フリースクールでの16年にわたる教員・管理職経験を活かし、オンライン家庭教師とコミュニティスペース運営を通じて不登校支援などに取り組む『ワライグマ』代表・小林様。年齢を問わない学び直しの場の提供と、LINEを活用した日常的な関わりで、従来の教育支援の枠を超えた取り組みを展開しています。フリースクールの開設も予定されている中、社会と教育の狭間で悩む若者たちに、新しい選択肢を提供する取り組みについてお話を伺いました。
現在の事業内容について
ーワライグマではどのような活動を行っているのか、概要を教えていただけますでしょうか?
小林様:主に不登校または学び直しが必要な生徒、学習が苦手な生徒に向けたオンラインの家庭教師を行っています。毎週1回50分間の指導を行い、教科を限定せずにその子に応じた学習カリキュラムを組んでいます。同時に毎日LINEで連絡を取れる仕組みを作っており、学校での悩みであったり、日々の悩みも含めていつでもLINEで連絡が取れる状態にしています。
例えば、宿題で分からないところがあれば写真を撮って送ってもらい、それに対してアドバイスを返すなど、日常的なサポートを心がけています。オンラインという特性を活かし、時間や場所の制約を超えた支援を実現しています。
また、来年2月には千葉県野田市にフリースクールを開校する予定です。居場所づくりとしてはもちろん、探究活動を通じて自己実現を目指していくカリキュラムの実施など、生徒様の状況に応じてお選びいただけるいくつかのコースを設置予定で、自立と共生を目的とした教育を展開する予定です。
なおフリースクールを実施する予定のスペースは、現在のところは無料の居場所「ワライグマ基地」として運営しており、毎週月曜日に地域の方々に開かれた場として開放しています。
設立の経緯について
ー独自に支援活動を始められた背景について教えていただけますでしょうか?
小林様:以前勤めていたフリースクールは学習に特化しており、各学年できちんと教科書を使って授業をしていました。しかし、なかなか学習に取り組めない生徒や、家を出るだけで精一杯な生徒もいます。また、高校を卒業しても、外に出て行った後にうまくいかないケースも見受けられました。
高等部のサポート体制があっても、卒業後の支援には限界があります。高卒認定を取得させ、進学や就職を決めることはできても、社会に出てから躓いてしまうケースが少なくありません。そこで、年齢を制限せずに学び直しや社会性を身につけられる場所が必要だと考え、自分で作ることを決意しました。19歳、20歳を超えても支援を続けられる仕組みを作りたいと考えています。
教育支援における課題意識
ー現在の教育支援について、どのような課題を感じていらっしゃいますか?
小林様:公教育の学校に行けなくなった時、行政管轄の教育相談施設では対応が難しく、経済的な事情が整っていればフリースクールという選択肢がある、というのが現状です。お金があれば選択肢があるという点が、一つの社会的な課題だと考えています。
同時に、フリースクールの中身を見ると、ただの居場所になっていて、次のステップになかなか進めないケースもあります。居心地が良いがゆえに、学校復帰や社会への一歩を踏み出せないということも起こっています。もちろん、新しい環境に慣れるために、まずは楽しい体験を重ねることは大切ですが、そこからの段階的な成長をどう支援していくかが重要です。最終的な出口の問題が大きいと感じています。
就労支援への取り組み
ー就労支援についてはどのようにお考えですか?
小林様:就職支援は非常に難しい課題です。企業の受け入れ体制がまだまだ整備できていない現状があり、経済的な問題も絡んできます。実際に就職しても、仕事が合わずに続かないケースも少なくありません。
私の理想としては、このフリースクールの中で子どもたちの得意なことを仕事にできる環境を作ることです。絵が好きな子、パソコンが好きな子、電車が好きな子など、それぞれの興味関心や特性を活かせる道を、伴走しながら見つけていきたいと考えています。
支援における重要な視点
ー支援にあたって特に大切にされている考えはありますか?
小林様:支援が必要な生徒様には、いわゆる発達障害の傾向があるお子様も少なくなりません。支援に際して特性理解は大切で、実際に発達障害に関する理解や知識は確かに進んできましたが、”うちの子は発達障害だから”と、発達段階の途中なのにいろんなものを諦めてしまっているように感じることがあります。医者ではない私は、その子が発達障害なのかどうかという目では見ず、その子本来の姿を見るように心がけています。
教育は三者連携で進めていく必要があり、学校で学んだことが社会で活かされるという観点が重要です。苦手だからできないと全てを諦めてしまうと、最終的な選択肢が狭まってしまう懸念があります。子どもたちの可能性を信じ、様々な選択肢を提供していく姿勢が大切だと考えています。
これからの展望
ー今後の展開についてお聞かせください。
小林様:義務教育を終えた後の支援には課題が多く、発見が遅れているケースも少なくありません。不登校の背景には、家庭の問題や経済的な事情など、様々な要因が絡み合っています。そのため、スクールソーシャルワーカーの方や重層的支援体制整備事業に関わる方々など、様々な機関との連携を重視しています。
地域の中で教育機関としてのハブとなり、それぞれの課題に応じた支援につなげていければと考えています。居場所を提供するだけでなく、次のステージに向けた教育的な支援ができる体制を整えていきたいと思います。
悩みを抱える方々へのメッセージ
ー最後に、記事をご覧になる方々へメッセージをお願いします。
小林様:現状で家の中にいて孤立感や孤独感を感じている方も多いと思います。しかし、私たちを含め、様々な方が支援の手を差し伸べようとしています。まずはその情報を知っていただき、声を上げてほしいと思います。
また、ワライグマが実施しているオンラインでの支援では、毎日出席ボタンを押していただくことで繋がりを持ち、孤立感や孤独感の軽減を図っています。「今日もありがとう」というメッセージを通じて、私たちもその生徒の生活リズムを把握し、一人一人に寄り添った支援を心がけています。
公共機関のホットラインは敷居が高く感じる方でも、日々繋がっている相手なら相談しやすいのではないでしょうか。困ったときは、ぜひ気軽にご連絡ください。