法があれば教えてください。
今井様:大地の学校ロータスでは、一人ひとりの支援計画書を作成しています。これは月ごとにスタッフが子どもたちの成長を記録するもので、「できなかったことができるようになった」といった具体的な変化を可視化しています。
さらに特徴的なのが、子どもたち自身による自己評価シートの作成です。友人関係の変化や自身の成長をポイント制で評価し、来年度の目標を記述します。これにより、子どもたち自身が自分の成長を客観的に見られるようになっています。
この二つの評価方法により、学年による横比較ではなく、その子自身の経年での成長を明確に示すことができます。保護者の方々からは「学年相応」という基準で考えがちですが、私たちは一人ひとりの成長の軌跡を大切にしています。
活動の場を広げ、可能性を拓く
ー今後さらに強化していきたい取り組みについて教えてください。
今井様:現在、活動範囲を岡崎市から愛知県全体へと広げていく取り組みを始めています。新城市など、車で1時間ほどの地域でもイベントや企画を展開し始めました。
将来的には、愛知県全体をひとつの大きな支援の場と捉え、様々な企業での職場体験や、名古屋市の喫茶店でのマルシェ開催など、子どもたちの活躍できる場所を広げていきたいと考えています。
また、2024年6月にクラウドファンディングを実施し、フリースクール設立から現在までの歩みや子どもたちの成長、保護者の気づきをまとめた本の出版が決まりました。年明けからAmazonでの販売も予定しており、全国の教育機関に寄贈することで、子ども主体の学びの可能性を広めていきたいと考えています。
すべての子どもたちへのメッセージ
ー最後に、スクールの利用を検討されている保護者の方へメッセージをお願いいたします。
今井様:私自身、不登校を経験し、いじめによって唯一の居場所だったアメリカンフットボール部も諦めざるを得なくなった時期がありました。その時、自分の存在価値を完全に見失っていました。
しかし、恩師から「アメフトを止めても大丈夫だよ。君は君のままで十分素敵なんだよ」という言葉をかけていただき、「生きているだけで価値がある」ということを教えていただきました。
現代は、自分の存在価値を感じにくい世の中になっているように思います。しかし、そうではありません。生きているだけで価値があると思える、そしてそれを伝えてくれる大人が世の中にいるということを、まず知っていただきたいと思います。
大地の学校ロータスでは、勉強ができるかどうかは関係ありません。「生きているだけであなたには愛される価値がある」というメッセージを、すべての子どもたちに伝えていきたいと考えています。もし共感していただける方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度足を運んでいただければ嬉しく思います。