近年、eスポーツは世界的に急成長を遂げており、2024年にはついにオリンピック競技としても採用されることが決定しました。その注目度の高まりとともに、eスポーツを活用した新しい取り組みも生まれています。その一つが、『就労継続支援B型事業所ONE GAME(ワンゲーム)』です。
従来の就労支援施設では、軽作業やパン作りなどが中心的な活動でしたが、ONE GAMEはeスポーツを活用した革新的なアプローチで、障がいを持つ方々の可能性を広げています。選手としての活動はもちろん、実況・解説、イベント運営など、eスポーツに関わる様々な職種のスキルを習得できる場を提供しています。
全国に30施設以上を展開するONE GAMEの特徴は、単なるゲームセンターではありません。それは、障がいを持つ方々が自分の興味や才能を活かしながら、社会で必要とされるスキルを楽しく身につけられる、新しい形の就労支援の場なのです。今回は、事業担当者の濱川博成様に、その革新的な取り組みについて詳しくお話を伺いました。
eスポーツを活用した新しい就労支援の形
ー従来の就労支援とは一線を画す『ONE GAME』の革新的なサービスについて、概要を教えてください。
濱川:当事業所は就労継続支援B型事業所として、18歳以上の障がいを持つ方々の就労訓練を行っています。一般的な就労継続支援B型事業所では、パン作りやスポーツ用品の塗り替えなどの軽作業が中心となっていますが、私たちは「eスポーツ」に特化した事業所として運営しています。
eスポーツとは、電子機器を使った対戦型のスポーツで、ゲーム機を使用した‟マインドスポーツ”というジャンルに位置づけられます。このような特徴的な取り組みを始めたきっかけは、運営母体である株式会社ワンライフが群馬県で10数年にわたって福祉サービスを提供してきた中で、新たな障がい福祉の形を模索したことにありました。
当初は前例のない取り組みでしたが、eスポーツという新しい分野への注目度の高さもあり、各方面からの問い合わせが非常に多く寄せられました。そこで、このビジネスモデルをフランチャイズ展開することを決意し、現在では札幌から沖縄まで全国各地に展開するまでに成長しています。
障がいの有無を超えた可能性の開拓
ー従来の就労支援ではなく、eスポーツを選ばれた理由について、もう少し詳しく教えていただけますか?
濱川:就労継続支援を利用される方の中には、うつ病などの精神面での障がいをお持ちの方が多くいらっしゃいます。そういった方々が自分の強みや趣味を活かしながら仕事のスキルを学べる環境を作りたいと考えました。
また、通常のスポーツでは障がい者と健常者が分けられて行われることが多いのですが、eスポーツの場合は障がいの有無に関係なく一緒に参加できるという大きな特徴があります。この点も、eスポーツを採用した重要な理由の一つです。
業界トップクラスの充実した支援体制
ーONE GAMEの特徴的なアピールポイントについて、詳しく教えてください。
濱川:私たちの最大の強みは、ゲームメーカーとライセンス契約を結んでいることです。また、単に選手の育成だけでなく、イベントの企画・運営、実況・解説など、eスポーツにまつわる様々な職業に関するスキルを学べる環境を整えています。
特に重要なのは、「障がい者が作る、障がい者eスポーツ」という私たちのビジョンです。選手コース、実況コース、イベントコースという3つのコースを設けることで、障がいを持つ方々が自分たちでイベントを企画・運営し、選手が対戦し、その様子を実況・解説するという、完結したeスポーツイベントの実現が可能になっています。
現在、オープン済みの施設の数だけでも30を超えており、その多くがフランチャイズとして展開されています。この急速な成長の背景には、コロナ禍におけるeスポーツ市場への注目度の高まりや、障がい福祉を通じた地域貢献への関心の高まりがあります。各フランチャイズオーナーは、成長市場であるeスポーツへの投資意欲に加え、障がいを持つ方々が地域に根付いて活動できる場を作りたいという思いを持って参画されています。
自信を育む独自の指導方針
ー利用者の方々への指導において、特に意識されていることはありますか?
