児童養護施設の子どもたちに対してICTを活用した学習支援を行う、特定非営利活動法人ITサポート銀のかささぎ。2012年の設立から12年以上、施設を訪問して継続的な支援を行うアウトリーチ型の活動を展開しています。
同法人の代表である山越さんに、活動への想いや支援の現場についてお話を伺いました。
虐待を受けた子どもたちへの学習支援からスタート
ー 団体の概要についてお伺いさせてください。
山越:私たちの活動は、虐待を受けた子どもたちの支援からスタートしました。最初は東京都児童相談所一時保護所で活動を始めましたが、入所期間が2、3ヶ月と短く、半数は家庭に戻り、残りの半数は児童養護施設に移るという状況でした。
そこで、より継続的な支援ができる児童養護施設での活動にシフトしていきました。
現在は長野県内4か所、東京都内1か所の児童養護施設で、iPadを使ったICT学習支援を行っています。また、子ども食堂2か所でも依頼を受けて活動しています。特徴的なのは、私たちが「アウトリーチ」という形で施設に赴き活動していることです。
さらに、長野市から委託を受けて、生活保護を受けている約100世帯への訪問型学習支援も実施しています。支援の際は、1回につき約10人の子どもたちを対象に、3、4人のボランティアスタッフが対応しています。
ICT教育との出会いから支援活動へ
ー この活動を始めたきっかけや経緯について詳しくお伺いできますか?
山越:私はもともと、長野県千曲市の教育委員会でICT教育コーディネーターとして、先生方へのICT教育の普及に携わっていました。
その中で、ICTを活用することで、子ども一人ひとりの進度に合わせた学習が可能になることに魅力を感じていました。
そんな時、子ども虐待の分野で活動されている先生との出会いがありました。一時保護所の子どもたちは、虐待から保護されているため外出できず、学習機会が限られているという現状を知りました。
そこで、先生のお子さんである東大生の学生さんと共に、iPadを活用した学習支援を始めることになったのです。
「銀のかささぎ」という名称には、iPadの銀色からの連想と、私たちボランティアと社会を繋ぐという意味が込められています。
中国の七夕伝説で、カササギが橋となって織姫と彦星を結ぶように、子どもたちと社会を繋ぐ架け橋になりたいという想いを表現しています。
独自の支援方法とプログラミング教育への挑戦
ー 他の支援団体にはない、御法人ならではの学びや独自の取り組みについて教えてください。
山越:私たちの特徴的な取り組みの一つが、プログラミング教育です。ソフトバンクのCSR活動を通じて人型ロボット「Pepper」を3年間借り受け、プログラミングを学ぶ機会を得ました。
現在は「マイクロビット」という小型ロボットを使用し、月1回のICTラボを開催しています。
支援の現場では、子どもたちの学習意欲を高めるため、ゲームの要素を取り入れています。学習アプリでは、問題を解くとレアカードが獲得できるシステムを採用しており、子どもたちは競い合いながら楽しく学習を進めています。
紙の教材では継続が難しい子どもたちも、ICTを活用することで意欲的に取り組めています。
また、日本フィランソロピック財団の助成を受けて、「北海道の観光案内をプログラミングしよう!」というプロジェクトを実施します。
今年の8月には施設の子どもたち約20人を北海道に連れて行き、観光体験とプログラミングを組み合わせた取り組みを行う予定です。
多くの子どもたちにとって初めての飛行機体験となるため、あまり得ることのできない貴重な学びの機会を提供しています。
子どもたちとの向き合い方と今後の展望
ー 実際にお子さんと接する際に特に意識していることを教えてください。
山越:子どもたちと接する際に最も意識しているのは、過去の経緯を聞かないということです。
どういう理由で施設に入所することになったのかといった話は一切せず、代わりに将来の夢や目標について語り合うようにしています。
ー 今後の展望についてお聞かせください。
活動の財務面については、現在は企業からの協賛や助成金に支えられている状況です。NPOとして特定の委託事業に依存しているわけではないため、安定的な運営のために支援を募り続ける必要があります。
私たちの究極の目標は、このような支援活動が必要のない社会の実現です。経済格差や家庭の格差がなくなり、すべての子どもたちが適切な環境で育つことができる世の中になることが理想です。
その実現に向けて、私たちの活動を広く知っていただき、社会課題として認識していただくための情報発信も重要な使命だと考えています。
ー 最後に、この記事をご覧の方に向けたメッセージをお願いします。
山越:このような活動に興味を持っていただけた方は、ぜひ一緒に活動していただければと思います。また、企業の方々からの賛助会費など、私たちの活動を支えていただける方々のご支援もお待ちしております。
子どもたちの未来のために、皆様のお力添えをいただけましたら幸いです。