特定非営利活動法人まねきねこは、演劇やねんど、コミュニケーションを通じて子どもたちの表現力を育む活動を行っています。
「上手い」「下手」は一旦置いて、まずは表現することの楽しさを知ってもらいたい。その想いと取り組みについて、代表の仲野さんにお話を伺いました。
小学生・中学生の表現力を育む3つの活動の実践
ー団体の概要について教えてください。
仲野:小学生・中学生を中心に、主に表現に関するワークショップを行っています。具体的には演劇、ねんど、お話をするという3つの活動が中心です。
どのワークショップでも、まずは自由に表現することを大切にしています。「上手い」「下手」という評価は一旦置いておいて、表現することを楽しんでもらい、そこから技術を磨いていくという流れで進めています。
俳優の経験から得た「楽しく学ぶ」という新しい教育観
ー活動を始めたきっかけや経緯について教えてください。
仲野:私は以前、東京で俳優として活動していました。その際、インプロ(即興演劇)というトレーニングに出会ったことが大きなきっかけです。それまでの演劇トレーニングは厳しく、批判されることが多かったのですが、インプロは違いました。
ゲーム感覚で楽しみながら自然と実力がついていく。この「楽しみながら上手くなれる」という経験を、子どもたちにも伝えたいと思ったんです。
活動の場を東京から愛知県に移した際、地域に子どもが多いことに気づき、子ども向けの講座を始めることを決意しました。
勉強は辛くて楽しくないというイメージを持つ子どもたちに、楽しいから続けられる、そして続けることで上手くなれるという体験を提供したいと考えたのです。
演劇・ねんど・スピーチで広がる子どもたちの想像力と表現力
ー実際に行っている活動の内容について具体的に教えてください。
仲野:まず1つ目は即興演劇です。台本を使わず、自分で考えて自分で話す練習をします。これをゲーム形式で行うことで、子どもたちは楽しみながら相手と協力して即興で演技ができるようになっていきます。
2つ目はねんど作品の制作です。毎回テーマとなる動物を決め、まずはクイズを通してその動物について楽しく学びます。その後、学んだ内容を踏まえてねんどで作品を作ります。
例えば「首の長いペンギン」など、子どもたちの想像力で独自の作品が生まれることもあります。知識を得て、想像を膨らませ、創造するという流れを大切にしています。
3つ目は「お話をする」活動です。写真やスライド、紙芝居などを活用しながら、自分の体験や好きなことについて話す練習をします。普段は話すことが苦手な子どもたちも、安心できる環境のなかで徐々に自分らしい表現方法を見つけていきます。
表現を育む環境づくりとゲーム形式による段階的な学び
ー他の子ども向けに活動を行っている団体にはない、独自の取り組みや学びについて教えてください。
仲野:私たちが特に大切にしているのは、表現しやすい環境づくりです。子どもたちが集まることで、ときには表現しにくい状況が生まれることもあります。
その場合は子ども達に「自分が楽しいだけでなく、相手も楽しくするにはどうすればよいか」を考える機会を与えるなど、より良い環境をつくれるよう教育を行っています。
また、すべての活動をゲーム形式で行うことも特徴です。例えば、お芝居で「自分ばかり話して相手の話を聞かない」という課題がある場合、直接指摘するのではなく相手の話を聞かないと進められないゲームを取り入れ、遊びながら課題を解決できるよう工夫しています。
適切な指導と安心できる場づくりの両立
ー実際にお子さんと触れ合うなかで特に意識していることや方針などについて教えてください。
仲野:私たちの活動は一見すると過保護に見えるかもしれませんが、決してそうではありません。良くないことはすぐに指摘し、改善を促します。
なぜなら、楽しい空間をみんなでつくるうえで、一人の良くない行動を見過ごすことで他の子どもたちが嫌な思いをするケースがあるからです。
ただし、そういった指導を行う際も、怖がらせないよう配慮しています。多くの子どもたちは単に「知らない」だけで、適切に教えれば改善できると考えています。
その子が特別おかしいのではなく、これまで学ぶ機会がなかっただけだと捉え、丁寧に指導するように心がけています。
新たな挑戦への意欲と表現することへの自信
ー今後、より強化していきたいことや取り組んでいきたいことについて教えてください。
仲野:今後の展望として、2つの方向性を考えています。1つは、より実践的な学びの場の提供です。
現在は室内での活動が中心ですが、今後は動物園や水族館などで実際の生き物を観察しながらねんど作品を作るなど、より豊かな体験の場を設けていきたいと考えています。
もう1つは、発表の機会の創出です。現在は閉じられた空間での活動が中心ですが、将来的には保護者や一般の方々の前で発表する機会も設けていきたいと思います。
たとえ完璧でなくても、自分の表現に自信を持って発表できる経験は、子どもたちの大きな財産になるはずです。
ーこの記事をご覧になるお子さんや保護者様に向けたメッセージをお願いします。
仲野:人は誰しも表現したい気持ちを持っています。しかし、表現し始めた頃は誰でも上手くできないものです。その時期に厳しい評価を受けすぎると、表現することそのものを避けるようになってしまいます。
私自身、小学2年生の時に「音痴だ」と言われ、それ以来、鼻歌すら歌えなくなった経験があります。
そういった経験を持つからこそ、まずは「上手い下手」を置いておいて、表現すること自体の楽しさを感じてほしいと思っています。
特に「表現が苦手」「嫌い」と感じている子どもたちこそ、ぜひ一度、私たちの活動に参加してみてください。きっと新しい発見があるはずです。