濱川:私たちが最も重視しているのは「チャレンジすること」です。精神障がいをお持ちの方の中には、自信が持てない、苦手なことを避けたいと感じる方が多くいらっしゃいます。しかし、趣味を活かしながら何度もチャレンジし、成功体験を重ねることで自信を育むことができます。この自信は、将来の就職活動や実際の職場でも大きな力となります。
また、各利用者の特性に合わせた環境づくりも重要視しています。一般的な就労支援では流れ作業的な軽作業が中心となりがちですが、そういった作業に集中力を保てない方も少なくありません。一方で、eスポーツという自分の好きな分野であれば、自然と集中力が持続する方が多いのです。
さらに、eスポーツイベントの中での役割分担を明確にすることで、それぞれが自分の役割に責任を持って取り組めるようになります。実況、解説、MC、チームリーダー、データ分析、映像担当など、多様な役割があり、各自が得意分野で活躍できる場を提供しています。
3つの特色あるコースで可能性を広げる
ー提供されているコースについて、詳しく教えていただけますか?
濱川:私たちは「選手コース」「実況コース」「イベントコース」の3つのコースを用意しています。
選手コースでは、ゲームの技術向上に加えて、動画編集や大会参加を通じた成長を目指します。
実況コースでは、発声方法や滑舌、呼吸法など基本的なスキルを学びながら、実際のイベント実況や動画制作に取り組みます。
イベントコースでは、月1回程度のイベント開催を目標に、機材の操作やスライド制作、企画会議などを行っています。
全コースに共通しているのが動画制作のスキル習得です。これらのスキルは、YouTubeでの活動やコールセンター業務、受付業務など、様々な職種で活かすことができます。最近では、クラウドソーシングプラットフォーム「ココナラ」などでも、声の収録依頼が募集されており、実況コースで培ったスキルを活かせる機会が増えています。
また、各コースの学習には、業界で有名なプロフェッショナルが監修したeラーニング教材を導入しています。Live(リベ)さんやふり~ださん、吉﨑 智宏さんといった業界の第一人者による教材で、質の高い学習が可能です。
就職実績と支援の実際
ーサービスを受けられた方々の就職先について教えてください。
濱川:多くの方が「eスポーツ関連の職種にしか就職できないのでは?」と考えがちですが、実際にはそうではありません。ONE GAMEでは、eスポーツを通じて自己成長を促すことを目的としており、就職先は一般企業や障がい者雇用が中心となっています。
ここで学んだチャレンジ精神や自信、そして様々なスキルは、どのような職場でも大きな強みとなります。実際に、動画制作やコミュニケーションスキルを活かして、様々な業界で活躍している修了生も多くいます。
より高みを目指して
ー今後の展望について教えてください。
濱川:最近、eスポーツがオリンピック競技として採用されるというニュースがありました。私たちは、障がい者が主体となって作り上げる「障がい者eスポーツ大会の実現」を目指しています。将来的には、パラリンピックの種目としてeスポーツが採用されることを視野に入れた取り組みを進めていきたいと考えています。
新しい可能性への第一歩
ー最後に、サービスの利用を検討されている方々へメッセージをお願いします!
濱川:一般的な就労支援でなかなか思うように進まない方、自分に合わないと感じている方も、ONE GAMEで成長している例が数多くあります。eスポーツやゲームに興味のある方は、ぜひ一度ONE GAMEの門を叩いていただき、新しい可能性にチャレンジしてみてください。
現在使用しているゲームタイトルは、SEGA社のぷよぷよeスポーツとUBISOFT社のレインボーシックスシージの2タイトルが中心です。これらのタイトルを通じて、技術向上はもちろん、コミュニケーション能力や集中力、責任感など、社会で必要とされる様々なスキルを楽しみながら身につけることができます。
私たちは、軽度の精神障がい者を中心に発達障がいや知的障がい含めて、それぞれの特性や興味に合わせた支援を行っています。一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、社会での活躍を支援することが私たちの使命です。皆さんの新たな一歩を、ONE GAMEで踏み出してみませんか。