本物の音と打ち方を伝える、和太鼓の魅力を守り続ける場/八泉和太鼓道場

日本の伝統文化「和太鼓」。

その本来の響きと打ち方を継承しながら、誰もが気軽に触れられる場として活動しているのが、神奈川県川崎市にある「八泉和太鼓道場」です。

和太鼓歴30年以上の主宰者が立ち上げたこの教室では、初心者から上級者までが一つの場で学び合い、本物の響きに触れることができます。

形式にとらわれない学びやすさ、そして本質を追求する姿勢が、多くの生徒の心をつかんでいます。

和太鼓の魅力を誰もが気軽に味わえる場として

この道場を始めたのは2003年のことです。私自身、和太鼓を30年以上続けてきましたが、かつては練習場所が限られていて、浅草の教室まで通っていた時期もありました。

そうした経験から、誰もがもっと気軽に太鼓を打てる場所が必要だと感じ、この八泉和太鼓道場を立ち上げました。

現在は、子どもクラス、初級~中級クラス、上級クラスの3つのクラスを展開しており、それぞれのレベルに合わせた丁寧な指導を行っています。

レッスンは水曜と土曜のクラスに分かれて月3回、無理のない頻度で続けられる環境を整えています。

教室はサウンドスタジオの一角にあり、和太鼓専用の部屋を常設。一般の方もスタジオを借りて自由に太鼓を練習できるようになっており、「習う」以外の関わり方も可能です。

こうした開かれた環境づくりが、開校当初からの目標でした。現在では、生徒だけでなく、一般利用者からも和太鼓の場として高く評価されています。

音を極めるために。重さのあるバチと身体操作の指導

道場の最大の特徴は「本物の和太鼓の音を大切にする」ことです。

今の和太鼓界では、パフォーマンス性が重視され、軽いバチでの派手な動きが主流になりつつあります。しかし私たちは、和太鼓本来の力強く深い音を打ち出すことにこだわっています。

そのため、昔ながらの重いバチを使用し、全身を使った打ち方を基本としています。

体の使い方も重視しており、力で叩くのではなく、脱力しながら振り切る動作を身につけることで、自然で安全な打ち方を習得します。

こうした身体操作は、怪我の予防にもつながりますし、何より音の質に大きく影響します。

特に私たちの教室では、体の仕組みにかなった打ち方を基礎から学びます。

これは子どもからご年配の方まで、誰もが無理なく太鼓を楽しめる環境を作るうえで非常に大切です。

全身を使い、自分の体と響きの関係を感じながら和太鼓に向き合う。その体験が、単なる習い事を超えた深い学びを生み出しているのです。

一人ひとりと向き合う個別指導

当道場では、私がすべての生徒を直接指導しています。講師が変わることがないため、各生徒の癖や課題を把握し、成長過程に応じた指導が可能です。

ある人は動きに違和感がある、ある人は体のどこかが固い──そうした細かなサインに気づきながら、今その人に必要な指導を届けることを心がけています。

一人ひとりとしっかり向き合うからこそ、上達の実感を持てるのです。

特に大切にしているのは、その人の「今」に必要な指導を行うということです。段階に応じて技術を積み重ねていくことが、無理なく継続していくうえで重要だと考えています。

そうすることで、生徒自身が納得感を持ちながら成長していくことができます。

年に一度の演奏会で成長を実感できる

年に1回、発表会を開いています。

これは生徒たちの1年間の成果を披露する場であり、家族や友人を招いて楽しんでもらえる大切なイベントです。

指導する中で一番嬉しいのは、生徒が「できなかったこと」が「できるようになる」瞬間を見ること。

それは本人にとっても喜びですが、私自身にとっても何よりのやりがいです。

演奏会を通じて、その成長を目の当たりにできるのは本当に貴重な時間です。

また、この発表会があることで、生徒たちは一年を通じて目標を持ちながら練習に取り組むことができます。

緊張の中で打ち込む本番の演奏を経験することで、技術的な成長だけでなく、精神的な強さや自信も育まれます。

若い世代へ、太鼓の魅力をもっと伝えたい

20年以上通ってくれている生徒さんもいる一方で、若い世代への広がりが課題です。太鼓に対して「難しそう」「敷居が高い」という印象を持つ方が多いのが現状です。

実際に太鼓の音を聞いて「やってみたい」と言ってくださる方は多いのですが、一歩を踏み出していただくには、もっと発信していく必要があると感じています。

今回こうして取材を受けたのも、そうしたきっかけになればという思いからです。

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SNSやメディアを活用しながら、太鼓の魅力を可視化し、少しでも「やってみたい」「参加してみたい」と思っていただけるきっかけを増やしていきたい。

そのために、今後は情報発信にも力を入れていく予定です。

和太鼓は日本文化のエッセンスが詰まった表現

和太鼓には、日本人の美意識や身体の使い方、リズムの取り方、楽曲構成など、古くからの文化が凝縮されています。

現代においても、和太鼓を通じて「日本らしさ」に気づけることは多いと思います。

また、海外では和太鼓が非常に人気で、日本人としてこの文化をしっかり継承し、発信していくことの大切さも実感しています。

日本人が日本の文化を語れないという現状に一石を投じたい。

だからこそ、太鼓という一つの切り口から、もっと多くの方に日本文化の奥深さを体感していただきたいと願っています。

まずは気軽に一度、太鼓に触れてみてください。初めての方も大歓迎です。

太鼓は、音を出した瞬間から誰かと繋がれる楽器です。その奥深さと楽しさに、きっと心を動かされるはずです。