より良い家庭環境のためにー家族の時間を取り戻す「NPO法人そるな」の挑戦

現代社会において、共働き世帯が増加し、生活様式が多様化する中で、家事の負担に悩む声は年々高まっています。

「家事は自分でするもの」という固定観念から、支援を受けることに躊躇する方も少なくありません。

そんな中、家事支援を通じて新しい価値観を提案し、より良い家庭環境づくりを支援する活動を続ける「NPO法人そるな」の岩瀬陽子さんにお話を伺いました。

理想の家族像から見えてきた現代社会の課題

ー 家事支援のNPO法人を立ち上げられた経緯を教えてください。

岩瀬さん:私は元々、サザエさんの磯野フネさんのような、古き良き母親像に憧れを抱いていました。

私は都内の共働き世帯で育ち、両親は常に忙しく、家庭内でのストレスも少なくありませんでした。

そんな環境で育った私は、「もっと家族が穏やかに過ごせる家庭を作りたい」という思いを強く持つようになりました

しかし、大学で栄養士の資格を取得し、就職活動を始めた際に、現代社会における大きな矛盾に気づきました。

男性は結婚しながらキャリアを築けるのに対し、女性は子育ての負担が必要以上にのしかかる現状があります。

実際に子育てをしながら仕事をされている方々は、自分を追い込みながら両立を図っている方もいます。

その時に気づいたのは、私が憧れていたサザエさんのフネさんのような存在は、もはや理想像でしかないということでした。

むしろ、この理想の母親像が、現代の母親たちを苦しめる要因の一つになっているのではないかと考えるようになりました。

社会課題の解決に向けた新たな視点

岩瀬さん:このような気づきから、私は保育園運営会社に就職し、子育て支援の現場に入りました。

しかし同時に、より大きな課題も見えてきました。

それは、社会課題に気づき、解決策を模索できる若者の割合が、少子高齢化と共に減少していくのではないかという懸念でした。

実働を担う現役世代の割合が減るからこそ、これからの日本を支える若者一人一人の能力向上が重要になります。

そのために必要なのは、幼少期からの充実した生活環境です。

家庭という基盤をしっかりと支援することで、次世代を担う子どもたちの健全な成長を支えることができると考えました。

「お隣さん」のような存在としての家事支援

ー 「NPO法人そるな」の具体的なサービス内容について教えてください。

岩瀬さん:私たちは子育て世帯に限らず、様々な方にご利用いただける家事支援を行っています。

例えば、独身の方が結婚、妊娠、出産というライフステージの変化を経験される中で、継続的にサポートさせていただくこともあります。

子どもが無事に産まれた連絡をいただいたり、家の中にランドセルが増えたりと、ライフステージの変化に寄り添えることにやりがいを感じています。

特徴的なのは、単なる家事代行以上の関係性を築いていくという点です。

掃除や料理の効率だけを追求するのではなく、日常のちょっとした悩みや相談にも耳を傾けています。

「子どもに怒りすぎてしまった」「ランドセル選びで迷っている」といった声に寄り添い、時には経験や情報を共有することもあります。

また、様々な家庭があり、色々な価値観があることを理解するため、定期的に勉強会を開催し、支援する側のスキルアップにも力を入れています。

これは、多様性を受け入れ、より良い支援を提供するために欠かせない取り組みだと考えています。

信頼関係を重視した丁寧な支援体制

ー 活動をする中で特に意識されていることはありますか?

岩瀬さん:お客様の個人情報やプライバシーの保護には特に気を配っています。

SNSでの情報発信も行っていますが、個人が特定されないよう細心の注意を払っています。

一方で、家事支援をより身近に感じていただけるよう、日々の活動や気づきについては積極的に発信するようにしています。

サービスの内容についても、画一的な対応は行っておらず、お客様一人一人のニーズに合わせて柔軟に対応することを心がけおり、事前にヒヤリング通話でご希望を詳しく伺うことも可能です。

時間がない方には、当日その場でご相談しながら支援内容を決めることもあります。

新しい家事支援の価値創造を目指して

ー 今後の展望についてお聞かせください。

岩瀬さん:フリーランスとして家事代行を行っていた経験から、多くの方が「自分は支援を受けるべきではない」と考えている現状を痛感しています。

私たちは、家事支援や家事代行サービスを「自分が受けていい当たり前のもの」という認識に変えていきたいと考えています。

家事が無償労働として捉えられる現状は、日本だけでなく世界的にも根深い問題です。

しかし、その前提を根本から変えようとするのではなく、現代のニーズに合った新しい形を提案していきたいと考えています。

家族の形は様々で、それぞれに合った支援の形があるはずです。

様々な選択肢の中から、それぞれの家庭に合った支援の形を見つけていただければと思っています。

必ずしも私たちのサービスを利用していただくということではありません。

私たちも活動を通じて、家事支援の新しい形を提案していきたいと思います。

より良い支援の実現に向けて

ー今後、新しく取り組んでいきたいことはありますか?

岩瀬さん:現在、東京23区および名古屋市中心部で活動を展開していますが、今後はより多くの方々のお役に立てるよう、体制づくりを進めています。

ただし、単にサービスの規模を拡大するのではなく、これまで築き上げてきた質の高い支援を維持しながら、慎重に準備を進めているところです。

家事や子育ての悩みは、誰にでもあるものです。

自分のやり方が正しいのか不安に感じることもあるでしょう。

しかし、それは当たり前のことです。

家族の形に正解はなく、それぞれの家庭に合った方法があるはずです。

私たちは、皆様の「お隣さん」のような存在として、日々の生活に寄り添っていきたいと考えています。